Main Story 24
犯人はこの中に居ました!
ユニバンス王国・西部大都市ブルグレン
ユニバンス王国の南寄りの西部に存在する大きな街がある。名を『ブルグレン』と言い、西部最大の大都市とも言われている場所だ。
南部に存在して居た大貴族を相手にうまく立ち回り、大きく発展したその街は現在数多くの貴族だった者たちが集まっていた。
誰もが没落し居場所を失った貴族だ。名ばかりの貴族とも言う。
それを統制しているのがこの街を統治する大貴族、ブルーグ家の当主であるバッセンである。
彼はもう老人と呼んでも良い年齢であるが、だが息子たちにその椅子を譲らず、現在も現役でブルーグ家の当主を務めていた。
椅子に深く腰を掛け、深い皺が刻まれた顔に手をやり彼は目元を指で軽く揉む。
この数年で本当に不満を言う貴族たちが多く集まって来た。
おかげで毎日のように彼らの不満を聞き、そして少ない金を渡して帰らせると作業が続いている。
本来なら息子にでも押し付けてしまいたい事柄だが、没落貴族の中には言葉巧みな者も多い。故に息子たちがその口車に乗って『最悪な選択』をする可能性がある。
事実もう馬鹿な息子たちは貴族たちの口車に乗ってブルーグ家が秘匿していた人材を王都に派遣した。
厳密に言えば西部で秘匿していた人材であるが、西部が一つに纏まりつつある現状としてはその人材は『ブルーグ家の人材』と言っても過言ではなくなっていた。
《あと10年早ければ……》
胸の内で呟き老人はその視線を窓の外へと向ける。
大きく発展した街はブルーグ家の誇りだ。それは歴代の当主たちの努力の賜物だ。
《儂が先に逝くか、それともことが進むのが先か》
ゆっくりと目を閉じる。
動き出してしまった物は仕方ない。トカゲの尻尾を切る方法などいくらでもある。
《王家は貴族を切り捨てようとしている。確かに数は多いが……それでもこの国を支えて来た者たちだ。それを容易に切ることの愚かさは学ぶべきである》
ただ支払うこととなる駒は有限であり貴重な人材ばかりだ。
《またしばらくは地に潜り力を蓄えるしかないようだな》
それがブルーグ家だ。
昔から変わらず、王家との距離を保ちつつ力を蓄える。
何代も何代もそれを繰り返してきたからこその大貴族なのだ。
《ぽっと出の王子などに我が一族が積み重ねて来た誇りは食い破れんよ》
王都で名を馳せる元王子にして大貴族に対し、老人は笑みを浮かべる。
それは若くて勢いのある人間に対しての嫉妬も含んだ笑みだった。
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「あぶな~」
今グラグラと揺れたんだけど耐えたよ。どうよ?
「アルグスタ様。凄いです」
「そうですとも。僕は勝負ごとに対して決し、」
「ここでしょ?」
僕の偉業を褒めたたえるクレアの言葉を遮って魔女が動いた。
ちょいと棒を掴んでアイルローゼが下から上へと動かす。
耐えるなジェ〇ガ! 何故耐えるのだ!
「はい。どうぞ」
「……おおう」
僕の頑張りがまさかの自爆材料に?
何なのこの先生。一度見ただけでどうして僕より上手いのさ!
「もうここに手を出すしか」
「良いの?」
恐る恐る手を伸ばす僕に先生の声が。
一度落ち着け。本当に大丈夫か? 僕がさっき動かしたのが地雷になっていないか?
「動かさないの?」
「……」
揺さぶりか? だが僕は決して引かない。退かない。揺るがない。
「ここを引き抜いてアイルローゼの下着を奪い取ってやる!」
気合で引き抜いたら、ガラガラとジェ〇ガが崩れ落ちた。
「はい。負けね」
「何故だ!」
これが若さか? 若さなのか?
「で、負けたら何だったかしら? そうそう。私が欲しがっている物を一つ買っても良かったのよね?」
「……はい」
満面の笑みで先生が控えているミネルバさんを呼ぶ。
崩れ落ちたジェ〇ガはポーラが手早く集めるとまた綺麗に並べてタワーとなった。
「にいさま」
「はい?」
ニコリと笑って妹様が僕を見る。
「つぎはわたしとです」
「……はい」
そして見事に連敗した僕は、クレアとイネル君に勝ってどうにか勝敗をイーブンとした。
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「年代物のワインと言っても普通ね」
「……」
今夜の我が家の食卓には年代物のワインが並んでいる。
勝負に負けた僕が支払いを命じられた、どれも逸品だと言うワインばかりだ。
悔しいがぐうの音も出ない。
「お姉ちゃん」
「何かしら?」
「それは?」
「貴女の旦那様が買ってくれたのよ」
「むぅ」
アイルローゼの言葉にノイエが頬を膨らませた。
ただ同時に肉を食べるので、何が理由で頬が膨らんでいるのかが謎となる。
「アルグ様」
「勝負をして負けたのです。贈り物ではありません」
「……あれも?」
「そうです」
ノイエが言う『あれ』とはポーラが抱えている大きなぬいぐるみだ。
ツキノワグマの形をした、中の綿を抜いたらポーラが着ぐるみとして使用できそうな大きな物です。なんでも買い物をしていて一目惚れしたとか。だったら買えばいいのに『兄様からの贈り物が良いんです』などと可愛いことを言って来た。
ギュッとぬいぐるみを抱いているポーラの姿にメイドさんたちの表情がほっこりとしている。確かにぬいぐるみで遊ぶポーラは絵になるし、何より可愛い。
ただ若干一名ほどぬいぐるみに対し、親の仇でも見るような目を向けている人が居る。
たぶんぬいぐるみに嫉妬しているのだろう……本当に大人げない。
笑顔で居る2人の様子にノイエのアホ毛がビタンビタンと不機嫌そうに左右に揺れている。姉と妹が僕から何かしらを送られている現状がノイエさん的には許せないらしい。
ほろ酔い加減の先生に何をしたのかを聞きだし、メイドさんから持ち帰って来たジェ〇ガを受け取ると無音でテーブルの上に積み上げた。
暇潰しの玩具として作ってもらっただけなのに……僕は決してリバ〇シを作って売ったりしません。そんなベタなど論外です。つかホリーが出てきたら恐ろしいことになるからボードゲームの類は却下です。運ゲー以外は絶対に作りません。
「アルグ様」
「はいはい」
食事中なのにノイエが『やるの』と言いたげにアホ毛を回す。
ノイエって器用そうに見えて集中力が無いから……持久戦に持ち込めば勝てるはずだ。
順番にゲームを進めていくと、やはりノイエが集中力を欠き始めた。
これはあっさりと……
「ノイエさん」
「なに?」
「魔法の使用は禁止です」
「……知らない」
そんなわけあるか! ならどうしてその二本抜かれた場所が崩れない? ポッカリと大きな穴が開いているのに耐えるとか、無理があるでしょう!
「強化魔法は禁止です」
「……説得しただけ」
「どれの何を?」
「この部分を」
だからその指さしている場所に魔法を使ったんでしょう?
「にいさま」
「ほい」
ぬいぐるみを抱くポーラがこっちを見て来る。
「ねえさまはまほうをつかえません」
言われてみればそうだった。ノイエは魔法語が綴れないので魔法が使えない。アルファベットは読めるのに英単語を言えないって感じらしい。
先生の見立てでは脳の一部に障害があるのではとのことだ。
僕の愛らしいお嫁さんだからそんな欠点など気にもしないが。
「なら誰が?」
僕の問いにぬいぐるみを抱いたポーラが移動する。
彼女に隠れていた術式の魔女が、ほろ酔い加減でタクトを振る指揮者のように指を動かしていた。
「何よ? 文句あるの?」
「大有りだっ!」
犯人はこの中に居ました!
ただアイルローゼは右手を握りしめると、それでドンとテーブルを叩いた。
崩れ落ちないジェンガは……魔女の手により強化されて難を逃れたと見える。
「妹が勝ちたいと思っているのよ。勝たせるのが姉の務めでしょう?」
「だからってズルをするのは許せんな!」
「何よ! だったら貴方なんて」
また指を振って何やら唱えようとしたアイルローゼがズルズルと椅子を滑り落ちていく。
完全に酔いが回ったのか床の上にちょこんと座った。
「ノイエ~」
「はい」
甘えた声を出すアイルローゼをノイエが救出する。
姉を抱きかかえたノイエはどこか嬉しそうだ。
「運んで~」
「はい」
命じられるままにノイエはアイルローゼを運んで行った。
何か最近の先生ってば……あんな風に抜けた姿を晒すことが増えた気がする。
~あとがき~
通常運転で新章スタートです。
多すぎる貴族を減らす王家とそれを良しとしない貴族たちとの攻防となります。
まあ貴族たちからすれば目の上のたん瘤はアルグスタたちなので、ここにちょっかいを掛けて……と企んでいるみたいですが、その尻尾の主がなんであるのかを理解しているのかな?
© 2022 甲斐八雲
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