看病5

 洗面所の扉越しにまなみが叫ぶ。


「早くしないと風邪がー」

「わかったわかった! なんだどこにあるんだ?」

「えっとねー、私のはいつものタンスの3段目! 2段目に下着!」


 まさかこいつ……下着も持ってこさせる気じゃないよな?


「待て、下着ももってこいとか言わないよな……?」

「え? だって下着がないと」

「康貴! 下着は洗濯機に乾燥したのが入ってるから! そっちはいいから!」

「あ、ああ、わかった」


 良かった……。愛沙がいてくれて……。


「ほんとにごめんね……私のはベッドの下の引き出しの右側にあるんだけど……」

「けど……」

「あ、お姉ちゃんパジャマと下着同じところに入れてたもんねー」


 おいおい……。


「ごめん……康貴……」

「いや……見ないようにするから……」

「うん……」


 やりづらいことこの上ないが、早くしないと風邪も悪化する……。

 心を無にして2人のパジャマを取りに行った。

 まなみの方はあっさり終わったんだが問題は愛沙だ。


 そもそも部屋に勝手に入るのもためらわれるのに……いやまあ言ってる場合じゃないから入るけど……。


「これか……」


 綺麗に畳まれすぎていて見えている部分に下着感がないのは助かった……。

 ただなぜかタグだけがちらっと見えてるのがあってより一層心を無にする必要ができたのは愛沙を恨まざるを得ない……。

 Eとか見えた気がしたけど気にしない。


「俺は何も見ていない。見てないんだ……」


 選ぶ余裕もなく手にとったパジャマっぽいものを持って階段を降りた。

 足音で気づいたらしいまなみが待ちきれないと言わんばかりに声をかけてくる。


「ありがとねー!」

「ああ、ここに置いて俺が離れるからしばらくしたら」


 必死に2人が一番不安にならずに済みそうな方法を説明しようとする。

 だが――


「え?」

「え?」


 待ちきれなかったのか意思の疎通が測りきれなかったのかわからないが、まなみが扉を開けてしまった。「バスタオル巻いてるから大丈夫」とか言いかねないけど……。

 いやまあ全開というわけでもないし角度によっては大丈夫だと思ったのかもしれない。ただその角度も絶妙にダメな位置関係だったし、いずれにしてもまなみの頭に愛沙の状況を確認する余裕はなかったのは間違いない。


「あ、ごめんお姉ちゃん!」


 そこには顔を真赤にした愛沙がいた。救いは身体が向こうをむいていたことだろう。ただそのせいできれいな背中とお尻がバッチリ見えてしまっている。

 素早く着替えを渡して俺はその場を離れた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!」

「わー! お姉ちゃんごめんって! 大丈夫! 康貴にぃはいい人だから見てないよ!」


 洗面所から聞こえる声にならない叫びと虚しく響く慰め。

 ごめんまなみ……今回のもしっかり、目に焼き付いてしまってる……。


「もうお嫁に行けない……」

「そのときは康貴にぃがもらってくれるから!」

「ほんとに……?」

「うんうん! 康貴にぃなら大丈夫!」


 今の出来事で熱が上がったのか、愛沙がまた幼児退行してしまっていた。

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