第79話 待ちわびた瞬間
「ガンディマン・ユークリフラテス、貴殿がゲオニエス帝国軍の総指揮をとる将ですな?」
「いかにも、吾輩がガンディマン・ユークリフラテスである」
グリム、国王代理を筆頭に、数人の騎士と魔術師だけでやってきた俺たち。
駐屯地のもっとも大きな会議室に通されたはいいが、部屋の両側にずらりと帝国の騎士たちがならんでいる。
隙があればいつだって力づくにでもバルマスト帝を奪いにくる気配を、ビンビンに感じる配置である。
油断のない男だ。
ローレシア側とゲオニエス側の交渉は、いくつかの難航する箇所はあったものの、おおむね順調にすすんでいく。
こちらは口を開けることを禁じた皇帝をひとり、カードとして持っているのだ。
「ゴルゴンドーラ、おまえは帝国がーー」
「しっ」
バルマスト帝の開口を決して許さない。
俺はただこの皇帝が余計な合図や、指示を将軍に与えないように自由を奪い続けることが仕事だ。
「はっ、後悔するぞ。この無意味なーー」
「しっ」
やれやれ、不毛な攻防だ。
「……」
ん、静かになったらなったで似合わない。
どうしたもっと喋ーー。
「≪
「っ」
厳かな発音とともに、感じたことのない魔力の流れを感知。
本能的に飛びのいて、空斬る斬撃から逃れる。
しまった、手を離してしまった。
すでに手元で大人しくなっていたはずの少年の姿はない。
かわりにいたのは体躯のいい仏頂面の男。
その彼の姿は、見える肌すべてにひび割れのようなものが広がっていて、とても平常とは思えないものだ。あたりには傷からのびる細くこまかい塵の筋をただよわせている。
この魔術は……まさか。
「サラモンド・ゴルゴンドーラ。かつての天才少年魔術師は青年となり、
やがて祖国の軍隊を蒸発させる悪魔へと変わった。そのすべて数奇なる運命の巡り合わせじゃ」
快活で調子のよい声。
「……お久しぶりです、ケプラー様……いや、帝国宮廷魔術師ケプラー・コープスコレト」
俺は憂鬱な気分で、もやもやとした心の迷いに翻弄されながら、グリムたち交渉組を手で制しつつ振りかえる。
すると、会議室の両開き扉がゆっくりと開けられ、向こう側からひとりのローブを着たジジイが入ってきた。
帝国魔術の父。
魔術の祖アーケストレスよりいち早く現代魔術をとりいれ、帝国に普及させた男。
現在の宮廷魔術師3席のうち常に1席は、誰か決まっているとさえ言われるほどに、帝の家ブラッグストンとその他の臣下からの信頼あつい重鎮。
いろんな言い換えはできるが、もっとも大事なことがひとつ。
「さぁ、ゴルゴンドーラ、存分に殺しあおうか」
そんな偉大な男は俺のことが嫌いだということだ。
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