球技大会1


合唱祭、文化祭、体育祭に先駆けて、うちの学校では球技大会が組まれている。

体育祭があるのにわざわざ、と思うがまぁ、この時期は行事前の熱で授業も集中力が欠ける生徒が多くなるから、学校側は諦めてイベントを圧縮したわけだ。

実際体育祭のあとはほとんどすぐに修学旅行だしな……。


一応球技大会が体育祭と同じような雰囲気にならないように、体育祭が学年を超えた縦割りで競い合うのに対し、こちらは学年別、クラス対抗になっている。


体育祭の前哨戦としてどのクラスも気合を入れてくるイベントだった。


「うちはサッカー部のエースがいるからな! サッカーは負けられねえぞ!」

「でもポイントが高いのは男女混合ドッジだろ? あそこに主力送らないでいいのか?」

「女子はバレーだからそもそもそれなりに動けないと試合にならないよー。うちのクラスバレー部少ないし」


学活の授業時間は大いに盛り上がっていた。


「はいはーい。色々言ってもまとまらないし、まずは希望がある人から埋めていくよー。宮野くんはサッカーね」

「聞く前に入れられるのか……まあいいけど」


東野と隼人が中心になったことでバラバラだったクラスメイトの意識が初めて一箇所に集中した。


「流石だな、あのあたりは」


暁人が耳打ちしてくる。


「手慣れてるよな。で、暁人はどれにいくんだ?」

「ん? 俺は出来ればどれも参加せずに女子のバレーでも見学してたい」

「隼人ー。暁人がサッカーやりたいってさー」

「おいこら!?」


こいつは運動神経は悪くないんだ。ドッジになればサボるがサッカーなら隼人もいるしサボりにくくなって多少真面目にやるだろう。


「おっ、じゃあ康貴と暁人はサッカーな」

「いや俺は……」

「俺だけ売ろうとした罰だ。諦めろ」


もはや逃れようがなかった。

まあいいか。一人になるより話す相手がいる方が良いよな。


「にしても……」

「ん?」

「お前、変わったな」

「え?」


暁人が不意にそんなことを言う。


「どこが……」

「いや、今までのお前がこの状況で声を上げるなんて、考えられたか?」


そう言われて初めて気づく。

今のはそうだ。結構目立つ行いだった。


「ま、悪くない変化だろ。理由は聞けてねえけどな」


ニヤニヤ笑いながらそんなことを言う暁人に言い返す余裕がなくなる。

まあ、暁人が言うように悪い変化じゃないんだとしたら……。


「愛沙のおかげだな」


誰にも聞かれないように呟いて愛沙の方を見た。

愛沙もこちらを見ていたのか、目があって驚いた顔をして、表情を強張らせたあと……。


「が ん ば っ て」


口パクでそう伝えてくる。


「あ り が と」


そう返すとすぐ、顔を真っ赤にして前を向く愛沙。

俺もつられて頬が赤くなるのを感じながら、なんとか誤魔化す方法を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る