買い出し2
買い出しの行き道、自転車で有紀を追いかけるという謎の状況がしばらく続いていたが、有紀が突然立ち止まる。
ようやく追いついたと思って速度を緩めた瞬間、有紀はひらりと俺の自転車の荷台に飛び乗っていた。
「えへへー!」
「うぉっ!? おい急に飛んでくるな!」
すれ違いざま一瞬スカートの中が見えた気がするけど早すぎてよくわからなかった。
というかなんで前にいたはずなのにいつの間にか後ろの荷台に飛び乗ってるんだ……。どういう手品だよ……。
「さあほら、頑張れー!」
「くっつくな!」
「その言い方はひどいと思いまーす! いくらボクでも傷つきまーす」
「はいはいわかったから離れろ」
「もー」
柔らかかった。
なんかむにゅっとしたものが背中に当たっていた。
「お前本当に……女だったのか」
「今それを言うの?!」
サッと胸元を隠すように距離を取る有紀。顔も真っ赤だった。
「もー! ボクだって心の準備が……よしできた! 揉む?」
「馬鹿か!?」
心の準備2秒か!
「あははー。流石に冗談だってー!」
「一瞬本気の目だっただろ」
「そりゃ心の準備までしたからね!」
胸を張る有紀。いやでもさっきの感触を思い出して目がいく。
「もー、エッチだなぁ」
「うるさい。早く行くぞ」
「はーい」
「乗るな!」
「えー……!」
結局あーだこーだやっているうちに目的地までたどり着いていた。
◇
「一人のときより疲れた」
「あははー。お疲れ様だ」
元凶がにこやかに微笑んでいる。
あれから買い出しを終え、先生に報告した俺達は、すかさず次の任務を受け取ってしまった。
「にしても……買い出しだけじゃなく倉庫までおつかいか……」
「楽しいよーこれも」
「有紀もまなみと一緒だな。その辺り」
「まーね。まなみちゃんは私がつくった!」
否定は出来ない。
実際違和感がないくらいまなみは有紀の影響を色濃くうけている。
「で、倉庫ってこっち?」
「いやわからないなら先を歩くな。……そっちであってるけど」
まなみが外に出て活発になったのもそうだし、まなみをあんな運動神経おばけにしてしまったのも多分、有紀だ。
結果的にこういう野性的な勘など、よくわからないスペックまで一致している状態だった。
「ついたー!」
「こら! 走るな!」
ほんとにまなみの相手をしてるみたいだな……。ちょっと大きいまなみだ。
そう思うとこう、色々と昔のままに思えてきて、なんか安心している自分がいた。
だからだろうか。このときの俺は気が抜けていたのだ。
「さってとー、お目当てのものはどれかなー」
「ちょっと待て、先に電気をつけないと中に入ったら真っ暗に――」
そこまで言っていつもと違う違和感に気づいた。
なにか大事なことを忘れている気がする。
「康貴くん! 見つけたよー!」
「そうか」
パチっと電気を付ける。それとほとんど同時だったと思う。
――バタンと重々しい扉が閉まったのは。
「あ……」
「ん?」
忘れていた。
いや正確には有紀の話し相手になるのに夢中になって、頭から抜けてしまっていた。
「この扉、中からだと開けられないんだよな……」
「え……?」
まぁきっとすぐ先生も来るだろう。
「ちょっと休憩しろってことだな」
「えへへー。じゃあしばらく、二人っきりだね?」
「はいはいそうだな」
「もー! ボクの扱いが雑!」
このときはまだ、気楽にそんなことを言い合えていた。
◇
「でもそっかー。閉じ込められちゃったのかー」
「悪い……」
「康貴くんのせいじゃないでしょ? どちらかというとボクが勝手に進んでいったから……」
そう言われてみればそうだな?
いやでも俺の不注意だったことは間違いない。
「まぁ、すぐ見回りが来るから心配しなくても」
「暑い」
バサっと何かの音がした。
「おい!?」
背を向けたまま抗議する。
「あはは。ごめんごめん。大丈夫だよ? まだ脱いでないから」
「そうか……いやそうじゃない」
「ふふ。暑くてスカートバサバサしてるだけだよー。期待しちゃった?」
「してないわ」
「あはは。まあでも今なら見ようと思えばスカートの中見られちゃうかも?」
「やめろ」
見た目が美少女になってても中身が男のままなのが今は悪い方向に働いていた。
「にしても本当に暑いねぇ……」
「まあそうだな……」
夏休みを明けたってまだまだ暑さは続く。締め切られた倉庫に二人でいれば暑くなる。
「脱いじゃおっか?」
「やめろ」
「でも体調崩しちゃうかもよー?」
「それは……」
俺が見なければいいのか……? いや……。
「ふふ。そんなに考え込まなくても……エッチだなぁ」
「お前なぁ……」
「冗談冗談。康貴くんがちゃんとボクのこと考えてくれてたのはわかってるから」
急にそんなことを言われて言葉に詰まる。
倉庫で二人、背中を合わせたまま一瞬の静寂が訪れた。それを破ったのももちろん、有紀だ。
「で、愛沙ちゃんと付き合ってるの?」
「――っ!?」
「あはは」
ケラケラ笑いながらこちらを向く有紀。
「ま、お楽しみはもっと先に残しておこっか」
それだけ言うと倉庫の入り口に歩いて行く有紀。
「誰か来たのか?」
「ん? いやぁ、誰もいないけどさ。多分開くよ?」
「なんで?」
「んー……パワー?」
ガチャン。
有紀が無理やり扉に手をかけていくと重い音を立てて扉が動き出した。
「嘘だろ……」
「あはは」
あっけらかんと笑う有紀に俺はもう、何も言えなくなっていた。
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