まずこちらから
ユニバンス王国・王都内練兵場
「どうして私が……」
「あん?」
ミジュリとか言うメイド服を着た馬鹿を見下ろす。
どうやらこの馬鹿は、反省が何たるかを理解していない様子だ。
今は後ろ手に縄で縛られ拘束されているが、自分は何も悪いことはしていないという雰囲気がプンプンする。
この手の馬鹿は容赦なくお仕置きして良いとノイエの目の奥で彼女の姉たちがそう訴えかけている気がする。
僕の何かは確実にそれを受信しました。
「ポーラ~」
「はい兄様。御用ですか?」
テンション高めの妹様が……絶対にこれはポーラの姿をした別物だろうな。
だって言葉が舌足らずじゃないしね。
「この馬鹿に反省という物を教えたい」
「なるほど。わっかりました」
両眼を閉じた状態で妹様の姿をした悪魔が、ミジュリの前で魔法を使う。
氷の魔法で作ったのは……座布団サイズの洗濯板と丸太を切る大きさのノコギリだ。
「こちらは定番の拷問道具……お仕置きに欠かせない道具になっています」
「今、拷問って言ったわよね!」
「気のせいです。錯覚です。幻聴です」
「絶対に言った!」
ミジュリの叫びを悪魔は笑顔でスルーだ。
「まずこちらから」
「人の話を聞け!」
完全無視で悪魔が洗濯板を指さす。
「この上に座っていただいて重りを抱いて頂きます」
「……」
ミジュリの顔色がみるみる悪くなる。
「たぶん足が死にます。でも気合で」
「無理だからっ!」
「それと重りはもちろん氷です。暖かな今の時期にはピッタリですね」
「お願いだから人の話を聞いて!」
華麗にスルーを継続で悪魔がノコギリを指さす。
僕もそれを見てどんな拷問……お仕置きなのか分からない。どう見てもノコギリだ。
「こちらはノコギリ刑で使用します」
はて? 今、『刑』と聞こえましたか?
「首から上のみを出して罪人の体を地面に埋め固定します。そして通行人にこのノコギリを手渡しし、一回ずつ首の所をギコギコと……死ぬまでに反省してくださいね?」
「一度で死ぬから!」
「大丈夫です。人間意外としぶといですから」
一度で死なないことをどうして知っている? まさかしたことがあるのか? なんて恐ろしい!
悪魔がミジュリの前にしゃがんでその目を開いた。
「そう簡単に死なせないわよ?」
「ひぃぃぃいいい~」
ポーラの言葉に恐怖で嘶き……ミジュリは地面に頭を押し付ける勢いで謝りだした。
流石悪魔だ。
恐ろしい拷問を……ノコギリ刑は拷問か? 絶対に処刑だよね?
何故か楽し気に悪魔がミジュリに対して次なるプレゼンを開始したので一度離れる。
あの様子なら僕が戻る頃にはミジュリも反省を思い出しているはずだ。
辺りを見渡してテーブルの一角を占領しているノイエの元へ向かう。
ずっと僕の腕に抱き着いていたノイエだったが、いつも通り『お腹空いた』と言い出して食事を求めて彷徨いだした。で、あっという間に山のように肉料理を集めて現在もきゅもきゅしている。
まあたくさんの残飯を生み出すよりノイエが食した方が良いだろう。主催者がどんな屑でも料理人まで屑とは限らない。何よりノイエが黙々と食べているから味だって悪くないはずだ。
というかあれほどの騒ぎが生じたのに誰一人として帰っていない現状に僕的にはビックリだ。
唯一帰ったと言うか、離脱したのはこの集まりの主催である爺だ。
突然虚空を見つめ呆然とし、動かなくなった。会話もできる状態では無いので足の怪我の治療を優先し、呆けた方の理由はその内原因究明がされるだろう。
僕的にはノイエの背後霊であるユーリカが……幽霊が魔法を使うようになったら世紀末だよな。でもあれもノイエを溺愛している姉の1人だから不可能では無いかもしれない。
真っ直ぐノイエの所へ向かいつつも視線は辺りを見渡す。
せっかく集まったのだからと談笑している貴族たちも居るが、多くは馬鹿兄貴の所に集まっている。
何故か現在馬鹿兄貴たちは、ミジュリが隠し持っていた短剣型の魔剣について色々と話し込んでいるのだ。
そんなに珍しくないでしょう? 珍しいの?
スッと近づいて来たミネルバさんが言うには大変珍しい物らしい。
というか貴女の首の傷は? 気合で出血を止めた? 普通止まらないでしょう?
気合で首の筋肉を……言っていることが特殊過ぎて理解が追い付きません。
それであの魔剣の売値? 何故そんな質問を? 貴族たちが全員欲しがっている? 特にクロストパージュ家が全力で?
あれのオークションを開始するかは後日判断します。
だから今日は性能の確認で満足……性能を試験しているフレアさんがこっちを見て物凄く欲しそうな顔をしているのは気のせいだよね? そんなに凄い魔剣なの? 歴史上例を見ない系なの?
分かったから。オークションは後で考えるから今は実験してて。
フレアさん以外にも貴族たちまで混ざって僕の方を見つめて来たので逃げ出す。
さっさとノイエの傍に行くのが正解だろう。
「ところでパパンは?」
僕の質問が悪かったのかミネルバさんが首を傾げた。
ドクっと出血したがその一回で止まった。本当に気合なの?
パパンこと前王は『流石にこれ以上の催しはあるまい』と言って帰ったそうだ。
完全に娯楽感覚だな。一応異世界のドラゴンとか出たんですよ? ノイエのワンパンで消滅したけどさ。そうじゃ無くてブルーグ家についての話し合いを陛下とするため?
……頑張れパパン。僕は基本政治にはノータッチだ。
ミネルバさんはポーラに呼ばれて音を立てずに離れていく。
悪魔に視線を向けると……知ってる知ってる。あれがかの有名なアイアンメイデンだろ? でもそれって透明度の高い氷で作っちゃダメなヤツでは? 中の様子が完璧に見えるよね? マニアックな人にはたまらないだろうが。
人格崩壊し始めたミジュリが全力で頭を下げ続けている。
もしかしたら根っこの部分は真面目だったのかもしれない。
色々あって性格が捻じれて……ノイエの姉たちって病んでる人が多いからな。
ようやくノイエが占領しているテーブルにたどり着いた。
右手はお肉を口に運び……ノイエさん。ワイングラスをアホ毛で持たない。
飲み物は重要? それは分かるけどちゃんと手で持ちなさい。
片手が塞がっている? そうだろうね。ノイエが左腕で抱えているファナッテがジタバタと暴れて僕に手を伸ばしているしね。
というか姉を抱えているからずっと食事をする羽目になっているのでは?
さっきからノイエの左腕から焼けるような音が止まらないしね。焼けては治るを繰り返しているからずっと祝福が機能してお腹が減るんだと思うよ。
驚いた様子でノイエが抱えているファナッテを放す。
猫もビックリな速度で彼女が抱き着いて来た。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん……ハァハァ。お兄ちゃん。お兄ちゃん……ハァハァ。お兄、」
「落ち着け」
スリスリしつつクンクンまでしてくるファナッテの頭を押さえつけて一度落ち着かせる。
この子ってば基本真っ直ぐ過ぎて周りの視線とか気にしないタイプだ。今も僕に甘えるのことが優先されてドレスの方が色々とギリギリな状態に。
こぼれるから。その柔らかな胸がこぼれちゃうから。
そっと手を貸してファナッテのドレスを直す。
こらこらノイエ君。こっちの様子を確認して自分のドレスをわざと崩さない。
大丈夫。今日の僕は覚悟を決めたから……
「先生。例のあの魔法を僕に使って欲しいかな?」
「なに?」
「何でもない。ただのおまじない」
嘘です。僕には効果が薄かったあの精力剤的な魔法がもしかしたら今回凄い威力を発揮して、ノイエとファナッテを迎え撃つ材料になるかもしれないと淡い期待を抱いただけです。
「そんな貴方に朗報!」
ニョキっと僕の視界に悪魔が姿を現した。
反射的に殴りつけたら体をのけ反らして回避……失敗。後頭部から地面に頭を叩きつけてゴロゴロと地面の上を転がりだした。
この馬鹿が馬鹿の所以だ。ポーラは意外と体か硬いのだ。
それを忘れてマトリ〇クス避けをすればコケるに決まっている。
「復活!」
だが馬鹿はあっさりと復活した。
ミジュリはどうした? 準備中? 何の?
視線を動かしたらミジュリは人が入れるほど釜の上に吊るされ……今からお風呂か。そう思おう。
「で、スライムちゃん」
「……なに?」
何故ファナッテがスライム……納得だ。言い得て妙だ。
「今からお姉ちゃんが凄く良い魔法を伝授してあげる」
「要らない」
即答のファナッテに悪魔がうんうんと頷く。
お前って本当にメンタルが強いよな。
「それを覚えるとそこの馬鹿がケダモノになって貴女たちを一晩中楽しませて、」
「「要る」」
何故かノイエまで合流して……止めなければ。放してくださいミネルバさん。
ミジュリが呼んでる? 全ての罪を悔い改めて、心の底から謝罪したい?
そんなのは後で良い。今この機会を逃すと僕の身が、僕の身が!
~あとがき~
前話を少しだけ加筆修正しました。
睡眠って本当に大切だなw
でもちゃんと寝れずに何度も起きてしまった。
ダラダラと寝ると疲れが残って…安眠ってナンデスカ?
悪いことをしたらちゃんと謝らないとってことでミジュリに反省を促します。
速く謝らないと罰がどんどんエスカレートする仕様です。流石刻印さんw
そろそろこの章も…もう少し続くぞ。マジで!
© 2022 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます