……だけかいっ!

 ユニバンス王国・王都王城内議場



 本日の僕はあえてこの場所に立った。

 鬼門を押しのけてこその漢だ。漢字の漢と書いて漢だ。何故これが『おとこ』なのかは分からない。


「は~い。注目」


 バンバンと準備した黒板を叩いて参加者全員の視線を集める。


 本日の集まりは自由参加です。

 僕のことが嫌いな人は参加しなくて良いです。ですが参加者の基準を引き下げた結果、僕を嫌う上級貴族たちは派閥の人たちを参加させ様子見をして来た。


 上級貴族で参加している目立った人は、クレアたちの実家でクロストパージュ家。馬鹿兄貴のお嫁さんの実家であるミルンヒッツァ家。叔母様のハルムント家辺りは代理でも家名を出して参加している。

 次期当主のイネル君が自ら参加しているヒューグラム家は……察してやろう。それが僕の優しさだ。


 あとの大貴族は名を出さず派閥貴族の中に代理の人が混ざっているのだろう。

 諜報は戦争の要です。


「では僕が国王陛下に申し出たこの度の無謀な計画を説明します。もちろんこの計画を説明するに辺り、参加は自由です。資金援助など大変ありがたいのですが、陛下より土地の提供だけは許可しないとのお達しを受けています。ですので土地の提供は諦め、協力したい人はお金を出してください」


 気のせいかクロストパージュのエロ親父が舌打ちした気がするぞ? アンタ……土地の提供を企んでいたな?


 軽く睨むとエロ親父はやる気を無くした様子で、僕の横に控える今回の作戦の協力者の足に視線を向けた。下から上へと舐めるように見るな。

 僕なら実際下から上へ……実行できますけどね。


「帝国と共和国が弱体した今、僕らユニバンスは後のことを考え是が非でも手に入れたいものがあります。それは何か!」


 バンと黒板を叩く。

 そこにはチョークで適当に描いた門のイラストがあります。


ゲートです!」


 そうゲートです。この大陸に8つのみ存在する大型転移魔道具です。


「このゲートを我がユニバンスの物とするのです!」


 無意味に演説調で力んでみた。意味はない。気分だ。


「我々がゲートを手に入れれば、帝国共和国は大変焦ることでしょう。だからこそ手を回してゲートを奪います。そして奪ったゲートをユニバンス国内に移設します。

 はい。ここで陛下が禁止した土地の提供が絡んできます。移設先は現在陛下が睡眠時間を減らして頑張って選考しています。もう数日中には確定することでしょう」


 と言うかぶっちゃけ移設先は決まっている。

 人は僕の言葉をただのブラフとも言う。


「移設後の警備は国軍と近衛が半々ずつ兵を派遣します。管理に関しては後で陛下が宣言するでしょうが、基本王家の直轄となるでしょう。現時点では計画を実行する僕が押し付けられている仕事がゲートの周りの環境作りです。僕はそこに交易所を整備し、商人たち向けの宿屋や食堂、酒場などの建築を考えています。ついでに言うとゲートで使用する魔力を供給している魔法使いたちの娯楽にもなります。たぶん儲かります」


 間違いなく儲かる。

 その儲けを僕は……今回は独り占めする気は無い。あくまで平等にだ。


 本当ならホリーお姉ちゃんと要相談なのだがホリーが出て来なかった。魔眼がメンテ中だから仕方ない。

 おかげでチビ姫にケーキを与えて働かせた。ケーキはいい仕事をしてくれてチビ姫に仕事をさせた。


「ですのでこれからお金の話しかしません。具体的には投資のお話です。興味のない人は退席を。僕は止めません。本当ですよ?

 ……退席しませんか。そうですか。でしたら、この取り出したるこれ! 実はこのガラスの塊に見えるこれですが、クリスタルと呼ばれる特別に硬い物質で作られています。叩こうが焼こうが何をしようが簡単には壊れません。唯一通じたのは、とある魔女の『腐海』と呼ばれる魔法だけです。それだって融けるのに時間が掛かりました。つまり簡単に壊れません」


 で、そんな硬い物質がなぜ必要か?

 それは今回の商業施設の資金援助を株式的な形にするからです。


 このクリスタルは今回の販売枠分の数が存在している。

 先生に『適当に硬くてちょっとした部屋の飾りになりそうな物を作れませんか?』とお願いしたら、ノイエの魔力を使って大量に生産してくれた。

 簡単に作った割には製作するのは難しいので先生以外の複製は無理とか。


「今回は投資に関しては上限額が決まっています。そしてひと口幾らと金額も決まっています。つまり皆様にはその販売される投資の枠……販売枠をご購入していただくのです」


 ざわざわと場が色めきだつ。


「もちろんこれは商売です。僕だけが一方的に儲かると買っていただいた皆様が面白くないでしょう。

ですのでこのお売りするクリスタル一つに付き、毎年決まった時期に商業施設での売り上げ……諸経費と税金を差し引いた儲けから0,05パーセントを支払います。これを持っているだけでです」


 ざわざわの音量が上がった。


「もちろんこのクリスタルを第三者に売却するのは自由です。自由ですが、注意点があります。まず他国の者には売らない。他国の人に売られると支払いが滞るかもしれません。次いで販売した場合は必ず届け出ること。所有者変更手続きをして頂かないと支払いが滞ります」


 支払いの部分の説明は皆さま沈黙して聞くのね。


「最初にご説明しますが、現時点でこのクリスタルは全体の55パーセントほどの買い取り先が決まっています。立案者であり現時点で準備と多額の資金を投入している我が家が25パーを。王家が20パーを。王弟様が10パーをそれぞれ購入いたしております。ですから販売するのは残りの45パーとなります」


 王家と王族が手を結んで過半数阻止です。僕だけで51パー持とうとしたら陛下に普通に怒られた。

 だから今回はこの様な苦肉の策なのである。面倒臭い。独占の何が悪いかと問いたいです。


「はい。ここまでで質問のある方は……」


 一斉に手が上がったので面倒臭い。


「細かい内容はお配りした紙に書かれているのでそれを熟読し、質問内容を書面にてご提出していただければ幸いです」


 質問から逃げ出したわけではない。テキストはちゃんと読めよという教えなのです。


「では次はアイルローゼからゲートの移設が可能かどうかの説明をしていただきます。先生……お願いします」


 心底呆れた様子で椅子から立ち上がったアイルローゼが黒板の前に立った。


「出来ます。以上です」

「……だけかいっ!」


 早々に椅子に戻る先生の言葉に……もう何も言えない。

 3日前から不機嫌な先生はツンツン状態のままなのです。怖いのです。


「はい。ですのでどうぞご安心してご購入をご検討してください」


 話を纏めにかかったが、みんなして質問をしてくるから逃げ出せなかった。

 一番多いのは『本当に移設できるのか?』だったが、昨晩調査から戻って来た馬鹿賢者が言うには『先輩! あんなの超余裕っす』とか言ってたので余裕なのだろう。


 ただ『移設は簡単だとも! ただしその後の調整で術式の魔女がどれ程苦しむのか……今から楽しみだな~』とか言ってたので、ノイエに頼んで逆さに吊るして湯船の中で顔が水没するかか脱するかのアップダウンゲームを堪能してもらった。


 全力で命乞いをして来たから許してあげたけどね。



 ちなみにクリスタルは後日無事に完売した。


 ハルムント家が5パーとクロストパージュ家が5パー。ミルンヒッツァ家が5パーをご購入した。ヒューグラム家は頑張って2個も買ってくれた。

 まあ僕がイネル君にお金を握らせ買わせたんだけどね。


 そして我が国ではこの手の公共事業はこの方式へとなって行くのでした。




~あとがき~


 狙うはゲートです!


 硬くて壊れない。複製も出来ない。部屋の飾りにもなる。何て素晴らしい証券なのでしょうw

 紙とかだと『無くした』とか言われても再発行してから実は…とか厄介ですしね。その辺の対策でクリスタルと呼ばれるただ硬いだけの素材が選ばれました。


 そして今回はちょいとかけ足過ぎた気がします。

 リアルが年末進行で修羅ってまして…執筆時間に余裕が無いのです。本当にすみません




(C) 2021 甲斐八雲

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