第七章 登龍門 六
東海理化は愛知県丹波郡大口町に本社を置くトヨタグループ等、大手自動車部品メーカーである。
創部は一九五九年。大規模なリクルーティングを行わないため、戦力的には他チームに遅れを取ることがあり、強豪ぞろいの東海地区で苦戦を強いられていた。
そんな中、二〇〇四年の日本選手権に於いて東海地区予選で優勝を決め、十六年ぶりの全国大会出場に沸いた。
都市対抗には長らく縁がなかったが、二〇〇八年に三十八年ぶりの出場を果たすと、それから四年連続で出場を決めていた。
着々と実績を積み上げながらも、都市対抗、日本選手権と、いまだに本大会未勝利である。
目の覚めるような深い海の青を思わせる、瑠璃色のユニフォームが爽やかだった。
既に先発を言い渡されており、調整は概ね完璧に整っていた。
振り向きざまに上野が尋ねてきた。
「調子はどうだ? ストイックな孝一のことだからしっかり自己管理してると思うが」
「問題ありませんよ。あとは大和を信頼して、きっちり投げ込むだけです」
上野小さく頷きながら、再びスコアブックに視線を戻した。
わずかに開いている窓に掛けられたレースのカーテンが、夜風にそよそよと揺れている。
「見て! 見事な満月ですよ」
磯部の指差す方に目をやれば、思わず口ごもる宵待草。
『春陽一刻値千金』
春は盛りで月は朧な春の夜の一刻の情趣は
千金にも換えがたい価値がある。
窓辺に立ち、しばし宵越しの月を見上げていた。
七
決勝進出を懸けた試合は、予定通り十一時半から始まった。
浜松球場にて行われたA・Bブロックの試合では、すでにJR東海が頂点を取った、との一報が舞い込んできた。
「やべぇ! 俺、鳥肌が立ってきましたよ」
左腕を何度も擦りながら、ベンチを飛び出していった磯部の後を追い、今大会で二度目となるグラウンドの土を踏みしめた。
JR東海と言えば、都市対抗で二度の準優勝を経験した強豪チーム。
今日の一戦は必ず勝ち上がって、同じ土俵の上で戦うのだ。心に誓いマウンドに立つ。
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