普通のドラゴンなんでしょ?
軽い浮遊感からの着地。
景色が一瞬で変わり……見渡せば屋敷の傍に居た。
見覚えのある屋敷だと思ったら当たり前だ。キシャーラのオッサンの屋敷だね。
「お早い到着で」
「でしょ?」
出迎えは代わり映えの無い売れ残りだ。ただ彼女は山と積んだ焼いた肉と一緒に居た。
僕の手を離してノイエが真っすぐ肉へと向かう。
飲み込むように食べだすノイエはそっとしておこう。
「で、オッサンは?」
「公の場でそれは困るのだが? アルグスタ殿」
「だって誰かが連敗するからこんなことになったんでしょ? 折角共和国からの攻撃は止めたのに」
「言うな」
苦笑いを浮かべて鎧姿のオッサン……キシャーラが歩いて来た。
一緒に居る部下たちには話が通っていないのか、僕ら夫婦を見て目を剥いて驚いて居る。
「本当に転移して来るとはな」
「我が国が秘匿している魔道具ですよ」
「欲しいが……簡単に動かせまい?」
「ノイエほどの魔力を絞り出せれば動かせますよ? ただ大陸屈指の魔力量が必要ですが」
「それは無理に等しいな」
軽口を叩きながら、彼は僕の前で立ち止まる。
「援軍の要請に対し本国よりのご助力に感謝いたします。アルグスタ様」
「いいえ。陛下は決して自国民を見捨てたりしない人なので」
「それは頼もしくお優しいことだ」
互いに手を伸ばして握手をする。
「それで、ミシュ」
「はいよ」
「2,000の援軍は?」
「途中で追い抜いたから……明日の夕刻には到着するはずだね」
「了解」
ノイエが残す骨の始末をしていたミシュが適当な返事を寄こす。
一応キシャーラのオッサンが居るんだからもう少し言葉に気をつけろと言いたい。僕は……友人に対してはフレンドリーなので。
「で、領主殿。現状は?」
「説明しよう」
チラリとノイエを見たオッサンが部下に命じて机の準備をさせる。
その隙にミシュが魔道具を片付けて……実に奇麗に8分割した。この手の技術はアイルローゼっぽいな。細部にまでこだわる。
代わりにノイエの骨当番をしていると、半分程食べて……彼女の手が止まった。
「むっ」
「どうしたの?」
唸るとノイエは僕に宝玉を預けてくる。
問題はノイエさん? 器用にアホ毛を動かして僕の頭の上に置いても、僕にはその機能が無いからね?
仕方なく手を伸ばして脇に抱える。
「あの小娘が居るって~!」
「トリスシア~!」
遠くから土煙と大きな声が。それに負けずと大きな声も。
あ~。元気そうで何よりだ。うん。本当に元気だ。
ダンっと地面を蹴って宙に舞った大女が、片腕で金棒を掲げてノイエに振り下ろす。
刹那、ノイエが消えて金棒が地面を抉った。
「避けるな小娘っ!」
「煩い」
今日も元気なオーガさんが大変嬉しそうに自分の背後を見る。
彼女の背後に移動していたノイエが、両手で耳をガードするかのように塞いだ。
「トリスシア~!」
追いついたヤージュさんが息も絶え絶えでオーガさんの前に立つ。
「貴女と云う者は、彼女たちは本国からの客人なのですよ!」
「だから出迎えてやるんだろ? おもてなしって奴だ!」
「トリスシア~!」
絶叫するオッサン。暴れるオーガ。回避するノイエ。
チラリと視線をキシャーラに向ければ……彼は我関せずといった様子で机に地図を置き説明の準備を進めていた。
1つ分かった。帝国軍が強いのは好き勝手にやる人が多いからだな。
ん? 何か飛んで行ったブーメランが物凄い勢いで戻ってきて突き刺さったような気がした。
僕は好き勝手なんてしてない。自重という言葉を胸に刻むと誓いましたから……良く消えるけどね。
叫びすぎたヤージュさんが酸欠になってぶっ倒れるまで、オーガさんは大変元気でした。
「現状帝国軍はこの位置に居ます」
「なるほど」
復活したヤージュさんが地図を使って僕に説明してくれる。それを椅子に座って聞いているキシャーラのオッサンは……何となく馬鹿兄貴に通じる何かを感じる。戦うこと以外は全て部下任せなのだろう。
なんて酷い上司だ。僕を見習え。あれ? またブーメランが?
地図をよく見ると自治領の半分ほどが帝国軍の手により奪われていた。
「取られた地域の領民たちは?」
「はい。どうにか逃がしていますが……あの女狐、失礼。セミリアは領民殺害も命じているようなので」
「狐でも豚でもお好きにどうぞ。で、その馬鹿は本気でそんなことを?」
「はい」
帝国軍師って実は馬鹿なのか? そんなことをすれば国民の支持が……ああ。つまりは恐怖政治か。逆らえば殺すと言って統治する感じか。気に食わないな。
「で、相手がドラゴンを使うとか?」
「はい。セミリアは元ドラゴンスレイヤーでして、彼女は魔法を使いドラゴンを使役し共食いさせるのです」
「なるほどね」
本当にドラゴンを使役するのか。
「ドラゴン」
「はい?」
ポツリと聞こえて来た声に顔を向けると、荒縄で拘束したオーガさんの背に乗り肉を食べていたノイエがジッとこっちを見ていた。
「ドラゴンは何?」
「えっと……種類?」
コクンとノイエが頷くので、視線をヤージュさんに向ける。
「帝国領内で最も良く見かけられる山岳タイプです。2本足で立って歩きます」
「山岳……」
軽く俯いたノイエの様子に僕は気づいた。ヤバい。忘れてた。
「ノイエはたくさんご飯を食べてて良いか」
「山岳タイプは大陸中央で広く分布している種であり、その多くはロンブル山の近くに見られる」
遅かったか!
「特徴としては岩飛びとも呼ばれる歩行で、彼らはガニ股で速く走ることが出来る。特に秀でた種は首の部分に襟状の皮膚を持っており、それを広げることで相手を威嚇したり自身を大きく見せたりする。食事は雑食で……」
普段のノイエからは信じられないペースでスラスラと説明が続く。
ドラゴンの百科事典を搭載しているのかと思うほどに彼女のドラゴンに関する知識は膨大だ。膨大なのだ。膨大過ぎて一度語りだすと止まらないのだ。
今はアホ毛を乗せているから動きが小さいが、本来ならそのアホ毛をフリフリしながら楽しそうに話す。
知られていないが、ノイエはドラゴンに関する知識を語るのが好きなんだよね。
「……などの種類と混同されることもある。終わり」
パクっとお肉に意識を戻したのかまた食べだした。
僕とミシュ以外は全員が圧倒されている。ミシュもあれを食らった同士であったか。
「あ~。気にせずに。ノイエはあんな感じなので」
「そうか」
気圧されたキシャーラのオッサンが若干引き気味だ。
気持ちは分かるがまだ甘い。僕は一度彼女の知識の全てを聞かされたことがある。
その時は一晩中あれを聞かされたのだ。同情して欲しいね。
「ただ今の説明だと普通のドラゴンなんでしょ?」
「普通……ええ。そう言えますね」
ヤージュさんがこっちを見て苦笑しだす。
僕からすれば大きなトカゲというか、ノイエの説明が正しければ大きなエリマキトカゲにしか思えない。
だったら僕の祝福とノイエの打撃で十分処理できる。
「ドラゴンより帝国軍の方が問題なんですけど?」
「それは……自分たちとしたら何とも」
ドラゴンより人の方が厄介だと告げたら、何故かキシャーラのオッサンとヤージュさんが苦笑いをした。
「……ああっ! 小娘っ! アタシと勝負しっ!」
「煩い」
黙らせるために口の中に放り込んだカーテンを飲み込んだのか、騒ぎ出したオーガさんをノイエが無理矢理黙らせる。
あの~ノイエさん? そんなグルグルと顔に縄を巻いたら流石に危ないと思いますよ? ねえ?
けれどノイエの手は止まらず……しばらくして窒息しかけたオーガさんを救う事態となった。
~あとがき~
ノイエはレベルが上がりオーガさんの対処方法を身に着けました。物理的なw
この人煩い人ぐらいで認識されてるっぽいオーガさんも凄いですけどね。
で、ドラゴンより人の方が厄介なんですよ。アルグスタ的には
(C) 2021 甲斐八雲
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