海④
「つかれたー!」
「まなみは結局ずっと動いたもんな……」
ひとしきり遊びきって日も沈みかけてきたので帰り支度を始める。
「先に着替えてきてくれ」
一応シャワーとかも付いてたはずだし俺よりやることが多いだろう。
まなみがバスタオルがあるから平気だと俺の前で着替え始めようとして慌てて止めるトラブルもあったが大人しく行ってくれた。近くに人がいなくてよかった。
「ん?」
2人が向かった後、見知った顔を見つける。
「あれ高西姉妹だったって!」
「声かけたらいけないかな? 2人だけなら」
「海だし! 開放的になってるかも?」
学年は同じ。名前がすぐに出てこない。見ると3,4人の男グループのようだった。
「ちょうど帰るなら方向も一緒だろ?」
「声かけてこうぜ!」
んー。別にプールのときのナンパのような害はないんだけど、帰りにくいな。
どうしたものかと思っていたらさらに別の知り合いが現れた。
こんなに重なるものか……。いやまぁ、よく考えたらうちの学校周辺からだと来やすい海なんて限られるか。
「やっほー! なになにー? 男子だけで寂しく海かよ―!」
「え、秋津……?」
声をかけようとしていた男子グループに絡みに行ったのは秋津だった。後ろに東野もいる。
水着なんだろうけど2人とも裾の長いパーカー状のラッシュガードを着ているのでいつもと露出はそんな変わらなかった。残念ではない、というと嘘になるがまぁいい。
「ちょうど良いとこにいたな! 今から飯行くんだけど一緒にどうだ?」
「榎本!?」
クラスの人気者たちはまぁ、学年にも顔がひろい。というか彼らは割と誰とでもすぐ仲良くなれるわけだが、今回は結構無理やりだろう。
真の後ろにいた隼人がこちらをみて親指を立てていたので手を合わせておいた。
ほんとにいいやつらだな。ただまぁ、なんでここにいたのかについては愛沙を通して抗議する必要はあるかもしれないが。
◇
「ふふ。寝ちゃったね」
「そうだな」
まなみは電車に座って2秒で寝た。ここまで体力を全振りして遊びきれるのはある意味才能だなと思った。
寝るのは良いんだが俺にもたれかかるのは……まぁいいか。
「私も疲れちゃった」
「え……?」
まなみの逆側に座った愛沙も肩に頭を乗せる。
「ちょっと、寝てもいい?」
「いいけど……」
心臓がバクバクしていた。
まなみにもたれかかられても感じなかった緊張感がある。
「ありがと……」
そういうと程なくして規則正しい吐息だけが左から聞こえてくるようになる。
「疲れてたんだな……」
まぁ男の俺と、普段からある意味運動部よりハードに動き回ってる勝利の女神に無理やり合わせてたわけだからな。
「おやすみ」
ちょうどまなみが俺から離れたところで、ほとんど無意識に愛沙の髪に指を通して頭を撫でた。
すぐに寝ぼけたまなみに腕を掴まれて引き戻される。
俺も意識を手放せるほど疲れは襲ってきていたが、2人に囲まれたこの状況ではなかなか眠ることも出来なかった。
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