第一章   なごり雪   七

 落ち込んでばかりもいられず、武尊は来たるべき将来を見据えた第一歩を探しあぐねていた。

 不自由な足を引き摺りながらでの就活は困難を極め、あからさまに冷徹な言葉を投げかけてくる面接官もいた。

 結局、どこの企業も採用までには至らず、失意を抱えたまま、あてもなく帰郷した。

 そんな武尊の経緯を知る同大学野球部のOBで、全国でも有名な高崎達磨の制作販売を手掛ける吾妻伸介から声が掛かった。

 吾妻は真琴の叔父で、武尊の行く末を案じた真琴が頼み込んだところ、若い芽を育てたいとの理由で、採用を快諾してくれた。

 座ったままできる絵付けの仕事は、足の不自由な武尊にとって、願ってもない好条件であり、即決即答し、修行を始めた。

 一方の孝一も、帰郷を余儀なくされていた。

 大学四年生のとき、不完全燃焼のまま引退の日を迎えた孝一のもとに、父の洋平が倒れたとの一報が届いた。

 一命は取りとめたものの、半身麻痺が残り、和菓子作りができなくなった。

 正月に帰省した際、母の美沙子に泣きつかれ、孝一は店を継ぐ決心をした。

 真琴はといえば、大学進学はせず、実家の梨農家を手伝っていた。

 農閑期には、祖母から伊勢崎銘仙の織り方を教わった。

 真琴の手によって紡ぎ出された美しい着物や帯は、展覧会で評判を呼び、高値で買い取られることも、しばしばだった。

 やがて著名な友禅作家の目に止まり、プロとしての道を歩み始めていた。

 白龍の伝説に彩られた町で、三人の運命の歯車が再び回り始めた。しかし、個々の部品には微妙な狂いが生じ、ギスギスと噛み合わなくなっていた。

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