死がその体を呼びに来るまで
ユニバンス王国・王都内練兵場
《何が起きたの?》
分からない。お尻に衝撃を受けたと思ったら……本当に何が起きた?
ゆっくりと顔を起こすと辺りの様子が目に飛び込んできた。
怨敵バッセンは地面を這って逃れようとしている。逃がす気は無いがこれが犯人とは思えない。
ならば……犯人を発見した。
ノイエの触角のような髪を掴んでいる夫が居た。
あの愛らしいノイエの髪を掴むなど言語道断だ。ノイエ結婚なんて許すべきでは無かった。こんな暴力を振るう相手と結ばれたらノイエが不幸になってしまう。
今もノイエは泣きそうな声で、
「ああんっ……アルグ様……もっと優しく」
「ノイエさん? ちょっと落ち着こうか?」
「ダメ。手を放したら怒る」
「何故に? どうしたら僕の方が脅されることになるのかな?」
「お兄ちゃ~ん」
「まさかの乱入だと? そんなに場をかき混ぜたいのか? どこを掴む気だファナッテ!」
抱き着きに行ったファナッテの手が彼の股間に……きっと悪い夢だ。これは悪い夢だ。
現実から目を背け、ミジュリは今一度目を閉じた。
自分が悪いことばかりしていたからこんな夢を見るに違いない。
悪いのは全て自分だ。自分なのだ。
《逃げなければっ!》
必死に地面の上を這うバッセンに対し救いの手は差し伸べられない。
近づくほどに周りの貴族たちは距離を置きニタニタと笑っている。他人の不幸を本当に楽しそうに……これだから貴族などとい生き物は信用できないのだ。
バッセンは自分の行いなどを棚に上げ、貴族たちを胸の内で激しく罵った。
憤っても何も解決などしない。
生き残るためには自らが頑張らないといけない。
必死に地面を這って進む老人はそれに気づいた。
進行方向に立つ少女の存在にだ。
「たっ助けて……」
必死に顔を上げれば、綺麗なドレス姿の小柄な少女……そこに居たのはあのドラグナイト家夫妻の義理の妹だった。
両眼を閉じて、どこか微笑む様子で佇んでいる。
「助けて欲しいの?」
三日月のように口が開いたと思えば、少女はケタケタと笑いだす。
「どうしようかな? 貴方には私の命を狙ったという恨みしか無いしな~」
「違う。あれは全て部下が」
「部下の悪事は主人の責任でしょう?」
笑い声は響く。
けれど少女の言葉も止まらない。
『一体何が起きている?』と考える老人に、少女はゆっくりとその目を開いた。
“両目”に不思議な金色の模様を浮かべた……昔話に聞く三大魔女の1人のような目をしている。
「そんな……まさか……」
驚愕し腰を抜かす老人に少女は笑う。
「私はあの馬鹿たちと違って、やられたらやり返す主義なの。それもしっかり倍返しでね」
「違う。本当に殺そうとは」
「もう遅いのよ」
ケタケタと笑う少女に老人の言葉は届かない。
「死になさい。死がその体を呼びに来るまで……終わらない悪夢を見続けるが良い」
「嫌だ嫌だ嫌だ~!」
絶叫する老人に救いの手はない。
『
魔女は胸の前で文字を綴るとそれを押し出し魔法とした。
「だから大人しくしててください」
「でもな~。フレア?」
「良いからそこに」
自ら確認に行こうとしていた主人を制し、フレアはゆっくりとその人物に近づいた。
アルグスタたちの元から這い出て逃れようとしていた老人が、突如慌てた様子で怯えだすと、動きを止めて空を見上げて動きを止めたのだ。
出血が多くてこと切れたにしては様子がおかしい。少なくともまだ生きている気配はある。
故にフレアは近づく。
願わくば襲い掛かってきてくれれば幸いだ。正当防衛を主張できる。
全力で殺してやるのに……老人は近づいても動かない。
フレアは相手の顔を覗き込んで理解した。
「ハーフレン様」
「どうした?」
離れた場所で父親と共に居る主人に対し、フレアは正直に告げる。
「亡くなっています。心の方が」
「……そうか」
理解しハーフレン頭を掻いた。
フレアもそしてハーフレンもバッセンが精神的に耐えきれなくなって心を壊したと判断した。
けれど彼の口は言葉にならない言葉を放ち続けていた。
『どうすれば終わるのか?』と。
「ノイエ。その腕を放しなさい」
「ダメ。アルグ様が悪い」
「僕が何をした?」
「……言わない」
また僕の右腕に抱き着いたノイエがスリスリと頬を擦り付けて来て甘える。
僕が何をした? 容赦なくアホ毛を掴んで超刺激を与えただけだ。それだけでノイエは色気を振りまいているような気がする。
「ファナッテも」
「お兄ちゃん」
こっちはもう僕の話を聞いていない。
左腕に抱き着いて……落ち着けファナッテ。僕の左手を何処に挟む気だ? お股はダメだ。まだ明るい。
何故抵抗するほどに躍起になって挟もうとする~!
気づけば2人の発情した女性に抱き着かれている状態だ。イジメか?
落ち着いて考えるとスタートに戻った気がした。
否、2人が発情しているということを吟味すると……現状の方が最悪か? どうしてこうなった?
ノイエは仕方ない。あのまま暴走される方が困る。
問題はファナッテだ。ノイエに駆け寄ろうとする僕の邪魔をする彼女に『願いは何だ?』『お兄ちゃんと一緒に』『今夜一緒に寝てやるから手を放せ』『約束だよ』と……流れるように口約束を交わして僕の今夜が色んな意味で終わった。
連戦か? まさかの共同戦線は無いよな?
「ファナッテ」
「なに? お兄ちゃん」
「今夜はノイエとの先約があってな」
「平気」
「……何が?」
「ノイエと一緒でも平気」
「……」
僕を挟んでファナッテが顔を傾けノイエを見つめる。
「ノイエも良い?」
「良い」
お嫁さん即答でした。
マジか……ノイエにファナッテだと? ダメだ死ぬ。今宵の僕は間違いなく迎えが来る。
「ノイエも1人の方が?」
「平気」
奇麗な顔して無慈悲ですか? お嫁さん。
「ファナッテも」
「平気だよ」
何か恥じらいを持ち合わせていない子が居るんですが?
「あれだあれ。2人ともミジュリのことを忘れてないか?」
言葉にした僕だが、ぶっちゃけ彼女の存在を忘れていた。
そもそもあれが色々と悪い。
ミネルバさんは……ポーラが鼻歌交じりでお尻を振っているからたぶん大丈夫だろう。
それにしても何故お尻を振っている? 本当にポーラか? こっちを向け。右目を見せろ。
おっと脱線した。ミジュリだ。
あの馬鹿は……まだ地面と仲良くしていた。もしかして死んだとか無いよな?
両腕に色気しか漂わせない大輪の花を纏わりつかせながら、僕は地面に突っ伏しているミジュリの元へ。
「起きろ」
「……顔がっ!」
容赦なくミジュリの尻を蹴り飛ばしたら、何故か顔の方にも被害が出たらしい。
ゴロゴロと転がり……残念メイドにしか見えなくなって来たぞ?
~あとがき~
4/8 少しだけ加筆修正しました。
短いし内容も酷いっす。
寝ずに書くのは良くないっていう典型的な例だと思います。
ごめんなさい。これが限界でした。
バッセンはそもそも最恐の人物を敵に回していました。刻印さんです。
刻印さんが可愛い弟子の命を狙われて怒らない訳が無いんです。
だから凶悪な魔法で心を殺しました。
迷宮は…死ぬまで悪夢を見続けさせる刻印さんの即興魔法です。
即興の割には始末に負えない魔法を作り出すのが三大魔女ってところですね
© 2022 甲斐八雲
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