まなみとデート
なんか知らないが愛沙にやたら急かされてまなみと出掛ける日になった。
どこかへ連れて行くとは言ったがどこに連れて行くという話はないまま今日に至った。まなみはとりあえず遊びに行ければいいらしいのでとりあえず駅に出てきて勢いのままに遊ぶことになった。
「康にぃ! こっち! 次はあれ!」
「わかった……ちょっと休ませてくれ」
結局駅についても当てはないままだったので、入場さえすればスポーツ施設にダーツやらカラオケやらまでなんでも揃った総合施設にきた。正解だったらしく終始まなみははしゃぎっぱなしだ。
「もう! 時間は有限なんだよ! 康にぃ!」
「いや、若さが違う」
「一個しか違わないでしょ! ほら! いこいこー!」
まなみと愛沙を見ると、1個の違いは大きいように感じる。
手を引かれて結局一通りの遊びに付き合う。
ボウリングに行き、ダーツに行き、ビリヤードをやってみて、2人しかいないのにサッカーをやり、テニスにキャッチボールに……と、ひたすら身体を動かした。
その全てで勝負を挑まれて受けていたんだが、ハンデなどつける余裕はなかった。本気でやっても一つ下の少女には歯が立たないことすらあった。
「流石だな……勝利の女神」
一通り遊び尽くした俺たちは、ゲームセンターコーナーに来て休憩がてらクレーンゲームの冷やかしをしながら話をしていた。
「にゃははー。勝利の女神は照れるなぁ」
何をしてても楽しそうに笑うまなみは可愛い妹という感じで、なんかこう、庇護欲を掻き立てる。
「まなみは可愛いな」
「うぇ?!」
つい口に出したら思いの外まなみに動揺が走っていた。
「突然過ぎるよ! 康にぃ!」
顔を赤くしてバシバシ腕を叩いてくる。そんなに痛くな――
「いや痛いわ! 加減しろ!」
「あっ、ごめんごめん」
そのまま叩いてた手でさすさす腕を撫で始める。それはくすぐったいからやめてほしい。
何が楽しいのかまなみはそのまま俺の身体をペタペタ触りだす。
「康貴にぃ、意外と筋肉ある……?」
「男はこんなもんだろ」
「ふーん」
ぺたぺた……。
流石にそろそろ人目を気にしてほしいと声をかけようとしたところで、そんなときに限って知り合いが現れた。俺のではなく、まなみのだが。
「あれ……? 高西……?」
「おー! やっほやっほ!」
どうもまなみの同級生たちの様子だ。クレーンゲームの前で騒いでいたから目立ったのかもしれない。
まなみの同級生である後輩男子たちがチラチラと俺とまなみを見比べる。
「そっちの人って……もしかして……」
「ふふふー。何に見えるー?」
「何ってそりゃ……えっと……」
「彼氏……とか?」
こちらの様子を伺いながらまなみと話す後輩たち。なんか品定めされているようで居心地が悪い。
まなみも同級生の中じゃアイドル的存在だろう。むしろ姉より愛想がいい分、人気は高いかもしれない。いや愛沙も俺以外には愛想もいいか……。
「……」
目が合うと無言で挨拶するように頭を下げる後輩たち。
同級生にとって憧れの存在であるまなみがどんなやつと付き合ってるのかと思えば、別に大したことないやつだったので引っかかりを覚えている、という状況だろうか。付き合ってるわけじゃないけれど。
「だって! 康にぃ! 彼氏だって彼氏!」
なぜかテンションが上がったまなみがまたバシバシ腕を叩いてくる。
「だから痛いっての!」
「ふふふー」
聞いちゃいなかった。
「ま、残念ながら彼氏じゃないんだなぁ〜」
「コウニィってことは……歳上の?」
「そだよ。お姉ちゃんの彼氏」
「えっ!?」
「は?」
まなみの言葉に驚いたのは後輩たちより俺の方だった。
「それは冗談でー、えっとね、私の先生で、お姉ちゃんの……友達? 以上恋人未満のような?」
「知り合い以上友達未満じゃないか?」
「もー。それお姉ちゃんが聞いたら怒るよー?」
むしろ友達以上恋人未満とか言った日にはどんな恐ろしい仕打ちが待っているかわからないと思うんだが……。
「まぁとにかく、高西の彼氏さんじゃないってことか」
後輩グループの半分くらいはどこか安心したような表情を見せていた。人気だなぁ、まなみ。
「そだねー」
「そっかそっか。まだ遊ぶの? もしよかったら――」
勢いづいたのかまなみを誘おうとしたところで、それを察したまなみが断るためと言うにはやりすぎな手段に出た。
「まだ彼氏ではないんだけど、私は付き合って欲しいと思ってるんだよねー!」
そう言って腕に抱きついて来る。
おいやめろ。勘違いされるしなんか絶望的な表情になってるやつもいるだろ。
「馬鹿なこと言うな」
そう言ってくっついてきたまなみを小突いて離れさせた。
「ただ悪い。今日はまだ遊ぶ予定だったし、最後もちゃんと送り返すから、また誘ってやってくれ」
「あ……えーっと……はい……すみません」
「もー! 康にぃ! 振りほどかないでもいいじゃん!」
「はいはい。ごめんな」
「聞いてないし! あ! じゃあまた学校でね! ばいばーい!」
その場を立ち去る俺にじゃれ付きながら、後ろ向きに手をぶんぶん振るまなみ。
「危ないから前見て歩け」
「あっ……ふふ……はーい」
手を引いてやると大人しくなって付いてきてくる。
後輩たちは呆然と彼らにとっての学年のアイドルを見送っていた。
あとでまなみにはしっかりフォローを入れるよう言い聞かせる必要があるなと思いながら、また当てもなく2人で歩き始めた。
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