♭069:喧伝かーい(あるいは、乱場ジャッコ/忌むのソルベンタス)


 のっぴきならないコトになった。いやいまさらか。


 園内に設えられたテーブルを挟み、自らの臀部に己の右手を差し入れながら対峙する妙齢の女ふたり……


 ギリギリだ。ギリギリセーフなのかギリギリアウトなのかは判別できないが、とにかくギリギリであることだけは脊髄が感知している。


 「対局」は既に開始されているわけなんだけど、先手必勝でDEPをかます準備は出来ているのだけれど。


 ……お菊さんの方の準備が整っていなかったわけで。


 いや、準備というか、そもそも何かを出し入れする場所じゃないわけで、準備も何もないわけだ↑が→。


 「着手可能ライン」まで突っ込まないとダメとか言ってたけど、先ほど謎の液体に浸けた時に見た感じでは、その真っ赤な線は中指第二関節辺りをぐるりと回っていた。


 およそ5cmといったところだろうか。未知の異物侵入に、まったく慣れもなじみもしていない私のそこは、もじもじしながら先ほどから第一関節辺りまでしか受け入れてくれていないようで。


 半開きの口で、少し悩まし気に眉をひそめながらの自分の様態に気付き、愕然とする。やはりこの場には狂気が満たされているような気がしてならない……何やってんだろう私は……


 ふと、前方に視界をやると、池田の方はトレンチコートの袖から右腕を抜いて背中に回してやがる。なるほど? それだと珍奇な姿勢が周囲から隠せていいよねー。私も空いた左手でニットの裾をたゆませて何とか臀部らへんを周囲の目から隔絶させようと試みるけど。


 いや、周りの人々は、本能的にこのやば気な雰囲気を敏感に察知して、先ほどから隣のテーブルとか誰も座ってないわ。嗚呼。いや、それならそれでいいか。それよりも。


 黒髪の美女が鼻の穴を広げながら何とも言えない上気した顔で四苦八苦しているよ怖いよ……


 完全に異世界が私らの周囲3mくらいを包んでいた。こんな転移の仕方があるとわ……ボクの日常を返しておくれよぅっ。


 そんな私の嘆きは、目の前でひっひっふーとの呼吸のリズムを刻んでいた池田が、はぅわっ、との小さな叫びと共に、その表情が驚きと切なさと愉悦らしさとが入り混じったものに変わって停止した瞬間、かき消されたわけで。


 <1P:着手可能域:到達>


 テーブルの上、横にしたスマホ画面の左半分が鮮やかな水色に明滅したと共に、そのような文字がぴろりんとの効果音と共に現れる。達したと……いうのかっ。


「ふ……ふふふ……先手を……取らせていただきましたわよ……」


 ちょっとキャラも変わってるぅー、けど微差だからそれでもやっぱり薄ぅー、と心の中でつっこんでいる場合じゃなかった。こいつの先制DEPを、こっちが着手も出来ない状態で放たれたら、無条件で電撃を喰らってしまう……


 焦れば焦るほど、括約筋にも緊張が走って押し戻す方向に動いちゃうよやばいよ……


 <先手:着手>


 そんな私の焦燥を見て取ってか、池田はストレートの黒髪の隙間から尋常ならざる目でこちらを見ながら口を開いていくけど。


「……『|賽野(さいの)主任とのはじめては、都内の某ホテル……万全を期すためにシャワールームの鏡の前で全・毛の確認を詳細に行っていたら、実はマジックミラーであますとこなく見られていた件』」


 ……あァァァァァァァァァんっっ!?


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