大変よ。た・い・へ・ん

 神聖国・大荒野



「大変よ。た・い・へ・ん」

「何よ?」


 悪魔を宿した妹様がこっちを見て来る。

 中身が違うだけでこうも人って印象が……外見がポーラなのに残念臭が半端ない。


「嫁さんだけを愛しますとか言いながらあっちこっちに手を出しまくりハーレム男!」


 こちらの不穏当な気配を察したのか無慈悲で容赦のないワサビをアイスしたような言葉の剣が僕の心を抉りやがった。

 ツンッとした感じに涙が溢れそうだよ。


「ちょっと事実に打ち震えないでくれる?」

「おま……容赦は何処に捨てて来た?」

「はぁ? そんな物は生まれる時に母親のお腹の中に忘れて来たわよ」


 即答かよ。


「君の母親はたぶん慈愛に溢れる聖母のような人なんだろうね」

「男作って夜逃げしたけどね」


 捨てた容赦ぐらいじゃ色々とカバーできなかったのか。


「それで何よ?」

「ええ。大変よ」


 オーバーアクションで悪魔が地面を指さす。


 見ろ。人がゴミの様だ。本当にゴミの様だ。ほぼ全員がビクビクと……あれは大丈夫か?


「霜焼けに塩って意外と凄いのね。お姉さんビックリよ」

「本当に情けと容赦は何処に捨てて来た?」

「そんなの父親のきんた、」

「ウチのポーラの口からそんな言葉は言わさせな~い!」


 絶叫して相手の言葉を打ち消した。僕の耳に届いていないからセーフだ。


「それで折角の情報源たちの怪しい扉を開いてしまった悪魔さん。これをどうするの?」


 ほぼ全員が地面の上でビクビクしているのです。

 そしてあれの臭いが漂っています。栗とかイカとか呼ばれる類のあれです。


 臭いが漂い出してから身の危険を感じたアテナさんは尻尾を巻いて逃げ出した。今はノイエの傍でどうしたらペガサスの丸焼きを上手に焼けるか試行錯誤している。


 たぶん火力を押さえてじっくり焼けば良いんだと思うよ。

 ノイエは堪え性が足らない部分があるから強い火力で一気に焼こうとする。それだとお肉の外側は焦げて内側は生になってしまう。低い温度でやらないとダメなのだ。


「あれよね。汗疹に効くからって虫刺されの薬を塗った時のことを思い出しての行動だったんだけど……あれって軽い拷問よね。始祖はあれをするのが大好きだったわ」

「たぶんここに居る人たちは汗疹に虫刺され薬を塗ったことが無かったんだよ」

「そうね。失念していたわ」


 サラッと始祖の恥部を公表しやがったな。怖い女だ。

 何より失敗は成功の母だ。ノイエだって半数ほど焦がして何かを学んだはずだ。

 焚火に薪を追加して……何を学んだんだウチのお嫁さんは?


「それでどうするの? ここの人たちは?」

「どうするかね~」


 拷問と言うか悪戯が過ぎたが一応僕らは仕事をした。


 氷オムツの脅威に全員が屈しないとかはあり得なかった。1人が日和れば続いて日和る者が出る。隊長や副隊長は根性を見せたが下に行くほど根性よりも恍惚とした表情を見せる馬鹿が増えた。


 何となくポーラの手によって氷オムツを装着さることに激しい興奮を覚えたような……きっと僕の気のせいだ。

 その手の危ない人はより過激なオムツを履かせた。お尻の部分、あの穴を狙う絶妙なポジションに太い棘の付いた物だ。ズブッと押し込むとさらに怪しげな表情を浮かべた剛の者も居たが。


 きっと神聖国は変態率が高かったのだろう。マジで引くわ~。


「とりあえず話を纏めよう」

「そう言ってさっき転寝してたわよね?」

「気のせいです。深く深く考え込んでいただけです」


 その結果ちょっとだけ睡眠時と似た状態になったかもしれません。

 後で専門家による医学的な見地に期待することとしましょう。


「まあ良いわ。このハーレム野郎」


 抉るな抉るなマイハート。


「このペガサスな人たちは私たちがやって来たゲートに神聖国の精鋭を運んでいた。その帰り道で欲を出して私たちを捜索、偶然発見して返り討ちにあった」

「みたいだね」


 まさか対空兵器を僕らが持っているとは思わなかったのだろう。ただの石だけどね。

 おかげで彼らは上空からの魔道具を使った攻撃が出来なかった。近寄る前に全て落とされたから。


「僕としてはこの人たちを探しに来た捜索隊待ちなんだよね」

「そうね」


 悪魔が何とも言えない表情を浮かべる。


「ここに転がる変態は出来ればお持ち帰りして欲しい物よね」

「で、その変態たちを作ったのは?」

「お姉さま~。強い火力は中華以外では役に立ちませ~ん」


 何故か腰を振りながら悪魔がノイエの元へと走って行った。

 失敗続きで完全に拗ねているノイエにちゃんとした丸焼きを食べさせて欲しい。それよりもだ。


「結局ペガサスって食べられるの?」


 誰もこの問いには答えてくれないのです。




 ユニバンス王国・王都内中央広場



「スモウでの武器の使用は禁止よ! それはスモウに対する冒とくよ!」

「あん?」


 敵を金棒で殺したら噛みつかれ、トリスシアは眉間に皺を寄せた。

 相手が何を言っているのか理解できないのだ。


 だから片腕で握っている金棒を犬の様に騒ぐ女に向ける。

 ビチビチと金棒から相手の顔や体に血肉が飛び散ると、相手は小さな悲鳴を上げた。


「お前らは何だ? 遊びに来たのか?」


 やる気を失った様子でトリスシアは嘆息する。


 これは失敗したと素直に思う。これだったら北の門を担当すれば良かったとも思う。

 ワラワラと来る雑魚の相手を嫌い少しでも強い者と……そう企んだ結果がこの場所だ。


「もう一度聞く。お前たちは遊びに来たのか?」


 残りの人間は3人だ。騒いでいる女が一番強そうに見えたが、どうも的外れだったようだ。


「違う」


 生き残っているウチの1人。一番弱そうなのが前に出て来た。


「私たちはこの国を攻め滅ぼそう、とっ!」


 オーガの金棒が動いて女の頭部を吹き飛ばす。

 首から上を失った女性……コムスビは、膝から崩れて地面に伏した。


 2人の強者を失ったヨコヅナは、化け物に目を向けた。

 もう絶望的だ。こんな相手に勝てるわけがない。自分はいったい何に挑んだのか?


「つまり戦争をしに来たんだ。それなのに決まりごとなんざ口にするな」


 金棒を肩に担いでオーガは鼻で笑い飛ばす。


「戦争なんて殺し合いだ。どんな手を使っても最終的に生きている者が勝者だ。それが戦争の決まりだ」


 金棒を消しオーガは両腕を広げてそれを閉じる。バンッと大きな音がし、その手の間に頭を挟まれた女性……セキワケがこれまた膝から崩れて地面に伏す。


 1人残ったヨコヅナはようやく気付いた。違う。ようやく目が覚めた。

 自分が今どこに居て何をしているのか……それを自覚して全身を震わせた。


「やる気もなくなったし逃げるんならさっさと消えな。3人も仕留めたんだ。上も怒るまい」


 手を振って両手の血肉を払い飛ばしたトリスシアは、1人残った女に告げる。


 正直に言えばそれはシリラからして甘い甘い誘惑だった。

 きっと相手は宣言通りに見逃してくれる。まるで満腹のドラゴンが小動物を餌にせず見送るかのような振る舞いだ。違う。相手が強者だからこそ弱者を相手するのが面倒なだけなのだ。


 弱者だからこそ。


 シリラは相手に体を向けたまま数歩下がって、ゆっくりと腰を落とした。


「やるのか?」


 薄く笑いトリスシアは悠然と両腕を広げる。

 その構えは強者の振る舞いだ。

 シリラから見ればその姿はベテランが新弟子に稽古を付けるかのような悠然としたモノに見えた。


「私は神聖国の女ヨコヅナだ。最強位を受け継ぐ女だ」

「そうかい」


 ゆっくりと両手を地面に着いてシリラは顔を上げた。


 巨壁だ。


 目の前には絶対に打ち破ることの出来ない巨壁が存在している。

 挑めば確実にはじき返される。挑んだ時点で命など残らない。

 それが分かるが挑まなくてはならない。自分もまた自身を最強と呼んでいた愚か者だからだ。


 何も知らず……確か古い言葉でそんな自分のことをこう呼んでいたはずだ。

『井の中の蛙大海を知らず』だ。

 過去の人は本当に良く分かっている。本当に何も知らない自分が恥ずかしい。


「立ち上がれば死ぬぞ? それでも前に出るか?」


 目の前の巨壁からかけられた言葉は事実だ。それを実感しているシリラは泣きながら笑った。


「強者に挑まず逃げる者がどうしてヨコヅナなど名乗れるか! 怪我を負おうが病に侵されようがヨコヅナは常に土俵に立ち死ぬまで強者でなくてはならない! それが私、ヨコヅナを名乗るシリラが覚悟!」

「……悪くない」


 トリスシアは数歩下がり相手を真似て腰を下ろししゃがんだ。


「来いよ。アタシをこの状態から少しでも動かせたのならばお前の勝ちだ」

「動かせなければ?」

「背の骨を折って殺す」

「上等!」


 ありとあらゆる力を絞り出し、シリラは全力で相手に向かい突進した。


 自身が繰り出す最高の立ち合いだった。

 問題は相手が微塵も動くことなくそんなシリラを受け止めたことぐらいか。


「悪いな。ヨコヅナさんよ」


 ニヤリとオーガは笑い、彼女の胴体にその太い腕を回した。




~あとがき~


 大荒野では…シリアスさんの姿が微塵感じないなw

 馬鹿共が馬鹿をしておりまする


 ユニバンスでは人間相手なら負ける訳ないオーガさんが最強してます。

 ヨコヅナが相手でも人間基準ですからね…




© 2022 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る