ユーカリ21枚目 木登り少女
ユーカリサーチを絶え間なく発動し、ステルスで身を隠しながら周囲を索敵して行く。
スキルの使用にはすっかり慣れたもので、モンスターとユーカリの葉を探しつつ考え事までできるくらいだ。
コレットが木登りする場所から周囲二キロ範囲のモンスター(ユーカリの葉を落とす)を、全て狩り尽くし彼女の元へ帰還する。
かかった時間は一時間半くらいか(コアラの腹時計による)。
数も三体と、意識をしていなかったがこれくらいしかいないんだな。ってことは毎日相当な距離を歩きまわっていたことになる……。
ユーカリの葉の獲得数も上々だ。
……なんか日に日にドロップ数が増えている気がする。
ひょっとしたら、何らかのスキルの効果かもしれない。俺の予想では「探索」か「解剖学」が効いていると思うんだよな……どっちも熟練度が上がって行ってるし。
さて、戻ってきたぞ。
コレットは……まだ木登りを頑張っていた。
木の幹にある出っ張りをうまく使って、うまく枝まで到達し「よいしょ」っと枝の上に座るコレット。
「なかなか上手じゃないか」
「慣れてきました。スキルの習得ができそうな予感がします!」
「おお。そいつはいい感じじゃないか」
よかよか。
この分だと一週間もたたずに狩りへ出かけることができそうだ。
「もう少し頑張ります!」
「早めに寝るんだぞ」
「分かってます!」
コレットは枝から降り、ゆっくりとした速度ながらも木の幹を伝い地面に降り立つ。
彼女がいる間は、俺は俺で修行をしようと思っているんだ。
モンスターを狩ることには慣れてきたし、ちょうどいい機会だからさ。
「青色」の小さなスペルブックをアイテムボックスから出し、呪文を唱える。
「ナイトサイト」
『スキルの使用に失敗しました』
街に戻った時に追加でスペルブックと呪文を購入しておいたのだ。
実のところ、コレットは既に「ナイトサイト」の魔道具を身に着けている。
魔道具は青紫の小さな石で、革紐を通してもらって彼女が首から下げている形だ。
なので、俺がナイトサイトの魔法を使う必要性はないんだけど、万が一、「ナイトサイト」の魔道具が壊れたり、落としたり、した場合に備えて呪文も購入しておいた。
何事も準備が大切だからな。やれることはやっておく。サバイバル生活は甘くないから……な。
賢い俺は考えた。
スキルの獲得限界数は未だに分からないけど、街に行けば道具がいろいろ手に入る。
これまで使えなかったスキルだって使うことができるようになるのだ。
まずは、これだ。
取り出したるは、透き通ったターコイズブルーが美しいブルートパーズ。
大きさは小指の先ほどしかないが、れっきとした宝石であり魔道具である。
「アイテム鑑定」
『スキルの使用に失敗しました』
おし。スキルが使用できたぞ。
ん、待てよ。
もぞもぞと、兜熊が落とした角を取り出す。
「アイテム鑑定」
『スキルの使用に失敗しました』
……魔道具じゃなくてもよかったな。
ま、まあ、こういうこともあるさ。
この魔道具は魔道具として役に立つ。何しろ、「疲労軽減」とかいう素敵な能力を持っているのだから。
気を取り直して、次行ってみよう。
できるかどうか分からないけど、新しく覚えたスキルを試してみたい。
ユーカリの葉を一枚取り出しまして、何がいいかなあ。
マッチにしておくか。
よっし、行くぞ。
「錬金術」
『アイテムが失われました』
「どえええええ!」
「どうしたんですか? コアラさん!」
「あ、いや。敵とかそんなんじゃない。大丈夫」
お、俺のユーカリの葉が……。
あわよくばユーカリの何かが作成できると思って取得したんだけど……スキルの使用に失敗したら消えるなんてあんまりだ。
残念な出来事もあったけど、街に行った収穫は大きい。
大目標たるユーカリ茶の獲得以外にも、スキルの修行用、槍の新調などなどできることが大幅に広がった。
「コアラさん、さっきから姿が消えたり元に戻ったりしてますね」
いつの間にか枝の上まで戻ってきたコレットが小首をかしげる。
「姿を消すステルスってスキルを常に使っているんだよ。声を出すと元に戻る」
「へええ。凄いですね!」
「冒険者ギルドでも姿を消していただろ?」
「あ、あの時! そうだったんですね」
ポンと手を叩き、コレットは納得したように首を振った。
「どうだ? スキルは習得できたか?」
「はい。何とかスキルを覚えることができました!」
「どれどれ」
コレットのステータスをチェックしてみる。
『名前:コレット・マズリエ
職業:回復術師
レベル:5
ギフト:有
スキルスロット1:料理 熟練度20.1
スキルスロット2:軽業師 熟練度1.2』
「えへへ」
「木登り以外にも使えそうなスキルだな」
「ですです!」
「スキルの性能も分かっているのか」
「はい! コーデックスが教えてくれるんですよ」
ええっと。何だっけそれ。
あ、思い出した。
コレットのギフトだ。ギフトはステータスに表示されないから、頭から抜け落ちていた。
「へえ。スキルの能力とかも分かるなら、呪文とかアイテムの情報も分かるのか?」
「はい。多少は……ですが。誰もが少し調べれば分かることしか分かりません……」
しゅんとするコレットだったが、俺はそうは思わない。
「何言ってんだ、コレット。とても素晴らしいギフトだと思う!」
「え、コアラさんのようなすごい方にそう言ってもらえるなんて」
褒められて嬉しいというより、困惑した様子のコレットだった。
「『ちょっと調べれば分かること』のちょっとを覚えておくことは難しい。調べるのも手間だしな」
「そんなものですか。わたしの知っていることなんて、誰もが知っていることですよ」
「違うぞ。それは大きな間違いだ。冒険者の知っていることと、武器屋の店員さんが知っていることは違うだろ」
「はい。確かに」
「コレットのギフトはとんでもなく応用が利く。浅くとも幅広い知識ってのは貴重だぞ」
「嘘でも嬉しいです。わたし、自分のギフトで褒められたことなんて無かったんです……」
スマートフォン片手にいつでも「ちょっとしたこと」を調べることができる世界なら、「役に立たない」能力だろう。
しかし、この世界なら話は別だ。何を調べようにも書物を漁るか、人に聞くしかない。
軽視されがちだが、情報ってのは非常に重要なものなんだぜ。
なんだか微笑ましくなって、コレットの頭をポンポンしようとしたが、コアラだから届かない。
「抱っこさせてくれるんですか?」
「あ、いや。いいぞ」
うんしょっとばかりに彼女の二の腕にお腹をつけたから勘違いさせてしまったようだ。
だけど、まあいいか。飴と鞭だ。内心でニヤリと笑う俺である。
「やった」
「だが、そのまま寝るんだぞ」
「こ、ここでですか……?」
「大丈夫だ。ロープも買っただろ」
「分かりました……抱っこできるから我慢します」
どんだけ抱っこしたいんだよと内心突っ込みつつも、彼女が枝の上で寝てくれるならそれでいいかと思いなおす。
彼女が寝るまでの間、スキルの修行でもしておくとしよう。
「うぎゅー」
「可愛いです」
な、撫でたらダメだ。変な声が出るだろう。
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