実行委員

「楽しいねー康貴にぃ!」

「まなみは何でも楽しそうでいいな……」


 応援団。という名の実行委員会。いわゆる雑用係としての仕事など普通は楽しいはずはない。

 今も何に使うのかわからないちり紙の花を無限に作らされているところだった。これ多分文化祭のだろ……。なんでも一緒くただな……。


「お兄さんってまなみちゃんに勉強教えてるんですよね?」


 作業に疲れた様子の後輩が伸びをしながら声をかけてくる。丸メガネをかけた大人しそうな子だ。

 確か名前は……。


「あ、八洲三枝です」

「ああ、ありがと。一応教えてるけど、まなみはほとんど自力だからなぁ」

「そんなことないよ! 康貴にぃのおかげでここまできたんだから!」


 そうは言うがそれっぽいことをした記憶がない。

 言ったことといえば無闇に色んなものに手を出さずに薄くていいから一冊の参考書を完璧にすることを目指せと言ったくらい。

 それだけでまなみはメキメキと力をつけていった。

 基本的にやればできるタイプなのでやる気を維持する装置として家庭教師オレがいるくらいの状況だった。


「まなみすごい成績上がったもんねー。いいなあ。私も先輩に教わりたーい」

「えっと……」

「あ、三島陽菜でーす!」


 元気な子、というのが印象だった。茶髪がかった髪を外に跳ねさせているのもそのイメージに拍車をかける。

 いま机を囲んでいるのはまなみとその友達っぽい八洲さんと三島さん。下級生は他に2つくらいワイワイやってるところがあるけど、俺はこの学年、このクラスでは一人だからこうしてまなみに面倒を見てもらうようなことになっていた。

 なんか言ってて悲しくなってきたな。有紀も選ばれたけど今日は部活見学で休みだった。


「康貴にぃの教え方、わかりやすくていいよー!」

「いいないいなー! あ、先輩ちょうどわからない問題があったんですけどー」


 そういって三島さんは教科書とノートを広げ始める。

 まぁもともと作業半分雑談半分の終わりの見えない仕事なので咎める人間もいない。そのくらいはいいか。


「どれだ?」

「これなんですけどー」

「えっと……」


 対面にいた三島さんが隣に詰めてくる。長椅子の端っこにいた俺は完全に押されるように密着する。

 反対にはまなみもいる上、まなみはもともと俺に近かったので逃げるスペースもなく密着されてしまう。


「先輩? 数学もいけますよね?」

「まぁ……」


 どちらかと言えば得意だ。

 ただこの状況で集中できるか……? いや集中しよう。

 なんか下手したら愛沙より立派なものがあたってるけど気にしちゃだめだ。相手はただの後輩。純粋に勉強を聞きに来てるだけだしこちらから指摘するのも申し訳ない。

 それとなく距離を取ろうとまなみの方に近づくと……。


「むぅー……康貴にぃ! 私も!」

「いやお前は花に集中しとけ!」

「えぇー。飽きたー」


 さっきまで楽しそうにしてたのは何なんだ。


「いまは三島さんが先」

「ぶー」

「10個作ったら相手してやるから頑張れ」

「ほんとっ? よーしやるぞー」

「お兄さん……まなみちゃんの扱い慣れてる……」

「まあ長い付き合いだからな……」


 そしてだからこそわかる。

 まなみは一瞬で10個作るはずだ。もう2つ目だしな……。

 急ごう。


「じゃあここからだな。まずこの手の問題は……」


 三島さんが顔を寄せてくる。いちいち近い! まなみより無防備かこの子! ちょっとギャルみたいに見える見た目でこんなん同級生勘違いしまくるだろ!?

 いや……いまは教えるのに集中しよう……。それで気を紛らわせよう……。


 ◇


「ほー……」

「どうした?」

「ほんとにわかりやすかった……」

「でしょっ!?」


 なぜか得意げなまなみが横から顔を出してくる。

 机にはしっかり10個の花が並んでいた。


「じゃ、康貴にぃは返してもらうから!」

「えー。まなみはいつも相手してもらってるんだからたまには貸してよー!」

「だめでーす。ほら! 康にぃはこっち!」

「はいはい……」


 腕を絡め取られて連れて行かれる。

 強引なのはいつものことなんだが、今日のまなみはなぜか少し、顔を赤くして焦っているように見えた。


 

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