第七章 登龍門 三
三イニングに入り、富士重の先頭打者は九番、富岡。
しぶとく喰らい付いていったものの、フルカウントからのカットボールに、あっさり空振り三振となった。
打順が一巡して再びの上位打線。しかし、完璧に抑えられ出塁さえも許さない。
確氷監督と交わした男同士の固い約束。花道のスタートとなる初戦に負けるわけにはいかない。
時代の波に翻弄され、大きな戦を二度も乗り越えてなお、雄飛の同志たちによって途切れることなく受け継がれてきた熱き富士重魂。
未曾有の震災に見舞われながらも、礼節を重んじ、寡黙に耐え忍ぶ。一歩でも前に進もうと立ち上がる不撓不屈の東北人魂。
互いのプライドが熱き火花を散らす一戦。
目には見えねど、確かに結ばれている魂の絆を今、力に変えて。
俺はと言えば、球速よりも打ちにくさを追求する投球スタイルで勝負をかけて行った。
間を大切にし、いかに打者がタイミングの取りにくい投げ方ができるか。筋力ではなく、重心の移動や体重移動でボールに力を伝える投げ方で、巧妙に打ち崩していった。
指名打者の唐津は、高めストレートでショート・ゴロに。
九番の安田は外角低めのチェンジアップでサード・ゴロに打ち取る。
打順は再びミート力が売りの一番、藤井に。
外角カーブで攻め、まさかの空振り三振を決めた瞬間には、思わずガッツポーズが飛び出した。
スコアボードには上段、下段に三つずつ「0」が加わり、七番目のマウンドに立って間もなくの事だった。
いよいよ堪えきれずに降り出した霧のような細かい雨が、横風と共に左頬をじっとりと濡らしていった。
雲の流れが速い。しかし、次々と押し流されていく暗雲の途切れ途切れに、青空も顔を覗かせ始めていた。
「もうじき、風もおさまってくる。踏ん張りどころだな」
沼田の淡々とした語り口が耳の奥深くにかすかに残っていた。
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