全てアルグちゃんへの愛なの!

 ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領



「ねえさま。それはまだなまです!」

「焼き加減は、ほんのりなぐらいが良い」

「だめです!」


 ノイエとポーラがエキサイトしているがスルーで問題ないはずだ。


「で、リグの正体って何なんだろう?」


 どうやらリグが親だと思っていた人たちは他人だったらしい。


 養女……で良いのか? 養女からの養女ってリグってば親に恵まれないな。

 でも大丈夫。今のリグは僕とノイエの家族です。大切な家族なのです。


「もう大丈夫。リグは寂しくないからね」

「放して……んっ」


 全身をビクビクと震わせるリグの吐息が熱い。

 ずっと捏ねていたら彼女がだいぶトロトロになってしまっていた。


 胸の下に腕を通すようにしてリグを抱え直す。これ以上は色々と危険だ。


「で、ウチの可愛いお嫁さんの1人は何者なのでしょうか?」

「滅びた国のお姫様よ」

「はい?」


 ポーラと遊んでいたはずのノイエが近くまで来ていた。

 音を立てずに歩いて来るから心臓に悪い時がある。何より今のノイエは青い。

 ……違います。これはあれです。お姉ちゃんとの一戦に向けた自主練です。


 僕の横に腰を下ろしたホリーは、両腕を伸ばしてリグを捕まえるとそれを放り捨てた。


「あれの正体は滅んだこの国のお姫様……そう考えるのが妥当かしら」

「リグが?」

「ええ」


 とすると……ホリーは今お姫様を投げ捨てたと。何て礼儀知らずな!

 礼節を重んじる日本人な僕から見てビックリ仰天な行いだ。

 あれ? 見えないブーメランが僕の心に突き刺さった気がする。何故だろう?


 頭から砂に埋まりピクピクしているリグからホリーへと目を向け直す。


「根拠は?」

「会話からの推測よ。だから証拠なんて無いわ」

「そうですか」


 ポーラはまだお肉を焼いている。その肉が全部無くなると困ることになるのだが……まあ仕方ない。その時はその時だ。


「兄さん。この娘っ子はどうしたんです? 髪の色も変わって」

「あ~。不思議なことに変わるんです」

「納得ですわ~」


 納得するんだ。凄いぞロボ。


「自分、創造主であるイーマ様のお世話役をしていたことがありましてな~。知ってます? 孤高の天才魔法使いにして悪の天才発明家でもあったイーマ様を」

「ほんのりと」


 肉を焼きながら胸を押さえて転がり回っている存在がその残念臭が半端ない称号の持ち主です。自分の黒歴史に苛まれて大変なことになってます。


「あの人はほんまに偉大な人で自分はよく話し相手を務めてましたわ」

「何となく分かる」


 漫才とお笑いに飢えていた彼女が、きっとこんな話し方にしたのだろう。正直ウザい。


「でも何年かしたらあの人は自分のもとを去ったんです。『覚えさせてことばかり言って飽き飽きなのよ! クリエイティブなパッションを身に付けなさい』と。

 自分それ以来頑張りました。色々と学んで……兄さん。その手の物は?」

「馬鹿を撃退する道具です」


 食らえ! ハリセンミサイル!


「ごぶっ!」


 クルクルと回りながら飛んで行ったハリセンに最後重力魔法を使用する。

 人の顔ほどの位置から砂を転がる馬鹿の顔面に一撃加えることに成功した。


「苦労したんだな……ロボ」

「兄さん。こんな自分に優しい声を」

「分かる。分かるぞ~」


 ガッチリとロボと握手した。

 大丈夫。同じ苦楽を共にして来た仲だ。君の辛さは痛いほど分かる。


「で、アルグちゃん。私の説をある程度立証しても良いかしら?」

「出来るの?」

「簡単よ」


 何となく僕らを眺めていたホリーがロボを見つめる。


「あれの登録者名は?」


 頭の砂を払っているリグを指さす。


《エラーエラー》


「なら貴方の中にこ子に存在し滅んだ王家の姫様だった人は何人登録されている?」

「……全部で18人です」


 淡々とロボが事務的に返事をする。


「そう。なら」


 ニヤリとホリーが笑った。


「生存しているかもしれない姫の名は?」

「……リリアンナ王女陛下です」


 サラッとロボが答えた。


「他に登録されている“王女”は?」

「……居りません」

「どうして?」

「登録されていた王女様方はリリアンナ様を除き全員が成人しご結婚なさいました」

「序列から外れて王女ではなくなったと?」

「その通りです」


 数度頷いてホリーがまた口を開く。


「なら次の質問。貴方の中に所長さんだっけ? その一族は何人登録されているの?」

「……全部で46人です」

「生存している者は?」

「……45人までの死亡が確認されています。不明者は1名。その1名が生存している可能性はあります」

「そう。ならその子は男性だった? 女性だった?」

「女性です」

「貴方はその死にざまを見ていないのね?」

「はい」

「後の者は?」

「聞いたり死体を確認したりしました」

「貴方は全ての死体を確認したの?」

「はい」

「何故?」

「……時間はありましたし、何より死者は葬るものだと創造主から教えられました」

「そう」


 苦笑してホリーは一度だけ視線を巡らせる。砂の上で大の字になっているポーラを見た。

 というかそんなところで寝ていると肉が焦げるぞ? あれ? 焼いていた肉が全部消えている? 転がる前に回収したのかな?


「これで少なくともリグがお姫様である確率は半々よ」

「……」


 と言うかもうほぼリグが姫様なんじゃないの?


「これで十分かしら? 刻印の魔女?」

「あはは~」


 笑いながらポーラが体を起こす。

 右目に金色の模様を浮かべる少女に気づいたロボがカクンと首を傾げる。


「自分の創造主様もあんな瞳をしてましたわ。両目でしたが」


 口調が戻った。それはそれでやっぱりウザい。


「実際はそれの頭を開いて情報を吸いだした方が早いんだけどね……もう何百年と放置していたから絶対に面倒臭いことになるのよ」


 立ち上がった悪魔がメイド服の砂を払う。


「まあそのおっぱいお化けが姫様であろうが何であろうが私には関係ないんだけどね」

「言ってなさい。だったら変に興味を抱かないで欲しい物ね」

「あら? 今日は噛みつくわね……あの日?」

「誰かの課題が面倒なのよ。それにアイルローゼをあんな風にしたのも貴女の仕業でしょう?」

「分かる~?」


 煽り属性マックスで悪魔がホリーを煽る煽る。


「だってみんなしてあの魔女の早い復活を望んでいたでしょう? だから手伝ってあげたのよ」


 クスクスとウチの妹が悪魔のように笑いだす。


「ちょっと想像していたのと違ったけど」

「……あれが正解だと言ったら本気で怒るわよ」


 先生ってそんなに酷い状態なんですか? どこぞの馬鹿は好奇心からそれを見に行って、胃の中の物を全てエロエロとしていたよね?


 クルっとその場で回った悪魔が僕らに背を向けた。


「まあ折角出て来たんだし少しそこのロボと話をしてみたら? 少しは役立つかもしれないわよ」


 軽い口調でその言葉を残し……悪魔は数歩進むと姿を消した。

 何あれ? マジ恰好良いんですけど?


「そうね。折角の機会だし」


 ホリーが僕の腕に抱き着いて来る。だが直ぐに離れた。僕らが座る手前に落ちた石に反応した感じでだ。


「リグ。遠慮しなさいよ」

「嫌だ。ホリーはレニーラと同じで直ぐに暴走する」

「しないわよ。暴走なんて」


 ちょっと待て。僕がその言葉を信じると思っているのか?


「それにあれは暴走じゃないもの。全てアルグちゃんへの愛なの!」

「やっぱり危険」


 近づいて来たリグが僕の頭を抱え込んで……谷間が凄い。


「で、兄さん? 自分、兄さんのモテ具合を見てれば良いんですか?」


 冷静なロボにツッコミを食らった。




~あとがき~


 名探偵ホリーの登場で一気に話が進みました。

 リグがお姫様である確率は半々と言ったところですね。


 次回からはホリー先生が頑張ります!




(C) 2021 甲斐八雲

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