無個性なだけです~
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「ここに猿でもクレアでもチビ姫でも理解できるように今回の計画をとっても優しく書いた紙があります。僕は頑張りました」
「猿って酷いです!」
「です~! 私はあんなに大きくないです~」
「そうだな。猿に失礼だったな。雄の猿よりも胸が無い2人と一緒にされたら彼らも悲しむだろう」
同時に殴りかかって来た2人に対し、僕は腕を伸ばして頭を掴んで固定する。
ちなみにこの世界に居る猿は基本ゴリラだ。うっほうっほだ。胸を叩いて威嚇してくる例のあれだ。
一般的に腰を振り続ける……などで有名なニホンザル的な猿は存在して居ない。何故だ! 過去に薬になるからと乱獲されまくって絶滅してしまったとも言われている。
よってこの世界での猿は可哀想な存在である。間違ってもエロい存在として使われてはいない。
そんな猿ではなく、チビ2人がキィーキィー言いながら腕をグルグル回して突進してくるのです。
いつも通りのコントをしていたら……アイルローゼが絶対零度の目で見つめて来た。
「で、話を続けるの? それとも死ぬの?」
「話を戻します」
冷たい空気を察していそいそとチビ姫とクレアが向かい側のソファーに戻った。
アイルローゼはこの部屋で一番の高級椅子、僕とノイエ専用の椅子に腰かけ……とても目つきがヤバいのです。先日調子に乗って先生にあんな凄いことをさせながら無限増殖した実弾を打ち続けてしまった結果、僕の首がギュッと絞めつけられることになったのです。
でも先生だってあんなに可愛らしいことを言っていたのに……怒り続けるのは何かズルい。
「先生もお手元の資料をご覧ください。そこの2人は熟読して理解しろ。出来ないとは言わせない。やるんだ」
「ひどっ!」
「です~!」
またチビ2人が騒ぎ出すが、先生の睨みで沈黙した。
「この度陛下に上奏した計画の詳細は割愛で。今重要なのは3枚目の方です。最近我が家は色々とお金を使い過ぎたせいで、貯蓄額が危険水域まで到達しているのです。そんな訳で僕としては自分の懐が痛まずに今回の作戦を成功させたいのです」
「それで、これです~?」
「そうなのです」
僕がノイエを抱きしめて静かな夜を堪能しつつ絞り出したプランです。
本来ならホリーに確認して欲しかったが、何でも馬鹿賢者言うには現在ノイエの魔眼はメンテナンス中で姉たちは外に出れないらしい。
こんな形で……僕は平和を得るとは思いませんでした。
おかげで無い知恵を絞って僕は画期的なプランにたどり着いたのです。
これを発表すれば、
「おにーちゃん。これダメです~」
「何だと?」
「これだと下手をするとおにーちゃんが損をするです~」
「損は嫌だ」
「なら金利は低くくです~」
「それだと誰も投資しないだろう?」
「違うです~。長く確実に儲かる方がお金を出せるです~」
「ふむ。ではチビ姫の意見を聞くとしよう。もし良く出来ていたらホールのケーキを食べさせてやる」
「任せるです~」
上機嫌でチビ姫がお尻を振りながら説明を始めた。
何故だろう? ぐぅの音も出ないとはこのことか?
チビ姫が無い胸を張って僕のプランを塗り替え完璧かもしれない案を提示して来た。何よりその案の説得力が半端無い。
言われるままに実行したら成功するかもと言う気がして来た。
「先生大変です」
「何よ」
「チビ姫が真面目なことを言ってます。明日は朝からドラゴンが降ってきますか?」
「ノイエが喜びそうね」
確かに。
「でも王妃様が言っていることは正しいと思う。少なくとも馬鹿弟子の案よりか」
先生がとても冷たいのです。これがツンデレですか?
一昨日はあんなに愛らしいリアクションで『もうイジメないで』とか懇願して来ていたのに……あの姿は僕の幻でしたか? また先生に魔法をかけて貰って、対ホリー用の魔道具を使えばいいんですね。
あの魔道具はとても素晴らしいです。今度はノイエに使おうかとも思うのですが、ノイエの場合は引き千切って壊してしまいそうだから怖くて使えない。
あれは大切な武器です。と言うか全員に対して使用してみようかなって思っています。
「馬鹿弟子……何か企んでいるような目をしているけど、つまらないことなら殺すわよ?」
「滅相もありません。僕は今、明日の話し合いでのことだけを」
「そう」
先生の言葉の刃でバッサリと袈裟斬りされた感じです。
「なら王妃様と話し合ってこれを詰めなさい。私は反対しないから」
立ち上がったアイルローゼはそのままこちらに視線を向けずに部屋を出て行く。
最近勝手に隣の部屋を工房へと魔改造し、先生の作業場が完成した。
事後で陛下の許可が向こうから降りて来たから問題は無い。
馬鹿な貴族たちも先生が刻むプレートは欲しいので文句を言わない。ただ直接彼女の作業部屋に突撃して交渉するのは陛下の権限で禁止されている。あくまで先生への依頼は雇い主である僕を通すことになっている。おかげで僕への風当たりが強くなったのは言うまでもない。
「おにーちゃん。質問です~」
「何だいチビ姫」
「ケーキはどれを頼んでも良いんです~?」
迷うことなく高級ケーキのメニュー表を見ている馬鹿が居る。
「まあ好きにすると」
「これをお願いするです~」
人の話は最後まで聞けと言いたい。
少なくとも僕の奢りであろう?
「ならその書類を完璧に仕上げたらもう一個頼んで良いぞ」
「本当です~? 任せろです~!」
追加で二個目のケーキを注文し、ノリノリでチビ姫が僕のプランを叩き台にして、新しい計画書を書き上げた。
それを字だけは奇麗なクレアが清書し、それを何枚も自動的に書き写して行く。
同じ物を延々と書き続けられるクレアの数少ない才能だ。
コピー機など無いこの世界でクレアの才能は意外と貴重なのである。
「ちなみにチビ姫よ」
「はいです~?」
「クレアの分は?」
「ちゃんと旦那さんの分と一緒に頼んであるです~」
エッヘンとチビ姫が無い胸を張る。
「こう見えて私は王妃です~。ちゃんと周りのことにも目を向けです~」
「ほほう。なら自分の胸に目を向けてみろ」
「無個性なだけです~」
斬新な言い訳をしてから何故かチビ姫が怒り出して殴りかかって来た。
解せん。自爆しておきながら僕に八つ当たるとは不届きな。
捕まえて軽く投げ飛ばしたら、スルッとメイドさんがチビ姫をキャッチした。
長身のメイドさんことレイザさんだ。ただ彼女はキャッチしたが安全の確保はしていない。チビ姫の脳天が床にぶつかり……つまり逆さまの状態で捕まえたのだ。
「レイザさん。腕の具合は良くなったの?」
「はい。おかげさまで」
「頭が、頭が取れるです~」
書初め用の大きな筆で文字を書くかのように、レイザさんがチビ姫と言う筆を動かす。
何だかんだでチビ姫って頑丈だな。何かしらの祝福は……持ってないから、特技なのか?
しばらくチビ姫で遊んだレイザさんは『あっそうでした。イーリナが魔女様の工房に突撃しようとして捕まったので引き取りに来たのでした』と言いながら王妃をポイ捨てして去った。
そしてあのニートは僕の部下では無かったか?
メイドさんの恩返しだと思ってツッコミも入れずに受け入れることにした。
~あとがき~
魔道具+大暴走を食らったアイルローゼは不機嫌です。
ツンツン状態です。こうなると面倒臭い魔女になるので触るな注意です。
主人公が進めている計画は…今後の為にとても大切です。と言うかようやくです。
もう少し早くに奪い取るはずが本当に長かったわ~
(C) 2021 甲斐八雲
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