作戦会議


「と、いうことで! 康貴にぃは有紀くんにあまりにも無防備だよ! お姉ちゃん!」




そうだった。

忘れてたんだ。

康貴にぃはあれで以外と一度思い込むと周りが見えなくなるところがあるんだった。


まさにお姉ちゃん相手にそうだったように、周りから見ればバレバレだったお姉ちゃんの好意に気づかなかったように、今の康貴にぃにとって有紀くんは男友達になってしまっている。

でも有紀くんの目を見てればわかる。あれはもう男友達の顔じゃないって……。


なのに……。


「え? でも有紀が相手なんでしょう?」


きょとん、と首をかしげるお姉ちゃんが可愛い。

可愛いんだけど……もう! 何で私だけこんな焦ってるんだろう⁉


「とにかくっ! 相手はともかく康貴にぃが女の子と密室で二人きりなんだよ!」

「まあでも……有紀が相手なのよね……?」

「有紀くんはもう美少女でしょ!」


何でお姉ちゃんはこんなに余裕なんだろう。

これが正妻の余裕……!?

いや馬鹿なこと言ってる場合じゃない。


「まなみは心配なのね」

「だって……」


まるで私が駄々っ子みたいだ。

でもお姉ちゃんは余裕を持ったまま笑って、私の髪を撫でてこう言うのだ。


「康貴は大丈夫よ」

「お姉ちゃん……」


ずるいなぁ……。

いつも一緒のつもりで、私が二人を手伝ってるつもりだった。でも、もう二人だけで通じ合っている何かがあるみたいだった。

それは私にはないものだ。


「それにね、まなみ」

「ん?」


お姉ちゃんの手が頭から離れる。


「私たちと夏休み、あれだけ一緒にいたのに手を出してこなかった康貴よ?」

「それは……」


まあ、ちょっと普通なら危ない場面もあったかもしれない……。

私も康貴にぃが相手なのを良いことに結構色々した気がする。


「男友達だと思ってる相手になにかされてどうにかなるような男じゃないし、有紀も康貴がそんな調子の間はなにかしない。あの子は賢いから」

「あー……」


そっか。

お姉ちゃんは有紀くんのことも、信用してるんだね。


「でもお姉ちゃん、有紀くん、意外とおっぱいあるよ?」

「おっぱ……えっ⁉」

「それに帰りにそのまま家に行ったってことは、制服姿のスカートのまま。アパートって言ってたし二人はそれなりに近くにいるし、何かの間違いで下着とかが見えたら流石に……」

「う……えっ⁉」


よし。

お姉ちゃんは混乱している。


「だからね! 私たちもほら、せっかく密室に康にぃを連れ込むんだから、そこで一歩前進したらどうかな?」

「前進……?」

「そう。温泉旅行で康貴にぃとの距離を縮めるの! 有紀くんが何しても康貴にぃが動じないくらい!」

「康貴が動じない……それはどうしたら……」


お姉ちゃんが目をぐるぐるさせて乗ってきている。

あとはこっちのものだった。


「温泉旅館で距離を縮めるといえば……マッサージとか、どうかな?」

「マッサージ?」

「そう。私たちで康貴にぃをたっぷり癒やしてあげよ!」

「癒やし……そうね。いいと思うわ」


よしっ!

どさくさだったけど何とかなった。


そしてそんなことをしながら私は思った。


私は焦ってたんだ。

康貴にぃがお姉ちゃん以外の人のところにいっちゃうんじゃないかって。

お姉ちゃんと康貴にぃがくっついてくれれば、私は妹のままでいられる。

でも……お姉ちゃんとも、私ともくっついてない康貴にぃになっちゃえば、私は本当に、康貴にぃから離れてしまう。

それだけは嫌だったのだ。


「旅行から戻ってきたら、康貴にぃは他の子に何されても動じない男になって帰ってくる!」

「そ、そうね……?」


ちょっと……いやだいぶ強引だったけど、私のわがままにお姉ちゃんも付き合ってもらうことになった。


「康貴にぃの隣に……ずっといるために……」


もちろんこのままお姉ちゃんに任せて引き下がる気もなかったけど、有紀くんはお姉ちゃんと一緒じゃないと勝てないくらい強敵……。

私にとってそのくらい、有紀くんの存在は大きかった。

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幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら すかいふぁーむ @skylight

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