不慮の事故

「あ、康貴にぃおかえりー」

「ただいま……あれ? ここうちのばあちゃんの家だよな?」


 あの後俺は畑仕事の手伝いにも駆り出されてようやく帰って来たわけだが……。

 なんで当たり前のようにまなみがくつろいでるんだ?


「あはは。うちのおじいちゃんとおばあちゃん、私達が来るの忘れて出かけちゃってたみたいでさー。こっちでゆっくりしなーって言われて、お姉ちゃんいまお風呂入ってるよ?」

「そうだったのか」


 まあ田舎特有のだだっ広い平屋だし人が増えても困らないのは確かに。


「で、母さんたちは?」


 途中で畑仕事を俺に押し付け……任せっきりにして先に帰った母さんとばあちゃんの姿が見えないのだ。


「台所にいるんじゃないかな?」

「そっか。飲み物もらってこよ。まなみもいるか?」

「いる! カルピス濃いめー!」

「はいよ」


 広い家だが台所の場所は間違えないし、愛沙が入ってるという風呂場に向かうこともない。

 台所に向かうために廊下ではなくショートカットできる部屋を通ろうと引き戸をあけると……。


「あ……」

「あっ……あはは、ごめんねえ? 康貴くん、変なもの見せちゃって」


 おばさんが着替え中だった。

 もうまるっきり下着姿で、ちょうどスカートを脱ぐためか履くためか前かがみになっている。


「えっと……すいません!」

「ごめんねえ。私もちょっと汗かいちゃったから着替えさせてもらってて……」

「いや、えっと……」


 思考が止まってどうすればいいかわからなくなってしまっていた。

 そこに足音が聞こえてきてハッと我に返る。

 だが……そのときにはもう足音の主は背後まで近づいてきていた。


「あ、康貴……って、何してるの……」


 風呂上がりの愛沙にジト目で睨まれることになってしまった。


 ◇


「そう……たまたま……偶然……」


 無事台所で濃い目のカルピスを三人分調達した俺は、まなみのいる部屋に戻り……正座させられていた。


「まあまあ康貴にぃもわざとじゃないし」

「それは……わかってるけど……」

「あ、それともお姉ちゃんの方覗きに来てほしかったのー?」

「なっ! 馬鹿っ! 違うわよ!」


 いたたまれないからそういう姉妹喧嘩はあとでやってほしい……。


「確かにここ、庭から見ればお風呂覗けちゃうしねー。私入ってるとき窓全開だったから康貴にぃもタイミングが良ければ見れたかも!?」

「康貴っ!」

「なんでこれで俺が怒られるんだよ!?」


 結局まなみが有耶無耶にしてくれて愛沙の機嫌も落ち着いたんだが、その分理不尽に怒られた気もした。

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