看病(逆)

 俺はだいぶ回復してきていたが動き回ることは愛沙が許さず、見張るように隣で静かに本を読んでいた。こういうときだけはメガネをかけているらしく新鮮だ。


「なに……?」

「いや……」

「じっと見られてると、落ち着かないんだけど……」


 それは俺の台詞でもあるんだが黙っておいた。


「メガネ、似合わない…?」

「いや、新鮮なだけ」

「そう……」


 美人は何をしても似合うなぁと感心する。が、これを言うとなんか妙な雰囲気になりそうだから言わないでおく。あと、メガネはないほうが好みだった。


 しばらくそうして静かな時間を過ごしていたがそれをかき消して部屋にまなみが飛び込んできた。


「康貴にぃ! 大丈夫!?」


 やってきたまなみはジャージ姿のまま両手にパンパンのスーパーの袋を持って立っていた。


「だいぶ楽に……いや待て、何買ってきたんだ」

「あ、良かった生きてた! これ! 元気になりそうなの!」


 スポドリはいい。1.5リットルのでかいのを3本買ってきたのもまあいい。


「これは……」


 愛沙が手に取ったのはにんにく。

 他にもやたら野菜が大量に入ってたり、栄養ドリンクが入ってたり、もはや何のために使うのかわからないスパイスとかまで出てきた。


「えっと……ありがとな」

「うん!」


 まあまなみの気持ちは嬉しいので素直にお礼を言っておいた。あとで愛沙経由でお金は渡そうと思う。


「康貴もちょっとましになったし、お粥じゃなく何か作ろっか」

「それはありがたい……」


 今のままだと動けそうにない。それに愛沙の料理は美味しい。


「どうせどっちも親は帰ってこないしね」

「そうだな……」


 まあたまにはこうやって羽を伸ばしてくれるのはいい。両親の仲が悪いよりは良い方が絶対良かった。


「この材料……どうしようかしら……」


 まなみの買ってきた材料に頭を悩ませる愛沙だったがまかせておけば安心だろう。

 部屋を出る愛沙をまなみと見送った。


「康貴にぃ、大丈夫?」


 まなみがベッドに乗りかかって俺の額に手を伸ばす。


「ああ、だいぶ楽になったぞ」

「よかったぁ」


 どうやらまなみ判定でも熱っぽさはなかったらしい。


「今日の試合はどうだったんだ?」

「えへへー! はっととりっくー!」


 ピースの要領で3本指を立ててアピールしてくるまなみ。


「ほんとすごいな」

「でしょー、褒めて褒めてー!」


 頭を押し付けてくるので撫でてやると嬉しそうにしていた。


「じゃ! お姉ちゃんのお手伝いしてくる!」

「ああ、ありがとな」

「いいってことよー!」


 上機嫌で手を振りながらまなみが部屋を出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る