♮023:漂流ですけど(あるいは、マンU/諸国/グラビティー)
僕一人では如何ともしがたい状況だったので、申し訳なかったけど、まだ仕事中だろうジョリーさんにひとまず連絡したわけで。
ここ数年、丸男の動向はジョリーさんも常に気にしていたみたいで、電話越しに、今すぐいくわよほぉぉぉん!! と食い気味で被せられた。ほどなくして、井の頭通りを無駄にクラクションを鳴らしながら爆走してきた真っ赤なジープが僕らの前につんのめるようにして止まる。危ないですって。
「んマルちゃぁぁぁぁぁぁん!! 一体全体どぉうしてたのよぉぉぉぉん!? この二年がとこ全然連絡すら寄越さないでぇん!! ……ていうか、ほんとに、マルちゃん?」
ジョリーさんも丸男の変貌ぶりには驚きを隠せてない。まあ、丸男とアオナギが
「……と、とあるタチ悪系魔性女に、悪徳な高利貸しを押し付けられて、巨額の借金をこさえたまま、返済不能になった……」
何だその絵に描いたようなドロップアウトっぷりは。丸男は体の震えを止められないまま、ジョリーさんに担がれるようにして、ごつい軍用車の後部座席に何とか押し込まれた。
「……そ、そこからはもう逃亡の日々よ……兄弟と一緒にアフリカ辺りまで高飛びする算段だったが、その直前で下手うって俺っちだけ身柄を拘束されちまった……そして兄弟には行けと言い置いて、俺っちはそこで崇高なる犠牲となったのであった……」
混乱収まらないのか、語り口が安定しなくなっているけど。まあ色々あったんですねとしか言えない。促されて僕もそのジープの助手席に乗り込む。
「……『孤島で男だらけの60人掘削サバイバルバスツアー』なる魔人が考えたとしか思えねえ阿修羅の如きの企画から逃げるため、宵闇に紛れて本島まで、真っ黒な海を一晩中泳ぎ通した。あの時は本当に死を覚悟したぜえ……」
凄いな。ただ生きているだけでそんな破壊力高そうなDEPをごんごん引き寄せるなんて。あ、いや、「DEP」て。あっさりと僕もあの時の狂騒の時に、メンタルが引き戻されている気がする。まあしょうがない。
「……そこからは一日たりとも同じ地に留まることはしねえで、常に移動し続けた。歩きとか、たまに拾った自転車で。北は網走から、南は佐多岬まで。そこで『ムロト ミサキ』の名前をふと思い出して、懐かしくなっちまって東京、そして渋谷を目指したのよ」
いや、思い出しかた!!
「けどよお、もうカネは底をついて体はガタガタで、遂に動けなくなっちまった。もう終わりだと観念したところにそっちから来るもんでよお……もう俺っちは召されちまったかと思って取り乱しちまったわけよぉ」
いや、召された先に僕はいないけどな!! ……まあ、良かったと思おう。こんな近場の道端で野垂れ死にでもされてたら、こっちも寝覚め悪いし。
取りあえず戻るわよぉん、との言葉と共に、真っ赤なジープは荒々しいUターンをかますと、いまさっき出て来たばかりの職場へと戻るのであった。……そう言えばアオナギは?
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