コロボコッコロボコッ

 どうやら僕は告白されているらしい。らしいのだが……何故か場の空気と言うか何かが変だ。

 世の告白ってこう甘酸っぱい感じのはずだ。僕がノイエに告白する時は常に甘酸っぱいはずだ。背景に野イチゴとかが浮かんできちゃうぐらいに。

 ちょっと想像したら嫌だな。普通にイチゴで良いや。


 でも今は違う。甘酸っぱさはない。


 ベッドの上で向き合うように座っている。こっちは僕が1人で、向こう側はリグとノイエだ。

 何かの対局でも始まりそうな雰囲気だが……これが告白の場らしい。リグプレゼンツの告白だ。


 そろそろツッコミたい。ノイエさんの立ち位置は何なのでしょうか? リグの横に居て保護者のような雰囲気だしているけれど君は何も理解していないですよね?


 無表情で女の子座りをしているノイエから視線をリグに戻す。

 一応頬を赤くしてそれっぽくも見えなくもないけれど、色気は全く感じませんな。


「リグさんや」

「なに?」

「どうして突然に?」

「……」


 問いかけに彼女は自分の胸に手を当てて大きく息を吸う。


 スウっと膨らんだ胸が本当に凄いな。女性の胸のサイズなんて良く分からないけれど絶対にG以上はあるはずだ。ただグラビアとか見ててGとか言われて首を傾げるのもあったから良く分からない。教えてエロい人!


「実は前から気になってた」

「はあ」

「でも良く分からなくて」

「はい」

「みんなの話を聞いていたら、ボクはどうやら好きなんだと分かって来た」

「なるほど」

「……どこを見ているの?」


 はっ! 余りにも自己主張が激しい胸につい視線が!


 見る方よりも見られている方が視線に敏感だと聞く。

 例にもれずリグもそうらしく……増々顔を赤くしてリグは自分の胸に両手を回す。


「そういうのはまだちょっと……心の準備と言うかボクの体はみんなのような奇麗じゃないから」

「えっ?」

「傷だらけだし……刺青だってあるし……」


 何処かシュンとしてしまったリグの様子にノイエが視線を向けてくる。


 あの~ノイエさん? その『泣かすのはダメ』的な視線の奥に見え隠れしそうな好奇心の何かを感じるのは僕の妄想でしょうか? 絶対に誰かこの場を見ているよね? 見てるでしょう?


「僕はリグのことが汚いとか思わないけどね」

「……嘘だよ」


 寂しそうにそういうリグの気持ちは……まあノイエの中の人たちと比べればな。


 あれほど個性的な美形ぞろいの中で、唯一褐色の肌に傷跡と刺青なんて言うハンデを背負わされているリグからしたら劣等感に苛まれるよな。でも、


「僕はリグのその褐色の肌とか元気な子っぽくて好きだけどな」


 健康的な女の子って感じに見えて悪くない。南国の少女のような印象を与えてくれるしね。


「それに傷跡も刺青もリグの大切なものでしょう? キルイーツ先生が君を生かそうとして努力に努力を重ねた証だもん……それを汚いだなんて僕には思えないよ」


 と言うかリグが言うほど傷跡はそんなに目立たない。褐色の肌のおかげで良い感じに隠されている。

 刺青も奇麗な形を残して存在しているからそれほど違和感を得ない。


「リグがそこまで卑屈になることはない。君は可愛い部類の女の子だよ?」

「……ノイエより年上なのだけどね」


 そうでした! と言うか僕よりも年上でしたね!


 けれど落ち込んでいたリグの表情が明るくなった。


「たぶん君のそういうところだと思う」

「何が?」

「……偏屈ぞろいの人たちを虜にする理由かな」


 クスリと笑いリグが僕を真っすぐと見つめて来た。


「君は上辺だけでなくちゃんと相手の内側も見る。内側も見てそのうえで一個人としてちゃんと向かい合う。だからかな……みんなが素のまま自分で君の前に姿を現す」

「そうなのかな?」


 言われてみれば最初猫を被っていたような人たちも何人か居たような?


「そうだよ。だって素の自分を見せるだなんて恥ずかしいことだしね。ボクには出来ないことだと思ってた」

「えっと……素のリグって?」


 裏表が一番なさそうなリグの言葉に興味を覚える。

 もしこの子まで猫を被っているのなら僕は人を見る目が無いのかもしれない。僕の中のリグは……人畜無害だ。若干間違った治療法をするくらいかな?


「本当のボクは」


 告げてリグは何故か服を脱ぎだす。

 褐色の肌に奇麗に描かれた刺青。何より暴力的なクッションがやはり凄い。


 一糸纏わぬ姿になって……何故かまた座ると、ノイエの膝を枕にした。


「これが一番だね」

「……裸族かっ!」


 どうやら裸族だったらしいリグが自由を得た猫のようにノイエの膝に甘える。


「みんなボクの胸を見て『隠せ隠せ』と煩いから。本当はこうして居たいんだ」

「そう言いたくなる理由も分からなくもないけど……」


 余りにも暴力的な存在に流石のノイエですら自分の胸を触ってアホ毛をへんにゃりとさせている。あれはもう暴力だ。胸と言う名の凶器でしかない。


「と言うか伝え聞いているいつものリグと同じような気がするんですけど?」

「そうかもね」

「認めるのか」

「ならボクは裏表が無いんだろうね」


 コロコロ……と言うか『コロボコッコロボコッ』って感じで転がって来たリグが今度は僕の足を枕にする。

 クッションのおかげで一時停止と言うか上下運動する意味不明なコロコロを見た気がする。


 と言うか、おいおい君は何て姿を晒すのですか? 丸見えですよ?


「もう少し恥じらいを持ちなさい」

「良いんだよ。ボクはこうしてたい」


 言ってリグが僕の足に抱き着いてくる。


「本当はこれが一番楽なんだ。でも傷跡とか刺青とか……君がボクの服を手直ししてくれてから解放感を得られて嬉しかったんだ」


 引きはがすのも悪いからと諦めてリグの頭を撫でる。


 何故かノイエがジッとリグの胸を凝視しているのは気にしないであげよう。ノイエだって女の子なんだ。自分に無いモノに憧れるのは普通なんだろう。


「そうそう。リグ用の服が完成してたんだ」

「ボク用?」

「うん。とはいっても今まで来ていた服と大差無いけどね」


 だってリグには南国少女っぽい服が良く似合うのだから。

 ベッドを降りて取りに行こうとするが……抱きついたリグが剥がれない。


「リグ?」

「嫌だ」

「はい?」


 抱きついたリグが不満げな表情を見せる。


「こうしてたい」

「……」


 裸族の上に抱き着き魔か!


「直ぐに戻るから」

「なら後で良い」

「ちょっとリグさん?」

「煩い」

「そこをグリグリしないで」

「平気」

「言ってることとやってることがほぼノイエですから!」


 暴力的なクッションでグリグリして来るリグに僕の何かが大ピンチです。

 と、ポンとノイエが僕の肩に手を置いた。


 ヤバい。流石のノイエさんもこの状況を見てお怒りに?


「……する?」

「躊躇した今の間は何!」

「……優しさ?」

「誰の何に対しての!」

「……お姉ちゃんが居るから?」

「リグへの配慮だったのね!」


 だが何故にノイエがその気になったのかは謎のままだよね!


「そもそも話を戻そう。今夜はリグが僕に告白しに来たんだよね。そうだよね?」

「うん。そうだよ」


 下半身に抱き着いているリグがうんうんと頷いてくる。

 ってそこはダメ~! 顎でグリグリしちゃダメな場所だから~!


「なら返事をしないとね。そうだよね?」

「うん」


 抱き着き魔と化していてもリグは意外と冷静だ。


「それで返事は?」

「……まあリグがそれを望むなら?」

「はっきりして欲しいけど」


 チラリとノイエを見てリグは理解してくれた。


「なら次だ」

「はい?」


 向け直されたリグの目が僕を見る。

 何処か猫を思わせる奇麗な黄色の目だ。


 ところで次って何でしょうか?


「話を聞くに、君は望むのであれば誰でも娶るって」

「物凄い語弊が生じている言葉なんですが!」

「問題ないよ」


 大ありですよ!


 ギュッと抱き着いて来たリグが迷わずに僕を見つめる。


「ボクも君のお嫁さんにして欲しい」




~あとがき~


 コロコロ…と転がれないのがリグクオリティーなのですw

 必ず上下に動く不思議な間が生じます。結果としてノイエの中の人たちが、目を怒らせて彼女を睨みます。


 実は裸族な猫属性のリグはゴロゴロしていたいのです。


 で、告白からの求婚へ…やるなリグw




(C) 2021 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る