第二章   雷神  一

 孝一と武尊が大学を卒業してから、早くも五年の月日が経とうとしていた。

 孝一は家業を継ぐべく、和菓子職人としての道を歩み始め、武尊は真琴の伝手に頼り、高崎達磨の職人になるべく、修業の日々を送っていた。

 真琴だけは高校を卒業すると、実家の梨農家を手伝いながら、祖母から『伊勢崎銘仙』の紡ぎ方を学んでいた。

 絹の光沢が織り成す伝統美に魅了され、帯や着物を展覧会に出品していたが、そこで著名な友禅作家に才能を見込まれ、弟子入りしていた。

 三人三様で、つたない足取りではあったが、それぞれの道を歩みはじめていた。

 真琴から「二人に渡したいものがあるのよ」との、突然の電話に始まって、久しぶりに三人で逢おうということになり、華やかな夜の街に繰り出した。

 師走に入り、前橋市内の繁華街は銀杏並木に飾られたイルミネーションできらめいていた。

 イベントが目白押しの年末は、あちこちでクリスマス・セールのポスターが貼られ、気の早い店などは、歳末大売出しの赤い幟旗まで立てていた。

 町中には聞き覚えのあるクリスマス・ソングが流れ、それぞれの店が趣向を凝らした飾り付けを施し、華やかムードを盛り上げていた。

「私、今の時期が一番好き! なんかワクワクしちゃうのよね。私にも素敵なサンタさんが現れないかしら」

 子供みたくはしゃぐ真琴を真ん中に、三人で腕を組み、アーケード街を歩く。

 真っ白なモヘアのニットワンピースの上に、柔らかなクリーム色のコートを羽織った、全身白づくめの真琴。

 さながら夜空から舞い降りてきた無邪気な天使のようだった。

「♪恋人がサンタクロース、背の高いサンタクロース 私の家に来る〜ってか。なんなら、俺がマコのサンタクロースになってやんべぇか?」

 真琴は右隣の武尊をキッと睨みつけると「誰があんたなんか! まだ、孝一のほうがマシだわ」と、今度は左隣の孝一の顔を覗き込む。

 ころころと豊かに変わる真琴の表情が見ていたくて「マシってなんだよ。俺は遠慮するぜ」と、敢えて意地悪く返した。

「やだぁ〜、二人とも! 最低なヤツら!」

 プイっと拗ねた顔は、まだあどけなさが残る少女そのものだった。

「おっ、美男、美女が三人並んで歩いてらぁ。絵になるねぇ〜まるで映画のワンシーンみたいだでぇ。若いっつうのは、いいねぇ。戻れるもんなら、おじさんも戻りてぇでぇ」

 通りすがりの酔っぱらいが、酒臭い息で野次を飛ばした。

 確かに目立っていたのかもしれない。

 真琴は町興しの一環で行われた『ミス美里』コンテストで優勝した経験もあり、くっきりとした二重の目に、笑うとちらりと覗く八重歯が愛くるしい顔だちをしていた。

 孝一は185㎝の身長に加え、キリッとした一文字眉が意志の強さを表していた。

 水晶みたく澄んだ奥二重の瞳からは思慮深さが窺えた。

 孝一がソース顔なのに対して、武尊は典型的なお醤油顔だった。

 身長は188㎝と孝一を僅かに上回り、腰高のスラリとした体型は、どこか日本人離れしていた。

 一重の切れ長の目に、はにかんだ笑顔が俳優の『中井貴一』に似ていると持てはやされた。また、ユーモアのセンスも抜群で、高校時代は女子に人気があった。

 そんな三人が街を闊歩するのだ。他人目を惹いて当然だった。

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