第90話 条件がある
モヒカン男ーーポパイとの再会は、果たして俺たちにとって、そしてレティスにとって吉となる出来事なのか。
俺にはわからない、だが、この男だけがレティスを救うアテなのはわかる。
俺はローブの襟を整えて、咳払いひとつ、ポパイへと面と向かってーー。
「ポパイさん、是非ともあなたのーー」
「ドらァアッ!」
揺れるモヒカン、振り抜かれる黒い腕。
目を閉じて歯を食いしばる。
「ぐべっ!」
頬を強烈な衝撃がおそい、骨が悲鳴をあげる。
たまらず膝をついて、カウンターに頭をぶつけた。
「な、なにするんですか……!?」
アヤノが目を見張り、庇うように覆いかぶさってきた。
「な・に・す・る・ん・で・す・か〜? なにするんですか〜って、それは僕が言いたかった言葉だよぉお〜。忘れもしない1年と半年前、僕は君たち貴族階級の感情的暴力に打ちのめされた。可愛い顔したメイドちゃん、お前も人ごとじゃねぇ……だろが!」
「……っ、きゃあ!」
怒りの理由はわかる。
「アヤノさんに手をーーぶぼへぇ!」
目をつむり抱きついてくるアヤノに代わって、俺は身代わりになるようにポパイの拳を顔面で受けとめる。
「ひゅ〜やるねぇ〜。流石は英雄様だ。単純な反応力、痛みを恐れない気力、
それに魔術も体術もできる……くわえてこんな可愛いメイドちゃんをはべらせて顔は二枚目ときたぁ〜」
「こら! ポパイ! うちの店で暴れないでくれる! 常連さんをこんなボコボコにして!」
店員の女性錬金術師が青いポーションを片手にカウンターから出てきた。
ひと口サイズのそれを飲ませてもらい、頬にひりつく痛みがやわらぐのを感じる。
「痛てて……その、黒い腕はなんだ……ずいぶんと硬く感じたが、まさか剣気圧の使い手というわけじゃないだろ?」
「黒ざぞりの甲羅を砕いて粉末状にしたものを塗り込んでいるのさぁあ〜、
僕は感情的になるとすぐ手が出てしまうから、その度に拳を痛めては敵わないと思ってねぇ〜」
「だから拳を守ったのか……感情を抑える方向に努力してもらいたかったが」
「えぇ、暴力をふるうなんて最低です」
「んぅ〜……お前たちだけには言われたくなぁ〜い」
ポパイはそう言い、グッと背筋を伸ばすと、倒れるこちらへ手を差し伸べてきた。
その手を取ろうとこちらも手を伸ばす。
ポパイは俺が手を掴もうとした瞬間、ひょいっとかわすように手を引いて、ニヤニヤやらしい顔をした。
実にしょうもない奴だ。
「お前たち貴族が僕に頼むことなんてわかってる。どうせあの毒の解毒霊薬が欲しいんだろうぉ〜?」
ん、出来上がったいるのか!
「それがわかってるなら早くよこーー」
「タダではその手は取らないよぉ〜……条件だ」
ポパイはポケットから手拭いを取りだして、黒い腕を拭きながら「解毒霊薬は金貨500枚」と、さりげなく法外な金額を提示してきた。
だが、パールトン家になら払えない金額ではない。
次代の当主の命が掛かっているんだ、金貨1000枚でも出すだろう。
「だが、薬の現品を売るまえに、僕のお願いをひとつ聞いておくれよぉ〜、お前たちに殴られた分の貸しがあるだろうぉお〜?」
「その貸しをいまのパンチが精算したんじゃないのか……?」
いまだ痛む頬を押さえながら、抗議の目線をむけるが、ポパイは指をチッチッチっと振るばかり。
「僕のお願いはひとつ。学校創設時、僕の遠い先祖がレトレシア魔術大学に押収された古典書物ーーある禁書を、かの大学の禁書棚からもってきて欲しい」
ポパイは窓の外、遠くに見える巨大な校舎を指差してそう言った。
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