参加する条件は……

 ユニバンス王国・王都郊外北側



 叔母様の乱入で話が複雑になった。

 我が国でも有数の勢力を誇るメイド一派の首領ドンの我が儘でメイド枠は2人までとなった。だからメイド枠ってナンデスカ? ミネルバさんとフレアさんが出るんですか?

 うわ~。公演主としたら喜ばしい展開だよ。ミネルバさんもフレアさんも美人だから間違いなく客を集められる。


 ここまで来るとそろそろ本格的に舞台をどうする? 前回レニーラが公演した旧スラムの舞台を突貫工事で拡張するか? 観客席は仮設で良いよな?


「おにーちゃん。相談があるです~」


 何故か両手に飲み物を持ったチビ姫が笑顔で来た。


 チッ! やはり独占は難しくなったか。


「……7:3でなら手を打とう。もちろんウチが7で」

「それは持ち出しも同じ割合です~?」


 このチビめ……出費にまで口を挟むか?


「ウチはそれで応じよう」

「なら乗ったです~」


 チビ姫から飲み物を受け取りシェイクハンド。


「会場は前回の舞台を突貫工事するです~」

「それしか無いよね」

「会場の警備は国軍と近衛を動かすです~。その費用も込むです~」

「ちょっと待て。それはそっちの手持ちの戦力では?」

「ならおにーちゃんは経費で人を雇うです~?」


 この~! そんなことをしたら経費が膨大に! 7の出費が!


「分かった。ただし飲食の出店の割合も7:3で」

「仕方ないです~」


 ふふり。これで食べ物飲み物で荒稼ぎも出来るし、場所を売っても金になる。


「でも独占しすぎると他から睨まれるです~?」

「だね。だから出店の権利を半分ほど売る予定です」


 僕のプランは完璧さ!


「アルグスタ様」

「むほっ!」


 密談をする僕とチビ姫の背後から気配も感じさせずに声が……振り返ったらフレアさんが居た。


「何ですか?」

「はい。スィーク様からで、『1は持つので権利を寄こせ』とのことです」

「……」


 地獄耳か? セシリーンか? 本当にあの叔母様が一番厄介な相手である。


 あっちで枠の奪い合いをしているから大丈夫かと思ったのに……とポーラが食器をお盆に乗せてやって来た。

 祝福の追加ね。忙しいからちょっと多めに……これで良い?


 お盆を持ってポーラがまたノイエの元に戻る。それを受け取った彼女はオーガさんを担いだままでフォークを投擲してドラゴンをしとめる。飛んでいるのはあれで良いけど、陸を走っているのはどうなってるんだろう? ああ。空から落ちて来るドラゴンをムシャムシャかな?

 本日の狩りは数が少なそうだ。


「なら6:3:1でどう?」

「私の方は文句ないです~」

「こちらも同じです」


 ですよね。僕が1を手放しているだけですから。




「出るよ。面白そうだ」


 刻印の魔女から話を聞いたカミーラは迷わずに応ずる。

 その性格から断ることは無いと思っていた刻印の魔女だが、スッと片足を引いて自分の前を棍棒が過ぎるのを見送った。下がらなくても当たりはしなかったかもしれないが、ギリギリ胸先に棍棒が当たりそうな気もしたのだ。だからの回避だ。今の体は胸が大きい。


「ねえ知ってる? 私への暴力は普通に死に直結するんだけど?」

「気にするな。当たらないように振ったさ」

「あっそう」


 軽く肩を竦め魔女は無礼を働いた相手を見る。


 長身でワイルドな感じのする美女だ。長い紫の髪は波打ち、自然と背筋を伸ばしているからその大きな胸が飛び出している。聞くに魔眼の中では2番目に大きな胸を持っている。

 何と言うか傍から見るとエロさしか感じない女性だ。


「で、私に喧嘩を売った理由は?」

「決まっている」


 両手に持つ棍棒を落とし美女は笑った。


「どうしてカミーラが代表なんだ?」

「……貴女が彼女に負けているから?」

「あん!」


 凄んで詰め寄る相手に魔女は嗤う。


「なら貴女も出る?」

「……出れるのか?」

「ええ。宝玉は2つあるのだから」


 両腕の肘を折り、手の指をカニのように動かし“2つ”をアピールする魔女に対し、今度は美女……ジャルスが笑った。


「なら私も出るよ」

「りょ~かい。だったら今日の所は喧嘩を止めて試合当日まで待機してなさい」

「ああ」


 長い髪を掻き上げジャルスはその場を離れる。


 相手の背を見送った魔女は、改めてカミーラに目を向ける。

 何故か唸る猫を彼女は抑え込んでいた。


「猫ちゃんは今回出れません」

「ふなぁ~!」


 怒れる猫が牙を剥く。


「魔法を使ったら直ぐに戻ることになるわよ?」

「……なぁ~」

「獣化も魔法でしょう? それにそれを使うなら初戦であの白い子に当てて終わらせるから」

「な~」


 ノイエが相手になると流石の猫もお手上げた。

 正直勝てる気がしない。大切な友達に勝つには……やはり無理だ。自分が使える魔法を休みなく叩きつけることが出来れば勝てるかもしれない。でもそんなことは出来ない。

 大切な友達なのだから。


「今回は見学してなさい。あの子の目と言う特等席で見れるんだから」

「なぁ~」

「はいはい。嘆かない嘆かない」


 魔女に頭を撫でられ猫は諦めた感じで鳴いた。

 それを見てカミーラは弟子を放し、改めて魔女を見る。


「出るのは良いんだがひとつ条件がある」

「何かしら? 今ならまだ間に合うわよ」

「ああ」


 薄く笑いカミーラは正面から魔女を見た。


「参加する条件は……」




 僕らが運営の話をしていると、参加者を決める方もエキサイトしている。

 ドラゴンスレイヤーの3人とカミーラは確定だ。で、メイド枠で2人決まった。もうそれにツッコむ気は無い。残りの2枠で荒れていた。

 ぶっちゃけノイエたちに匹敵する人材が2人も居ないらしい。当たり前だ。

 ただ大将軍が『……を呼び戻せ! 国軍所属の騎士の実力を見せつける!』と騒いでいた。どうやら国軍にも隠し玉が居るらしい。

 残りの1人をどうするかトップ会談が行われている。ただフレアさんが近衛団長を拘束してドナドナしていった。王弟様は今回出れないらしい。


「この場所を譲るです~」

「ならこの2か所は譲らん」

「む~です~」


 現在僕らはチビ姫と出店の場所を奪い合っている。

 まず出店予定地を10に分け、それを僕らは1ずつ取り合った。1を取ったら叔母様の枠は終了なので、フレアさんは出場する気満々で腕を振り回していた馬鹿兄貴の捕獲に出向き帰宅して行った。


 そして僕らは残りの7を奪い合いしている。

 チビ姫が的確に良い場所を得ようと足掻くので困っている。こちらもそこそこ譲っているというのにだ。


「ここは譲らん」

「む~。ならこことここです~」

「そっちなら構わん」

「おにーちゃんはもっとお姉ちゃんに優しくするべきです~」

「知らん。つか姉であるなら弟に優しくしろと言いたい」

「私子供だから分からないです~」


 可愛らしく舌を出すチビ姫に、横から手が伸びて来た。

 サッとチビ姫の舌にスプーンが触れ……両頬を押さえて馬鹿が悶絶した。


「お兄様。グローディア様との連絡が取れそうなのでちょっと陛下に話しかけてください」

「……」

「何よ?」

「いんや別に」


 怒った振りをしたポーラが僕を見る。

 可愛い姿に騙されたらダメだ。この悪魔は本当に自由人で……魔女だ。


「で、チビ姫に何したの?」

「ちょっと熱したスプーンで撫でただけよ」

「あっそう」


 見るとチビ姫は水を求めて這っている。

 まあ良い。この生物は何度でも蘇る系だしな。


「それとお兄様」

「何よ?」

「あっちの魔女も連れて行って。お姉様も」

「りょーかい」


 陛下は今、ノイエを挟む対角線上に居るので問題無い。


 ウチのお嫁さんは見た限り中々にカオスだ。

 オーガさんを担いで、椅子に座って居るアイルローゼを背後から抱きしめている。


 ツッコむのが嫌だったから分捕り合いに集中していたのに。




~あとがき~


 ジャルスも参戦決定です。そして大将軍があれを呼び戻します。

 …ミシュは出ません。あれは暗殺者なんで。


 残りはメイド枠のミネルバ+1人ですね。まあ彼女ですけどw 




© 2022 甲斐八雲

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