第96話 人間国へ
3052年、春。
長かった冬も終わり、はじまりの季節がやってきた。
この国では、お隣の魔術国家アーケストレスという国の影響を強く受けているため、その国の慣習をまねて春に学校ははじまる。
そして、国をささえる魔術師を
王都が動けば、国が動く、ということで、ローレシアはレトレシア魔術大学にあわせて、新しい1年にそなえて忙しなく動きはじめていた。
「サリィ! 遅れちゃうわー! はやく、はやくーっ!」
「走らないでください、レティスお嬢様。転んでしまいます」
屋敷を飛びだして、噴水まえにとまる馬車へ駆けていくレティスを玄関から見守る。
「では、くれぐれもお嬢様の身に危険が及ばないように。人間国は世界最大の国家ですが、その分、内部におおきな問題を抱えているとも聞きます。お嬢様を絶対にひとりで出歩かせてはいけませんからね。いいでてすか、エゴスさん、サラモンドさん」
「はい、承知しております」
「任せてください。レティスお嬢様の身は必ず、このサラモンド・ゴルゴンドーラがお守りしましょう」
荷物が積みあがる玄関で、俺とエゴスは体格のよすぎるメイド長にしっかりと忠告を受けていた。
エゴスと同じくらいの古株なだけに、メイド長の言葉は重たい。
というか、エゴスにこんなこと言える使用人はメイド長くらいだ。
「アヤノ、この2人をしっかりとサポートしてあげなさい」
「はい、かしこまりました」
アヤノはスッと一礼して、こちらへ黒瞳をむけてくる。
なぜか俺たちがおもりの対象にされてる気がするが、これは気のせいだろうか。
⌛︎⌛︎⌛︎
レトレシア魔術大学の企画した、ヨルプウィスト人間国への研修。一応は学校側から馬車が用意されているわけだが、そんなものを使う参加者はいない。
此度の研修に参加した10人のうち10人が貴族。
もし学校側の用意した馬車などに、片道を任せようものなら、自らの家で馬車を用意する力もないものだと捉えられ、すぐに家の品格が落ちてしまうだろう。
窓からチロッと顔をだし、隊列の前を確認する。
全部馬車の装飾が違うが、どれも派手でいかにも金持ちを誇示するかのような俺の趣味と合わない感じだ。
装飾もすくなく、実に貴族であり、魔術師である者が乗るにふさわしいだろう。
ーーカチッ
時刻は13時21分。
特権階級しか持たない機械式時計を懐にしまう。
「レティスお嬢様、起きてください。そろそろお昼になりますよ」
朝からはしゃぎ過ぎて疲れ果てた、かわいい生物を俺はそっと揺り起こすことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます