第七章 登龍門 四
いよいよ迎えた最終回。抑えきれれば念願の初勝利、初白星となる。
「絶対に勝つ! 確氷監督に初戦突破の報告をするぞ」の危機迫る沼田の一言に気合を注入された九人の侍が、最終決戦の舞台に散らばっていた。
マウンドに立てば再び俺の中でメラメラと強く燃え盛っていく炎。
火も使い方を誤れば、大惨事を招く。自ら招き寄せた炎で己の身を焼き尽くしては元も子もない。冷静に冷静に。
「すげえな、福島のスライダーは。手元で消えたでぇ」
まんまと嵌められた藤岡の放った第一声が、耳の奥でリフレインしていた。
「福島のスライダーは、直球とほぼ同じ起動だから見分けもつかないっすよ。なぁ〜に、こちらもやり返すまでです。ねぇ、りゅう兄ぃ。こっちは消える縦スライダーで、ギャフンと言わせてやりましょう」
磯部の中では完璧なシチュエーションが描かれているのだろう。
絶対にゆずれない一戦。
登龍門の激流に押し戻されて立ち止まってはいられない。
強い流れに逆らって、逆らって。
鋭く尖った岩肌が、容赦なく若鯉の美しくしなやかな身に傷を負わせる。だが、それでいい。
やがて一枚、二枚と剥落ちていく鱗の下には、七色に輝く龍の鱗が、キラリと片鱗を覗かせているのだから。
目指す場所はまだ遥か上にあって、激しい滝の流れに遮られ、何も見えやしない。
が、しかし、確実に存在している。若鯉は登り続ける。ただ一筋に。上へ上へと。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ」
言葉の雨を我が身に降り注いで、熱く激しく燃え盛る炎にセーブをかけた。
ゲームは最終回を迎え、二点を追ってのJR東北。名だたる東北の騎馬武者が、最後の猛攻を仕掛けてきた。
かつて駿河国と呼ばれていたこの地で、悠久の時を経て再びの『花倉の乱』。
刀はバットに差し替えられ、先陣を切って騎馬武者が雄叫びを上げる。八番の唐津だった。
『心に勇みあるときは、悔やむことなし』上杉謙信の言葉が強く背中を押す。
どこからでも受けて立つ‼︎ 剥き出しの闘志に、今一度、武者震いを覚えた。
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