キャンプ⑥

 テントに戻りしばらくボードゲームを遊んだあと、それぞれ寝袋に入ることにした。


「恋バナ! 恋バナ!」

「まなみそれ、何のことだかわかっていってるか?」

「失礼なっ!?」


 まだ遊ぶと騒いでいたまなみを寝かせるために、こういうときは布団に入って恋バナをするのが定番だと吹き込んでからこんな調子である。

 いまさらこの3人で話しても……いや、2人は結構色々話が出てくるかも知れない……。毎日のように告白を受けてるわけだし。


「私達は特になにもないけれど、康貴のが気になるわね」

「わたしもわたしも!」

「いや、2人と違って何もないから……」


 ほんとになにもない。驚くほどなにもない。中学から通してその手の話にずっと縁がなかった。


「ほんとにー? 康にぃ、わたしのクラスの子に連絡先聞かれてたでしょ」

「えっ」


 愛沙がなぜか起き上がろうとして寝袋に引っかかってこけていた。なにしてんだ……。


「あれは応援団の連絡で必要だからだよ」

「えー……でもあれ、絶対それだけじゃない顔だったんだけどなぁ……」


 本当そうなら2学期からの活動に少し期待しておくとしよう……と思ったがなぜか愛沙に睨まれてるので考えるのをやめよう。


「康貴、莉香子とも仲良いわよね?」

「莉香子ってこないだ腕くんでたお姉さん?」

「あれは別の人」

「康にぃ……」


 いや、なんで責められてるんだ……。どっちもこう、誰にでもそういうことするだけだろう……。


「秋津は誰にでもそうだろ」

「んー……莉香子、誰にでも声はかけるけど、あんなくっつくのは康貴だけな気も……」


 それはきっと愛沙の身内、くらいの認識だから気を許してるんだと思う。


「むー……康貴にぃ、やっぱり色々ある……」

「いやいや……」


 これで色々だとしたら進展がなさすぎる……。

 万が一俺が秋津に惚れたりしてもあいつのことだから察してそれとなく諦めるように促してきたりするはずだ。そんなことになったら割と立ち直れないと思う。


「2人こそ、毎日のように告白受けてるけど誰もいい相手いないのか?」

「んー、わたしは半分くらい女の子だしなぁ」


 まぁまなみはそうか。スポーツで勝利の女神として活躍する様子は男女問わずかっこいいと思わせる魅力がある。普段の姿を知ってるとあんまりしっくりこないが。


「愛沙は?」

「私?!」

「結構告白されてるだろ……」

「お姉ちゃんは興味ない人のことは覚えてないから、告白されててもあしらって覚えてないよー」


 流石にそれは……。いや愛沙だしな……。


「そんなことないわよ! ちゃんとひとりひとりお断りしてるから」

「誰かいい相手いなかったのか?」


 これだけ告白を受けて首を縦に振らないとなると愛沙の求める人物像が読めない。

 最近一緒にいることも増えて嫌でも愛沙の魅力は伝わってきている。油断すればすぐにでもその気になってしまいそうなくらいには……。

 ただちょっと、こういうところを見てるとハードルが高すぎるなぁ……。


「「はぁ……」」

「なんで……?」


 ヒントになる相手でもいないかと思って聞いてみたが、2人の反応は白けたものだった。


「ま、康貴はしばらく大丈夫ね……」

「そうだね、お姉ちゃん」

「「はぁ……」」


 俺にはわからない部分で理解しあった姉妹2人に改めてため息をつかれて、キャンプ1日目は幕を閉じた。


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