もう100回ぐらい追加して良い?

「こう矢継ぎ早に催促されてもね~」


 陛下よ。少しは落ち着き給え。

 あの2人がそんなに早く仕事をするわけなかろう?


 昨日出てきたレニーラが言うには『あの2人だったらブツブツと呟きながら危ない表情で何かしてたよ』とのこむとだ。

 転移魔法の準備をしているはずが、怪しい薬でも作っているのだろうか?


 それから薄々のノイエの寝間着を脱ぎ捨てて、レニーラが襲い掛かってくるまでが一連の流れだったけどね。


 最近のレニーラも容赦ないよな~。

 ホリーとレニーラは底なしだから本当に辛いんですけど?

 一番底がないのはノイエかもしれないけどさ。


 とりあえず机の上に置かれている陛下からの催促状をそっと端に除けておく。

 馬鹿貴族たちから突っつかれているんだろうけど、僕に進捗状況を確認するメモ紙を回されても困るです。ノイエの中で活動しているんだから確認のしようはないのです。


「あ~。面倒臭い」

「ならすてます」


 端に除けた陛下からのメモをポーラが掴んで丸めてゴミ箱に。


 この子はなんて末恐ろしい。


「こらポーラ。捨てのはダメです」

「すてるのはだめですか?」

「ダメです」

「……」


 回収してきて一生懸命に机に擦り付けてしわを伸ばす。

 うむ。こうやってポーラもまた1つ大人になるんだな。


「にいさま」

「はい?」

「こっちのかみは?」

「あ~。そっちね」


 馬鹿兄貴からの報告書を見せてくるポーラに、今度は僕がその紙をクルクルと丸めてゴミ箱に叩き込む。


「これはこれで十分です」

「むずかしいです」

「大丈夫。ポーラならできるよ」

「がんばります」


 ギュッと両手を胸の前で握りポーラがやる気を見せる。

 こうしてポーラが成長してくれれば僕の仕事が減るに違いない。


 と、ズーンと床が震えてパラパラと埃が落ちてくる。

 慌てて雑巾を装備したポーラが机を拭いてくれた。


「にいさま」

「ん?」

「きょうはよくゆれます」

「だね」


 揺れるのは仕方ない。

 長きお休みから解放されたノイエが、暖気運転を開始したのだ。


 今朝方、アホ毛を揺らして行こうか残ろうか迷っている様子のノイエに気づいた。

 多分距離的にまだ少し遠かったのかもしれない。


『軽く倒してくれば?』『軽く?』『体を動かすと夕飯が美味しくなるよ?』『行く』でノイエの活動再開が決まった。

 美味しい夕飯のために狩られるドラゴンたちにも少しばかり同情する。


「まあこれでノイエが落ち着いてくれるといいんだけどね」

「……」


 これポーラよ。その目はなんだ?

 まるで『無駄に決まってます』と言いたそうな目で兄を見るな。

 少しぐらい夢見てもいいだろう?




「ノイエッ! もう無理だからっ!」

「平気」


 無表情でキレッキレの動きを見せるノイエが僕の上に乗ってくる。


 ここ最近の動きが嘘のようにキレがいい。

 ドラゴン退治をして体を動かした分調子がいいのかもしれない。予定と逆なんだけど!


「落ち着こうノイエ」

「大丈夫」

「何が?」

「夜は長い」


 本当に僕の寿命が縮むよ?

 何その名言っぽい感じで自分の行為を正当化しようとしているのかな?

 僕は誤魔化されないぞ!


「ノイエ許してっ!」

「……」


 必死の命乞いにノイエが小さく首を傾げる。


「分かった」

「ノイエッ!」


 感極まって泣きそうになった。

 やっぱりノイエは優していい子なんだ!


「朝までしない」

「情けはどこに捨ててきた?」

「あっちの方」


 適当な場所を指さしノイエがやる気を漲らせる。

 終わる。このままでは確実に僕の何かが終わる。


 誰か~助けて~!


「ふむ。これが性行為か……」

「「……」」


 ベッドの端から聞こえてきた声に僕とノイエが視線を向ける。

 マットレスに手を置いて、その手の上に顎を乗せた黒髪の女性がこっちを見ていた。


「ああ。気にしないで続けてくれたまえ」

「いや無理だろう?」

「どうしてだ?」


 何を言っているのだこの馬鹿者は?


 スルスルとノイエが僕の上から移動して何故かシーツを纏ってその身を隠す。


 恥じらいとは無縁のノイエだから……実はこの馬鹿者が苦手なのか?


「ふむ。これが男性のっ」

「言わせるかっ!」


 僕の下腹部に手を伸ばしてきた馬鹿の頭を掴んでマットレスに押し付ける。


 これがシュシュに頼んでおいた変人だろう。前回はノイエの姿だったけど、今回は宝玉を使って本来の姿で現れた。

 何というか残念美人とはこのことか? 凄く奇麗でスタイルも良さそうだけど、兎に角コイツは色々と壊れている。魔剣と言って槍を作るような馬鹿だ。


 枕を掴んで馬鹿の後頭部を何回か叩いておく。


「どうして容赦なく叩くのかね!」

「煩いわっ!」


 起き上がった馬鹿に枕を投げつけたらそのまま床に向かい転げ落ちていった。

 後頭部でも打ったのか、頭を抱えて馬鹿が床を転げ回る。


 今のうちに寝間着を着て……下着はどこに行った? ガウンを羽織って誤魔化すか。


「無視かね!」

「いいや……準備を終えただけだ」

「ん?」


 相手の腰に腕を回してガッチリホールドする。


「ちょっと何をっ!」

「躾です。これは躾です」

「誰にっ! 対してっ! のぉっ! 断りっ! かねっ!」

「僕は女性に対して暴力を振るわない男なのです。ですからこれは躾なのです」

「振るっ! てぇっ! いるっ! だろっ! うぉっ!」

「暴力ではありません。そして僕も心で泣きながらこの行為をしているのです」


 一生懸命に自分に言い訳を聞かせ、ちゃんと馬鹿の尻を叩き続けた。




 あ~右掌が痛い。

 躾を終え、尻を突き出した体勢で床に突っ伏す馬鹿はそのまま放置だ。

 途中で『煩悩の数は108だったね』と思い出して8回追加した。


 ただ僕の地元のお寺だと、来た人全員が叩けるから年末とか108回以上鐘を突いてたな。

 あれって叩きすぎても問題ないのかね?


 と、スルスルとベッドの上を移動してノイエが僕に向かい『抱いて』とばかりに両手を広げて伸ばしてくる。

 うむ。僕の苦行を察して慰めてくれるんだね。


 迎え入れるように両手を広げてノイエに近づくと、彼女が僕の首に腕を回してキスしてきた。

 たっぷりと味わってから唇を離すと、ギュッとノイエが首に抱きついてくる。


「アルグ様」

「ん?」

「凄い」


 何故か褒められてノイエに甘えられた。

 つまりこの馬鹿を叩くとノイエに褒められるわけか。


「本当に……容赦ないな……」


 復活した馬鹿にノイエを抱きしめたままで体を向ける。


「エウリンカ」

「……何かね?」

「あともう100回ぐらい追加して良い?」

「良いわけないだろう!」

「そう怒るなよ~」


 全く……尻叩きくらいで怒るだなんて心の狭い。


 そっとノイエを離して馬鹿に近づく。


「冗談にしても言って良い言葉と」

「冗談じゃないよ?」

「な、に?」


 さっと相手を捕まえてスタンバイオッケーです。


「僕は有言実行な人なのです!」




~あとがき~


 雨期が終わりに向かいノイエの活動が再開です。

 暖気運転をして調子が良いからそのまま夫婦の運動を。


 で、それを見学する変人が1人。

 有言実行の主人公は百叩きを実施するのですw




(C) 2021 甲斐八雲

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