球技大会2

「あっ! 康貴にぃー!」


球技大会当日。

なんとなく愛沙と二人で待機になっていた俺たちのところに、まなみが駆け込んできた。


「おー。一年は明日だっけ?」

「うん! 今日は応援!」


授業は……あれか。文化祭準備とかで実質自由になってるんだな。

この時期は結構緩いんだ。普段それなりに勉強するから学校側も締め付けはしないようにしてるとか言ってたな。


「あ、康貴せんぱーい、愛沙せんぱーい!」

「陽菜ちゃん、待ってー」


三島さんと八嶋さんがまなみを追いかけるように走ってくる。


「そうか。クラス一緒なんだもんな」

「そうだよー! 一年生は個人競技ばっかりだけどねー」

「そういえばそうだったな」


テニス、卓球、バドミントンなんかをひたすら回して勝利数の多いクラスが優勝だった気がする。

そしてこのルールなら、うちは有紀一人で圧勝しただろう。男女問わず勝ち切るだろうし……となると……。


「まなみの独壇場だな」

「えへへー、MVP取ったらデートしてね、康にぃ」

「なっ!?」

「えへへー。お姉ちゃんもそうしたらいいんじゃない?」


悪戯げに笑うまなみに愛沙が唸る。


「うぅー……まなみと違って私じゃ取れないでしょ、MVPは」


そういう愛沙の言葉に何か閃いたような顔をした三島さんがぐいっとこちらに近づいてきてこう言った。


「じゃあ先輩っ! 私は明日一勝したらデートってことで、どうです?」

「えっ」


俺が反応するより早く愛沙が驚いたので逆に俺が何も言えなくなった。

そのせいで愛沙がこんなことを言う。


「じゃ、じゃあ私がその……今日……一点入れたら……」


顔を真っ赤にして髪をいじりながらそんなことを言う愛沙が可愛すぎて思わず三島さんがこう言うくらいだった。


「なにあれ……愛沙先輩可愛すぎ……抱きたい」

「ちょっと陽菜ちゃん?!」


慌てて止めてくれた八洲さんに、三島さんがこう返してさらに混乱を招いていた。


「三枝ちゃんもお願いしないでいいの? あともう三枝ちゃんだけだよ!」

「えっ!? えっと……じゃあ……私も一点入れたら……」

「はいはい。冗談言ってないでちゃんと応援してくれ」


悪ノリで収拾がつかなくなるのが三島さんらしいといえばらしいんだけど……このままじゃ仕方ないのであしらって逃げるように愛沙を連れて体育館に向かった。


その途中……。


「ねえ」


俺の体操服の裾をつまんだ愛沙がまた顔を逸らしてこう言った。


「その……私だけ、本当にデート、だめ……かな?」


その真っ赤な表情のまま上目遣いでこちらを見つめる愛沙の可愛さに思わず何も言えなくなる。


「……だめ?」

「ダメなわけない。すぐ行こう。どこでも行こう」

「ちょっと!? 流石に今からじゃダメでしょ!」

「あっ……」


あまりの破壊力に勢い余ってしまったようだった。

そのせいでお互い顔が赤くなって、しばらく沈黙が続いた。


「じゃあ、約束だから……」


そう言って逃げるように走り出した愛沙のせいで、俺はまたしばらく何もできずに立ち尽くすことになっていた。


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