第11話 らぶらぶですって奥さん!



 デート、それはどんな年齢であっても青春に戻る瞬間。

 とはいえ、妹から密かに見守ってと言われれば栄一郎は兄として着いていく。

 そして約束のきっかり五分前。

 待ち合わせ場所である駅のスタバで、彼が見たモノと言えば――――。


「ペアルック! 伝説のペアルックでおじゃ! 実在したでおじゃるか!」


「ははは、いやー、フィリアがどうしても着いてきたいって言うからさぁ、これも一緒に着てくれって強請られたんだよ。僕ってば幸せ者じゃない?」


「フハハハハ! 英雄をよ! 見るが良いあの雌猫の悔しがる姿を! 私は大変心地よい!」


「うぎぎぎぎ、う、羨ましい!! わたしだってセンパイとペアルックした事ないのに!!」


 思わず飛び出てしまうと言うものだ。

 二人の服装は、バックプリントの黒いパーカーをお揃いで。

 英雄はズボンでフィリアはミニスカートだが、どちらも白。

 誰がどう見てもペアルック。

 しかも。


「きぃいいいっ! 腕、腕なんて組んじゃって!」


「良いなぁ英雄殿……、なあ愛衣、お兄ちゃんカノジョとデートしたいから抜けていい?」


「駄目! 年増女より妹の力になりなさいよ!! というかセンパイ! どうしてその女を連れてきたんですか!? 秘密でって書いたじゃないですか!」


「愚問だな、私達は――らぶらぶなんだ。恋人同士に隠し事など……無い」


「で、英雄殿。本当の所は?」


「今日一日、ラブラブバカップルで過ごしてくれるって。これって脈アリ?」


「ハードルが上がってないか君?」


「脈アリというか……どうして付き合ってないのにゃ?」


「どうしてって、なぁ……?」


「不思議な事を言う奴だな机は、私も英雄も告白していないし、好意はあれどもラブでは無くライクだ」


「そうだぞ! フィリアの体は愛してるって言えるぐらい欲しいけど、まだ告白していないし、ラブじゃなくてライクだよ?」


「抱き合いながら言われても説得力無いでゴザル」


「そう言われてもな……事実なのだが」


「そうだぞ栄一郎、事実は覆せない……。たとえ同棲していても、僕の童貞という真実の輝きは覆せない」


「信じていたぜゴザル! よっ! 口だけヘタレ大将の英雄殿!!」


「誉めてないよね、それっ!! どうせなら僕にも後腐れない美人の年上の女の人を紹介して――あ痛っ!?」


「死ね」「死んでくださいセンパイ」


「ノータイムで言われた! 僕死んじゃう!? 助けて親友、コイツら足を外さないの!?」


 ぐりぐりと両足を踏まれる英雄に、栄一郎は深い溜息を吐き出して。


「一度、死んだ方が良いと思うでゴザルよ親友……、何故、地雷を踏みに行くのか、それが分からない」


「いや、だって。童貞なんて恥ずかしいし……、経験豊富なお姉さまに手解きして貰ったら、フィリアを押し倒しやすくなると思わない?」


「…………成程、今まで嫌がらせか天然か計りかねていたが、実は照れ隠しだな君」


「え、そうだったんですかセンパイ!? てっきり本気で言っているのかと」


「お二人さん、お二人さん、こう見えて英雄は純愛派だにゃ。あとこの手の発言で距離感を計ってるにゃ、覚えておくと良いでゴザル」


「解説ありがと栄一郎、僕をこんなにも理解してくれて嬉しいけど、一言も二言も余計だよっ!?」


 がっでむと叫ぶ英雄に、ニヤニヤと仏頂面で笑うフィリア。

 そして何故か、兄に対して嫉妬心を向ける妹。

 ――そして周囲からの奇異の視線。

 栄一郎は提案した。


「取りあえず皆、ゲーセンでも行くでおじゃる。駅の南口方面にあるボウリングとか出来る大きい所の」


「……映画でも、と思ってましたけど。余計な人が増えましたものね。仕方ありません」


「らぶらぶな私達に割り込んだお邪魔虫はどなたかな? ああ、ボウリングで白黒はっきりさせようじゃないか、――どちらが女として上か」


「ボウリングで解決する案件じゃないと思うけど、賛成。視線が痛くなってきたよ……」


 そして、ゲーセンというより巨大複合アミューズセンターに来た四人であったが。


「僕から行くぜ……そいや!!」


「出た出た出たぁ!! 英雄殿のガター芸! どうしてそんな華麗なフォームから悉くガターになるのかっ!! 拙者は痺れる憧れるぅ!!」


「けっ、どうせ僕はボウリング苦手ですよ――、さ、栄一郎の番だ」


「拙者の勇士を見るでゴザル。……秘技、ムーンサルト投げ!!」


「すげぇ! 投げた後にムーンサルト!? 意味ないけどスゲェ!! しかもストライクだ!!」


「いえーい、英雄殿ハイタッチ!」


「いえーい、ハイタッチ! ばっちり撮影しといたぜ! ちょっとSNSに上げてくる」


「バズったら拙者のピクシブ宣伝しておいてくれにゃ」


 誤算、これはフィリアと愛衣にとって誤算に他なら無かった。


「ちょっと這寄フィリア! ラブラブはどうしたんですかっ!! 兄さんに全部持って行かれてますよっ!?」


「私とした事が……、これが伏兵というものかっ!! 負けられん!! 行くぞ机妹!! …………そいや!」


「…………スペアですね、這寄センパイのザーコ」


「む、ならば貴様の実力を見せて貰おうか!」


「この愛衣ちゃんを舐めないでくれます? …………ていっ!」


「…………一つだけではないか」


「剣道ならっ、剣道だったら視線はわたしに釘付けなのにっ!!」


 がっくしと肩を落とす二人。

 隣のレーンでは英雄と栄一郎が大はしゃぎ。


「ガター神と呼ばれた男はもういない……そりゃ!」


「ファー! もといガター!」


「ちくせう、何が悪いんだ……」


「拙者が思うに、英雄殿はちょっと肩に力が入りすぎでゴザル。では手本を…………必殺! ヨガフレーム投げ!」


「すげぇ!? 投げた後に浮いたっ!? 今数秒浮いてたよねっ!? どうやったの!? しかもストライク! わんだふぉーー!!」


「なあに、ちょっとした合気道の応用でゴザル」


「ヨガ関係無かったっ!?」


「…………なぁ、お前の兄はどうなっている?」


「聞かないでくださいぃ……どうして天はあんな熟女趣味に二物も三物も与えたのか……」


 この調子でゲームは進み、結果は栄一郎が一位、フィリアと愛衣が同着、英雄がドベであった。

 そしてお次はカラオケの点数で勝負。


「――――ふっ、93点か。今日は調子が悪いようだな」


「嫌みったらしいヒトですね。では次はわたしが……」


「すまぬなマイシスター、拙者の番でゴザル」


「今日も美声を聞かせてくれよ栄一郎! マラカスの準備はばっちりだぜ!」


「…………ここでもかっ!? お前の兄は歌も上手いのか?」


「聞いていれば分かりますよ……」


 げんなりした顔の愛衣に、不安を隠せないフィリア。

 そして栄一郎が歌い終わった瞬間――。


「栄一郎!」「流石だ机よ!」「きゃー! 兄さんもう一曲! もう一曲!」


「ふっ、また拙者の美声で虜にしてしまったか…………ではリクエストにお答えして、次は『世界の果てまで熟女を探す』にゃぞ!」


 またも栄一郎の独壇場であった。


「くぅ……変な歌なのに、感動の涙が止まらないよ……」


「何故、熟女を称える歌で、私はこんなにも涙しているんだ……」


「兄さん、わたしも熟女になればセンパイを振り向かせることができますか…………」


 そんなこんなで、カラオケを楽しんだ後。

 四人は仲良くファミレスで夕食を取り。


「いやー、今日も楽しかった! またな栄一郎! 愛衣ちゃん、月曜に学校でな!」


「我輩も楽しく過ごせたでゴザルよ、しかし店員さんを巻き込んで英雄殿がラップバトルを繰り広げた時はどうなる事かと……」


「うむ、……熱い戦いだった! 私は感動した!」


「しかし、あの店員さん何者だったんでしょう……ブレイクダンスまで完璧にこなして。それを言えば対抗して裸でブレイクダンス始めたセンパイにも驚きましたが」


 ともあれ。


「机妹……、いや、愛衣」


「這寄センパイ……いいえ、フィリア先輩」


「敵は――分かるな?」


「はい、兄さんには負けません! 一緒に頑張りましょう!」


 強敵は他に居ると確信した二人は、仲良く握手をして。


「では、また学校で」「ええ、また学校で」


 ここに、新たな友情が生まれたのだった。

 そして兄妹の帰り道。


「そういえば妹殿よ、英雄殿に聞きたい事があるとか言ってなかったかにゃ?」


「あ、忘れてました! はぁ~~、失敗したなぁ……」


「よければ拙者が後で聞いておこうか?」


「気持ちはありがたいけど、遠慮しときます兄さん。これはわたしと英雄センパイの問題ですので。――まったく、あの日どれだけわたしが待ったと……」


 兄は、妹の言葉にむむむと小さい唸り声を出した。


「――――這寄フィリア、何を考えている」


「何一人で変顔してるんですか兄さん、恥ずかしいので離れてくれます?」


「酷いっ!? せっかく我輩シリアスに決めてたのにっ!?」


 二人は仲良く家に帰った。


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