下着ってどうなっているの?

 ユニバンス王国・王都内練兵場



「……暗殺者ですか?」

「そうだ」


 ゆっくりと頷く前王にバッセンは戸惑う。


 あの魔道具に仕込まれた毒は完璧だ。憎いあの男に抱き着いている化け物が作り出した解毒不可能と言われた逸品だ。それを受けて生きているとは信じられない。


 前王ウイルモットは、車いすに腰かけた状態でゆっくりと自分の顎に手を運んだ。


「まだ調査中であるが、どうやらその毒は多少劣化していたと思われるとか」

「劣化……?」

「ああ。管理が悪かったのか、そもそも長期保存などを想定していなかったのか……まさか『強力な毒を作れ』とだけ命じる馬鹿は居ないと思うのだがな」


 自身の顎を撫で前王の目はずっと化け物を見ている。

『本当にお前がファナッテならこの問いに答えろ』と言いたげにだ。


 だが化け物は何も答えない。

 全力でアルグスタの腕に抱き着いている。


「普通毒を作ればその管理方法などを確認する物だ。使う時に劣化してしまっていたら大問題だからな」

「……」

「だが今回の毒は劣化していた。調査した魔法学院の者も毒を受け大怪我を負ったが命に別状は無いらしい。まあ大怪我を負ったと言うので喜ばしい話では無いが」


 ウイルモットは一度話を切って、控えている息子のメイドにワインを求める。

 運ばれてきた物を受け取り口にし、一息ついてまた口を開いた。


「のうアルグスタ」

「何でしょうか?」


 上級貴族の当主として返事を寄こす息子に……前王は何とも言えない表情を向ける。


「もう少し格好を気にせんか?」

「無理ですね。2人が放してくれません」

「ノイエは分かる。お前の妻だ。だがもう1人……確か毒の息吹はその身に触れることも出来ないほど、常に強力な毒を纏っていると報告にあったはずだが?」


 その言葉に周りで野次馬している貴族たちが一斉に二歩ほど後退した。


「今も纏っていますよ。ノイエ」

「はい」


 流れる動作でノイエが手を伸ばし、ジュっと音が響いた。

 ただ焼ける音がしただけで、ノイエの手には焼けた痕は無い。


「ノイエの場合は治癒能力が上回る時があるんで毒が効きませんが」

「だったらお主は?」

「……何か僕にはファナッテの毒が効かないんです」

「全くか?」

「全くです。その証拠にずっと抱き着いています」

「確かにな」


 息子が無理をしている様子を見せないので演技の類では無いとウイルモットは理解した。

 まあ焼け爛れる激痛を耐えられるような息子では無いので……やはり何かしらのズルをしているのだろうと理解できるが、それ以上は分からない。


 息子には魔女と言う最強最悪の部下が居るのだ。どんなズルも可能なのだろう。


 ただその親子の会話を絶望のままに聞いている人物が居た。

 ブルーグ家の当主、バッセンだ。


 自分が持ち込んだ毒がもし効果を十分に発揮できなかったとしたら?

 何より標的であるあの憎い相手に通じなかったとしたら?


 このままでは確実に負ける。


 前王は何かを掴んでいる。

 このまま会話が続き……もし暗殺者が生き残っていて全てを自供していたら?


 その思いにバッセンは自身の愚かさに気づいた。


 領地で息子たちが殺されたと聞き、次の手に考えが向いていた。

 もしそれすらも王家の策だとしたら? 自分がブルグレンのことを忘れ、アルグスタへの恨みに傾倒するように……そしてその隙にブルグレンの街を近衛が調査していたら?


 言いようの無い不安からバッセンは視線を巡らせ彼を見た。

 前王の車椅子を押しているのは近衛団長だ。

 その彼が……バッセンの視線に気づくとニヤリと笑ったのだ。


 まるでその考えが正解だと言わんばかりに笑ったのだ。




《同情するぞ。バッセン》


 ハーフレンは絶望で視線を彷徨わせている老人を見つめた。

 まさかファナッテの毒がアルグスタに通じないのはハーフレンですら知らなかった事実だ。だからこそこの馬鹿な弟は自分を餌にして色々と悪巧みを考えたのだろう。


《本当に同情はするが……だがまだだ。まだアルグの馬鹿の番が終わってない》


 今のは魔法学院から持ち込まれた毒に関する報告を父親が言葉巧みに弄んでいるだけだ。

 誰も『アルグスタ』を狙ったなどとは言っていない。事実魔法学院からは『お宅の前隊長が変な魔道具と一緒に偉く強力な毒を持って来たんですけど? 何かの事件ですか? 急ぎますか?』と聞かれただけだ。


 イーリナが動いたとなれば間違いなくアルグスタ関係だと思い『急ぎでは無いが……まあ調べられるようなら調べておいてくれ』と部下を通じて頼んではおいた。

 その会話が前王の耳に届いたのだろう。頼んだ部下と言うか相手がフレアだったのが一番の問題だったのかもしれない。何気にフレアは今回の件を怒っている。


 ノイエが狙われているという部分が特にだ。

 預かって数年……彼女の世話をして来たからやはり愛情を持っているのだろう。

 故にその怒りのせいでだいぶ無理をしている。そろそろ屋敷に押し込んで母親の面倒でも任せる方が良いのかもしれない。


《まあ頑張れバッセン》


 思考は脱線しているが、これからの展開を考えると自然と頬が緩む。

 ブルーグ家には何度も面倒を押し付けられてきた身としては……バッセンの苦しむ姿が滑稽に思えて仕方がないのだ。悪趣味かもしれないが。




《魔道具ってイーリナが持ってたあれか~》


 あの魔道具の毒は魔法学院で~とか言ってたからな。

 それがパパンに伝わったと。別に問題は無いな。うん。僕は関係ないしね。うん。


 問題はずっとあのエロ親父がファナッテの尻を見つめていることだ。

 クロストパージュのエロ親父も横移動を繰り返し、前王の斜め後方に陣取っている。


 あの辺がベストポジションなのか? つまりあの辺に居る野郎共は全員エロ親父認定しても良いわけだな?

 本当にユニバンスの有力貴族はエロいことしか考えない奴らばかりだな!


 確かに背中がガバッと開いたドレスを纏っているファナッテも悪い。悪いが作ったのはあの悪魔だ。ここまで背中を開いたドレスはこの世界で初めて見た気がする。

 開きすぎのせいで若干腰の下ぐらいまで……下着ってどうなっているの? 今のファナッテの下着ってどうなっているの? 穿いているよね?


 頑張って指先で確認。


「んっ」


 抱き着いているファナッテが甘い声を出して増々密着して来た。

 今のは事故です。君がそんなに強く抱き着いているから指の可動範囲が少なくて生じた事故です。ですからノイエさん。対抗しないでください。密着が増すごとに僕の腕が砕けそうです。


 色々な何かと戦い僕は勝った。そして理解した。

 ファナッテは紐のような細い下着を穿いている。


 紐パンか。前にノイエに穿かせるマイブームがあったな。うん。あの頃の熱い何かを思い出して今度また穿かせよう。ノイエのエロい姿は大好物だ。

 昔と違うのはノイエがそれで火が灯って襲い掛かって来ることぐらいだ。

 出会った頃のノイエはもう少し大人しかったのにな……あの頃が懐かしい。


 ただ僕は悟った。エロい下着は静と動が必要だというのをだ。


 エロいポーズの静と艶めかしい誘いの動だ。つまり静止画と動画だ。

 その2つは実に奥が深い。具体的に言えばノイエの場合はエロいのだが、何と言うか美を見ている感じになって来る。芸術作品な感じだ。プロカメラマンによる写真集だ。

 対してレニーラ辺りがエロい下着を穿くと大変だ。普通に18禁だ。とにかくエロいのだ。興奮するのだ。どうにも止まらなくなって気付いたら大変なことになっている。


 最終的に両者とも僕に襲い掛かって来るのだが……はて? 僕は何を考えているのでしょうか?


『お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん……』


 たぶん犯人はこれだ。

 ファナッテがずっと発情して、僕の耳元で囁き続けているせいだ。


 この子ってこんなエロい子でしたっけ?

 落ち着こうよファナッテ。ノイエが真似しだしたらカオスだからね?


 両腕を塞がれている僕は何もできない。

 と言うか毒でなくてここが刃物でも……そうそう。爺の背後に居る部下らしい人が引き抜いているあの短剣が僕に向かって突進してくるとね、回避とか難しいんだ。




 隙を伺っていたバッセンの部下は、主人に黙って勝手な行動をした。


 忍ばせていた短剣を引き抜きそれを握りしめて突進したのだ。

 怨敵とも言って良い……ドラグナイト家の当主に向かって。




~あとがき~


 アイルローゼの胸の内を期待していた人は残念。

 そう簡単に表に出たりしないのです。だって先生のネタは色々と引っ張れるから。


 三者三様…それぞれが別のことを考えている様子を書いてみたかっただけですw


 で、エロい奴らばかりだな? 大丈夫かこの話?


 そんなに気を抜いていると…ほら。真面目な人が居た




© 2022 甲斐八雲

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