改めて
「たのしかったー!」
あのあともステージで色々と想定外の動きを見せつづけたまなみはショーを大いに盛り上げた。
盛り上がった分、水しぶきは勢いを増しアナウンスをしていたお姉さんによると通常の5倍水が減ったらしかった。
「びしょびしょね」
「愛沙は……意外と大丈夫そうだな」
「まなみの分も着てたから」
レインコートを3つ買ったのは無駄ではなかったらしい。良かったんだか悪かったんだか……。
愛沙が用意してくれていたタオルでとりあえず歩くのに支障が出ないように身体を拭かせてもらった。
「ありがと」
「準備しといてよかったわね」
頼れるお姉ちゃんだった。
ようやく3人で歩き始めた水族館。
クラゲコーナーをはじめ結構楽しめるところは多かった。一番興奮したのはイグアナなあたりどうかと自分でも思うが。水族館とは……。
「で、お姉ちゃん、ちゃんと誘ったの?」
「ん? なにをだ」
「あ、お姉ちゃん何も言ってなかったかー」
愛沙を見るとさっと目をそらされた。なんなんだ……。
「あのね、花火大会あるでしょ?」
「あー」
屋台もたくさん出るお祭り兼花火大会。
地元民にとっては夏の締めくくりになる一大イベントだった。地元の人間だけでなく色んな所から人は来るが。
「あれに行こって」
「いいな。3人でか?」
「んーん。私はその日東京にいないからー!」
「部活か」
「そうそう」
なるほど。
あれ?
「じゃあ愛沙と2人ってことか?!」
愛沙の反応を確認すると顔を赤くしてうつむいていた。
「お姉ちゃんの浴衣姿、見たくない……?」
愛沙を見ていたせいでその姿に浴衣姿が重なって見えた気がした。なんだこれ……無性にドキドキする。
「ふふ。ということで、2人で行っておいでよ!」
愛沙は終始無言だ。それでいて赤らめた顔でチラチラこちらを覗き込んでくる。
俺から言わなきゃだな。
「行くか……?」
「……うん」
約束は取り付けた。
花火大会、愛沙への誘いはそれはもうめちゃくちゃな数だったと思う。4月当初からわざわざその日を予約しようとする人間があとをたたなかったはずだ。
この地域の人間にとってはそのくらい、この花火大会は大きな意味を持つ。
「えへへー。良かったね、お姉ちゃん」
この場合間違いなく良かったのは俺のほうだろうけどな……。愛沙が数ある誘いをすべて断っていたのだけは知っている。
それがまさか、こんな形で自分に回ってくるとは思いもしていなかった。
「あ、康にぃ、ちゃんと浴衣持ってる?」
「ないかも……?」
「じゃあ当日までに買っておくように! せっかくお姉ちゃんが浴衣だから合わせないともったいないよ!」
「それは確かに……?」
浴衣か……。駅前のデパートなら売ってるか。
「いや、もういっそ今行こう! まだ時間あるよね?!」
「今!?」
「うんっ! いまなら私達が選べるし! ね?」
そう言って手を引くまなみ。
今日はまなみの行きたいところに付き合うつもりではあったけど、これはいいのか?
「行きましょ」
「そうか」
愛沙に確認してこの反応ということは、まなみが今一番行きたいのがそこなんだろう。
おとなしく2人、手を引くまなみについていった。
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