第78話 アサンタの話
ティートが放った剣は空を斬った。アサンタはサイドステップでティートの攻撃を躱すと肩に担いでいた鎌を再び回し始める。
「良いねぇ、良いねぇ、雑兵と違う所を見せておくれよ」
鎌を回した遠心力を利用し、アサンタの鎌がティートに迫るが、皮一枚の所でこれを躱し隙のできた所に攻撃をするが、逆に皮一枚で躱されてしまった。
「やっぱこれだよ。イッてしまう寸前のやり取り。これが堪らないんだよ」
ギリギリの緊張感がアサンタを更に強くする。鎌のスピードは増し、威力は強まる。だが、それはティートも同じだ。このような強い相手と戦いたくて魔の森から出て来たのだ。ここで燃えないはずがない。
「やってやるよ! 俺様もこんな戦いがしたかったんだ!」
二人の剣と鎌がお互いの皮を切裂き、数滴の血が飛び散りながらもその攻撃を止める事はなかった。ティートが突っ込みアサンタが距離を取る。何度も繰り返された光景だが、ここに来てその天秤が傾き始める。
ティートの回転数にアサンタの鎌が付いて行かなくなってきたのだ。いくら力を増した所でそれが永遠に続くわけではない。ましてやアサンタは片腕なのだ。その疲労は両手の時の比ではない。
「どうした? 鎌の動きが悪くなってきたみたいだぞ。そろそろ終わりか?」
懐に入ってきたティートの剣を何とか避けるアサンタはその問いに答える事はなかった。鎌を振るい、ティートに防御をさせると距離を取り肩で息をする。
「ハァ、ハァ、アタシも年を取ったもんだね。これぐらいで息が切れるなんて考えられないわ」
鎌で肩を叩き凝りを取ると同時に乱れた息を整える。そして鎌を地面に付け無防備な態勢をとる。
「どうした? 諦めたのか? つまらない奴だな」
そうは言いつつティートは警戒を決して緩めなかった。何故ならアサンタから感じる気配は今まで以上に皮膚を刺激し、油断をして近づけば首が飛ばされる未来が見えるのだ。
このまま待っていた所でアサンタの体力を回復させてしまうと思ったティートは警戒をしながらアサンタとの距離を詰める。だが、アサンタはティートの警戒の上をいく攻撃をしてきた。
アサンタは鎌をティートに向かって投擲したのだ。その程度の攻撃は予想をしており、体をかがめて避ける事ができたのだが、先ほどより鎌の柄が長いのが気になった。
「そこよ!」
アサンタは声と共に腕を引くとティートを通り過ぎたはずの鎌が戻ってきて再びティートの首を襲う。
完全に不意を突かれた形となったティートだったが、先ほど感じた違和感が功を奏し髪の毛を二、三本刈り取られただけで避ける事ができた。
「チッ! ムカつくほどの反射神経だね」
アサンタは片腕になった事で鎌を鎖で腕とつなげていたのだ。鎖は鎌の柄の中に収納されており、普段は鎖が見えないようにされていたのだ。
悔しさを露わにするアサンタだったが、ここで攻撃の手を休めてしまってはティートに攻撃をする隙を与えてしまうため、体力の少なくなった体に鞭を打って攻撃を続ける。
すでに披露してしまった鎌の投擲攻撃を交え、アサンタは華麗に舞う。その姿だけを見れば、どこかの舞踏会でダンスを披露している女優と言ってもおかしくないような姿だった。
「何時までも踊ってんじゃねぇぞ!」
ティートはアサンタが投擲した後の鎖を狙って攻撃した。この鎖さえ切ってしまえばアサンタの手には武器がなくなるからだ。だが、その攻撃を見越していたかのようにティートの剣に鎖が巻きつく。
「しまっ……!」
鎖に巻きつかれた剣は高々と宙を舞い、ティートの手から離れアサンタの近くに突き刺さる。
「悪いね。この鎖は特注でね。拘束した相手を逃がさないように頑丈に作ってあるのさ」
歯噛みをするティートだが何時までも失敗を引き摺っている訳にはいかない。鎌を地面に刺し、ティートの手から離れた剣を手に取るとアサンタはその剣を遠くに投げ捨てた。ティートはその隙を逃す事なく、アサンタとの距離を詰めて拳を振るう。
ガンッ!
咄嗟に引き抜いた鎌でアサンタは何とかティートの拳を防ぐことができた。
「
アサンタの言葉に反応する事なく、ティートは拳での攻撃を続けていく。回転の良いティートの拳に長柄の鎌では防ぐ事で手一杯となり、なかなか攻撃をする事ができない。
このままではジリ貧になってしまうと判断したアサンタは蹴りをフェイクに使い、ティートから距離をとると再び鎌を投擲してきた。
この投擲をさせたくてわざと蹴りのフェイクに引っかかったティートは左腕で鎖を殴りつけると、左腕に鎖が絡みつき、鎌がアサンタの所に戻らないようにしてしまった。
「チッ! こっちの武器を潰しに来たのか。でもやらせないよ!」
ティートが鎌を掴んでしまう前にアサンタは鎖を引っ張ってティートの体勢を崩させるのだが、ティートは引っ張られた勢いを利用してアサンタの懐に入り込んだ。
「武器なんて初めから取ろうと思ってないさ。俺様の狙いは防げない状態を作り出したかっただけだ!」
指を真っすぐにして力を込められた手刀はアサンタの腹を抉り、背中から再びその指が現れた。
「アァァァァァ! イィィィィィ! 感じるわ。子宮がジンジンする。こんな感覚は初めて。堪らないわ」
喜色満面の顔でティートを見つめるアサンタだったが、ティートが手を引き抜くとその場に正座をするように崩れ落ちた。
「変態だったが強かったぜ」
涙を流し、涎が垂れているアサンタにティートが再び手刀を振るうと、アサンタの頭が胴体から離れ、ティートの足元に転がると胴体から盛大に血が噴出した。
投げ捨てられた剣を拾い、再びアサンタの所に戻ってきたティートはその場に留まり、何分か目を瞑っていたのだが、目を開けるとトゥユが戦っている方に歩き出した。
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