勝負は時の運
ユニバンス王国・王都北側通用門
「あれ? いつもと道が違う気が?」
拗ねるノイエを眺めつつポーラを撫でていたら、ふと窓の外の景色が違うことに気づいた。
「はい。こうじのかんけいで」
「工事?」
僕の質問にポーラがスラスラと答えてくれる。
何でも誰かが率先して行った王都北側の大開発により、北側の門を壊して建て替えることになったらしい。だったら先生に言って一発ドロッととも思ったが、壊した門や石垣は再利用するとのことでドロッとはダメらしい。
それで今日からは別に作った臨時の迂回路を使用するとのことだ。
仮設の門も作られて……誰がこんな大掛かりな工事を望んだ?
と言うか思い付きで行動しちゃダメだな。こんなことばかりしているから陛下が弱ってお休みに突入することになる。
チビ姫を連れてだいぶ遅い新婚旅行に出かけた。
陛下は胃の辺りを押さえ青い顔をしていたという目撃情報もあったが可哀想に……たぶん心労だろうな。人の上になんて立つものではない。お兄様を見てて心底そう思うよ。
「陛下が休めるなら僕も休みたい」
「にいさま?」
「ポーラもそう思うよね?」
「……はい」
渋々と言った感じでポーラが頷いたのはスルーしよう。頷いたと言う事実が大切なのだ。
「ポーラは素直で可愛いね~」
「うれしいです」
頬を寄せてポーラの頬の感触を味わったら、ノイエが手を伸ばしてきて妹様を回収する。
ギュッとポーラを胸に抱いて僕のことをジッと見つめて来た。
「それはダメ」
「ノイエがして欲しいから?」
「……知らない」
拗ねたままポーラを抱いて体を動かす。
僕なんてもう見たくありませんよと言いたげに背中を向けてきた。
本当に拗ねるノイエも可愛すぎる。
突然手持ち無沙汰となってしまったので……近くに転がっている宝玉を手に取ってみた。
「最近ニクを見ないな。死んだ?」
「せんぱいのとなりにいます」
「この馬車に乗っていたのか」
その事実にまず驚いた。
あのリスことニクは何でも御者席に座って居るミネルバさんの横に居るとか。
室内に籠っているよりも外の空気に触れる場所が良いのだろうか?
「ちなみにロボは?」
あれも最近姿を見ていない。
「ししょうがそうじをするようにして、おやしきでだいかつやくです」
「マジで?」
「はい。へやのすみまでそうじしてくれます」
本当に掃除機能を付けたあの悪魔もあれだが、大活躍しているというロボにもビックリだ。
「で、どんな感じなの?」
「ちいさなほうきとちりとりとですみずみまでそうじを」
「……そっか~」
箒とちり取りを持ったハ〇が延々と掃除する姿を思い浮かべたら実にシュールでした。
ロボであるなら掃除ぐらいとは思ったが、少しはビジュアルを考えて欲しい。
「あの馬鹿ってデザインがシンプルなんだよな~」
コスプレ衣装にはこだわる割には、魔道具のデザインがシンプルなのが刻印の魔女だ。
ここにある宝玉も元々の形に1枚ガラス張りのような膜を覆っただけだしね。
両手で宝玉を持ち上げて頭上に掲げる。
もう少し細工ぐらいはして欲しいかな~。ん?
ポンっと宝玉から音と煙が沸き上がった。
掴んでいた宝玉が突然柔らかく、そして重くなって……何故か顔を弾力のある塊で挟まれる。
「ん? 空中?」
左右からのこの感触は間違いない。何より声がそれを物語っている。
伝説のパフパフタイムかっ!
「どうして抱きしめる? 匂いは嗅がないで欲しいんだけど。ちょっとノイエ。見てないで助けて欲しんだけど」
「知らない」
「何故拗ねている? と言うか潰れる潰れる。君も何がしたい」
そんなの決まっています。ノイエがジャルスにしていたように僕も自分の顔を左右から全力で挟まれたいのです。
「ちょっと痛い痛い。そんなに強く抱きつかなくてもちゃんと挟めるから」
「……はさめるんですね」
絶望チックな妹の声は聞かなかったことにしよう。
今はただリグの巨乳を味わい尽くしたいのだ!
「で、何か用?」
そろそろ本題に入るべきだと僕の何かが訴えて来たから質問したが、リグはその目をフラットにして軽く睨んできた。
「酷い言われような気がする。あんなに抱き着いて匂いを嗅いでおきながら」
「それは仕方ない。目の前に山があれば登るのが登山家ですから」
「君は登山家ではないだろうに」
確かに僕は登山家ではない。
ですがそこに巨乳があれば征服したいと思う欲ぐらいは備わっています。
揉んで挟んで弾ませてと十分にリグの超兵器を堪能してから彼女を解放したわけだ。余りにも僕が巨乳に抱きつくものだから、ノイエが増々拗ねてリグを強引に回収して行った。
現在のリグはノイエに抱きしめられている。
ノイエはリグの背後から腕を回し、彼女の胸を抱え込むような形でギュッとしているのだ。
弾力性が凄いリグの胸がノイエの腕の中で大暴れする様子はずっと眺めていられる。本当に凄い。
おかげでポーラは体育座りをして隅の方で何かを呪う言葉を発しているがそれは聞かないでおこうと兄は思う。
「と言うかリグが出て来たのは意外だったな」
「どうして?」
「てっきりホリーかレニーラ辺りが」
先生が外に出てから魔眼の姉たちは基本静かだった。
何よりあのホリーが静かすぎるのが怖い。
「レニーラやシュシュならファシーと遊んでいたよ」
「そうなの?」
あのファシーに遊び友達が?
「魔眼の中枢で2人の上に乗って吠えていた」
「……」
それってたぶん勝利の雄たけびなのでは?
「で、リグはそれを見ながら?」
「うん。外に用事があったからね。だからそのまま……なに? その泣きそうな目は?」
そんな顔を僕はしていますか?
「リグ」
「なに?」
「今日はゆっくりしていってね。帰る時間までのんびりしてて良いから。それともどこか出かける? 何か食べに行くなら好きなだけ食べて良いから」
「出かけたいけれど……」
僕を見るリグの目に何故か恐れが。
「何か企んでいるの?」
「全然。ただ今日はリグにのんびりして欲しいんだ」
「そう……ならお義父さんの所に行って帰ってからゴロゴロしたいかな」
「良く分かりました」
「それと少し贅沢な物も食べたいかな」
「任せてください」
それぐらいならお安い御用です。でも僕の親切心をリグは理解してくれない。終始首を傾げているが、きっとその訳は魔眼に帰ると分かると思うよ。
ファシーの逆鱗に触れているかもしれないリグは……最後の晩餐は贅沢にしてあげよう。
「あれがドラグナイト家の馬車ですか?」
「ええ。そのようで」
白いドレス姿の女性と老年のメイドが通り過ぎようとしている馬車を見つめる。
巨躯な馬が一頭で牽いて行く馬車を見送り、オープンカフェスタイルで紅茶を味わっていた女性は視線を戻した。
あれが今回の標的である『ドラグナイト』だ。
「あの御者席に座って居たメイドは?」
「申し訳ございません。お嬢様。まだ情報が集まりきっておりませんが、何でもかのメイド長の秘蔵の弟子とか」
「……話に聞く王都に住まう王家の番人の弟子ね」
掴んでいたカップをソーサーに戻し、女性は今一度通り過ぎ遠くに移動した馬車の背を見た。
「そんな人物を護衛に置くだなんてやはり元王子だから?」
「そうかもしれませんが、あの夫婦は共にドラゴンスレイヤー。王家が丁重に扱うには十分な理由かと」
「そう」
軽く頷き椅子に腰かけていた女性は立ち上がる。
白い帽子を被り全身を白く見せる女性は、控えているメイドに目をやった。
「私とあのメイド長……どちらが強いかしら?」
「答えようのない質問にございます」
「あら? 貴女ほどのメイドがメイド長の実力を知らないの?」
「知っています。ですがお嬢様の実力を鑑みると……やはり答えは出せません」
「どうしてかしら?」
「はい」
薄く微笑み老メイドは『お嬢様』と呼ぶ相手を見つめた。
「勝負は時の運でございますから」
「そうね」
認め女性は運んで来た自身の相棒を収めた鞄を掴む。
「でも私なら勝てるはずよ。誰であろうとも……それがあのドラゴンスレイヤーでも」
「はい。お嬢様」
~あとがき~
どさくさに紛れて外に出たリグは…帰ったら色々と終わるかも?
それを理解している主人公は優しさに溢れておりますw
王都の街角からドラグナイト家の馬車を見つめる“お嬢様”と“老メイド”
スィーク叔母様と勝負できるって結構な規格外生物なんですけどね
© 2022 甲斐八雲
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