だったらこれはどうですか?
「旦那様の子供か~」
「だぞ~」
「「……」」
「この体で作れるのかしら?」
「ボクにも分からない」
「「……」」
「でもホリーなら何とかしそうだよね~」
「だぞ~」
「「……」」
「にゃ~ん」
「「みんなで協力しましょう!」」
一致団結することが決まったらしい。
許せポーラよ。お兄ちゃんは今、心を鬼にしているのだ。
顔面にハリセンを食らったポーラが後ろに倒れ頭を抱えて転がり回る。後頭部をしたたかに打ったらしい。と言うか『どんでん返し』って何だろう? まあ良い。
「馬鹿賢者? 少しお兄さんとお話ししようか?」
「ふっ」
ゴロゴロと転がっていたポーラが頭の後ろに手を回すと足を上げた反動で立ち上がった。
何なのこの子? アクション俳優でも目指しているの?
「ええい! 妹に粗末な物を見せている暇があったら……逃すかっ!」
叫んでポーラがエプロンの裏から黄色い札を取り出してそれを投げた。
スッと飛んだ札はノイエの額に張り付くと、青色が抜けかけていた髪が半ばで止まる。
と言うか粗末とか言うなよ。全裸で妹の前に立ってる僕も悪いが。
急いでガウンを掴みそれを羽織る。
「あぶな~。もう少しで今回の難易度が楽しいことになってたわ~」
額の汗を拭ってポーラが一息つく。
ピタッと動きを止めたノイエも不安だが、まずはこの馬鹿をどうにかしなければ僕の何かが許さない。
「おい。馬鹿賢者?」
「何よ?」
妹様がクルっと振り返り、何故か踏ん反り返ってみせる。
「こっそり暗躍しているようだな?」
「してるわよ。悪い?」
「悪いわっ!」
スチャッと右手にハリセンを取り出したら、ポーラもまた黄色い札を取り出してそれを構える。
と言うかその札は何だ? 昔の香港映画で見たような気がする。何だっけ?
「何を企んでいる?」
「ん~。教えてあ~げない」
「死にさらせ~!」
全力でハリセンを振り払ったらポーラが器用に回避する。
こんな時ばかり妹の運動能力の高さが恨めしい! これは決して僻みではない。決してない。
「ふっ! 温いわっ! お兄様っ!」
「何のキャラだっ!」
「きゃ~」
ブンブンとハリセンを振り回してポーラの姿をした悪魔を追い回す。
しばらくそれを続け……途中で給水時間を取ることにした。
スポーツ中の水分補給は大切です。
「で、ヤーンとか言うネクロマンサーは何を企んでいるんだ?」
冷やした紅茶をコップに注いで一気に煽る。ふう。生き返る。
動きと言うか色の変化中に停止したノイエをベッドに寝かしつけたポーラが、僕の手からコップを奪った。
「ん~? 彼らは根っからの傭兵屋だから雇われた分だけちゃんと仕事をするわよ」
コポコポと容器からコップに紅茶を注いで馬鹿賢者も一気に煽った。
「かぁ~! この一杯に生きてる!」
「何処の親父だ?」
「あら酷い。こんなに可愛い美少女に」
おかわりを注ぎながらどこぞの馬鹿が尻を振る。
「で?」
「……雇われた分だけお仕事をしま~す」
「何をするのかは言う気が無いってか?」
「ん~? することは簡単よ。貴方ごとこの国を滅ぼそうとするだけ」
「そっか~」
納得納得。って出来るか~!
スチャッとハリセンを取り出したら彼女は椅子に腰かけた。
「と言うか私を追い回すのならもう寝たら?」
「今はお前をどつきたい」
「あら? 今夜私は兄に突かれて大人の階段うおっ!」
ハリセンを振り払ったら前転して回避しやがった。
ポーラの口からなんてことを言わせるのかと。可愛い妹には奇麗なままで居て欲しいのです。
「元気なお兄様だな~。だったらそこのお嫁さんに悪戯しなさいよ。今なら体が動かせないからしたい放題よ?」
「うおっと忘れてた。ノイエのあの額のは何よ?」
「ちょっと動きを止めただけよ。あの痴女に宝玉を使われると困ったことになるから」
「……何を企んでいる?」
ハリセンを消して尋ねると、ポーラの姿をした悪魔が軽く踊る。
「あは~。私はとっても悪い魔女だから~」
クルクルと回ってパッと動きを止めた。
「だから貴方たちに試練を課すの。ラスボスは本当に強いから」
クスクスと笑ってポーラがその目から金色の模様を消した。
「にいさま」
「ああポーラ」
「はい?」
元に戻った妹が小さく首を傾げる。
「さっきはハリセンを投げつけてごめんね。痛かった?」
「へいきです」
「そっか。良かった」
「えへへ」
何故かポーラは笑うと僕の元に駆け寄って来て抱き着く。
「にいさまはやさしいです」
「そうかな?」
少なくとも妹にハリセンを投げつけた酷い兄だと思うのだが。
「そうです。にいさま」
「はい?」
甘えて来るポーラの頭を撫でていたら、彼女が顔を上げて僕を見つめる。
「よがあけたら、きたのほうからてきがきます」
「はい?」
北の方から敵が来る? 何故に?
「ししょうはしっていたのにだまってろって」
「そうか。良く教えてくれたね」
「はい」
良し良しとポーラの頭を撫でてあげる。目を弓にして笑うポーラは本当に可愛い。
問題は北から敵が来るとのことだ。
ぶっちゃけよう……たぶんゾンビ的なあれが群れを成してやって来る感じか? どこの洋画よ?
軽くポーラを抱きしめてベットに座る。彼女を膝の上に乗せた。
大丈夫だと言ってもポーラにハリセンを投げつけたからそのお詫びとして好きなだけ甘えさせる。
ただ額に黄色い札を張り付けたノイエは……ああ。昔の香港映画で見た。
確かキョンシーとか言う動く死体の映画だ。あれが確か額にこんな札を貼ってたな。
何この遠回りなヒント? クイズ王でも連れてこないと解けないから。
手を伸ばしてノイエの札を取ろうとしたら取れません。何故に?
「にいさま。それはしばらくとれません」
「どうして?」
「ほうぎょくをつかわれないためにです」
なるほどなるほど。つまりホリーの暴走を制しているということか。納得だ。
「ならポーラ」
「はい」
「ポーラなら北から敵が来るとしたらどうする?」
「わたしなら……」
目を閉じてポーラが真面目に考え込む。
流石にポーラにホリー並みの活躍は期待していないけれど、多少何かしらの意見が欲しい。
他人の意見は刺激になって僕もふと何か良い考えが浮かぶかもしれない。
「にいさま」
「はい?」
「にいさまのてきは、きただけですか?」
ポーラの言葉に、僕は一瞬頷きかけた頭を止めた。
と言うか北からの敵はポーラたちが持ってきた話だ。それ以外は?
「バローズさんは貴族たちが何か企んでいたと言ってた。つまり貴族たちが何か行動を起こすかもしれない」
「はい」
「それと……」
確か彼女は何と言っていた?
『リグの大切な人を守って欲しい』と言っていた。それはどうしてだ?
リグの大切な人とは……覗き魔だと判明したキルイーツ先生だろう。
一度リグとはそれについて話し合う必要がある気がする。
ただキルイーツ先生を守るのならそう告げれば良いはずだ。『リグの家族を守って』と。
どうして家族じゃない? 家族だけじゃない? リグは……医者だ。
「そうか。医者か」
「おいしゃさまですか?」
「ああ。そうだよ」
ポーラを抱きしめて僕は頭を働かせる。
「敵が来たら悲しいけれど怪我人や死人が出る。死者は下手をしたら敵になるかもしれない。なら怪我人は?」
「けがをちりょうして……」
ビクッと体を震わせたポーラも気づいた様子だ。
「けがをなおすひとがいないと」
「怪我人は死者になる。嫌な話だけどね」
この世界には明確な治療魔法は無い。そして医療レベルは物凄く低い。
ウチの国はまだキルイーツ先生が居るから比較的水準が高いけど、下手をしたら薬草茶と呼ばれる雑草茶を飲ませて『大人しく寝ていろ』ってことになりかねない。怪我人を相手にだ。
「つまり敵は3つの行動を取る可能性がある」
1つ目は亡者の大軍を作り北から攻め寄って来る。
2つ目は貴族たちを唆して僕を襲撃する。
3つ目は医者を殺害して死者を増やそうとする。
最悪だけど効果的な作戦だろう。
「にいさま」
「ん?」
呼ばれて顔を向けると、膝の上に座っているポーラが体を捻りこっちを見ていた。
「だったらこれはどうですか?」
~あとがき~
ホリーへの提案は中の人たちにも知られました。当たり前かw
暴走する刻印さんはやりたい放題です。
ですがそれは全てアルグスタとノイエのレベルアップと…観察して楽しむことを念頭に置いての行為です。これはイジメではありません。試練です。
主人公は修行大好きポーラと一緒に対策方法を練ります
(C) 2021 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます