今日はノイエの盾もない!
「で、何の用だ?」
「冷やかしに決まっているだろう?」
「良し殴る」
うぉ~い。冗談の通じない近衛団長だな?
頭を抱えて逃げる僕を拳を握った近衛団長が居って来る。
ちょいと用事ができたので近衛団長の執務室を覗いたら、机の上に山と積まれた書類の向こうに猛獣が頭を抱えて座っていた。
そんな姿を見たらからかいたくなるのが人情だ。
マジか? 本気で殴る気なのか?
クルッと部屋の中を一周してからソファーに座る。
「それで用は何だ? 生憎と暇じゃない」
「それは済まないね~。でもちょいと仕事です」
「あん?」
向かいのソファーに座った馬鹿兄貴にクレアが纏めてくれたリストを投げ渡す。
受け取った彼はそれに目を通すと……眉間に皺を寄せた。
「こっちは兄貴の王位を面白く思っていない連中だな」
「グローディア宛に贈り物をして来た馬鹿共だね~」
メイドさんに紅茶を頼む。
「こっちは……良く分からない集まりだな」
「アイルローゼ宛に贈り物をして来た人たちだね~」
あ~。せんぶりっぽいお茶が美味しい。
「それは問題無いな。一応陛下宛に話を回すがお前の好きにしろ」
「了解」
「で、問題はこっちか」
ピラピラとグローディア宛の贈り物を寄こした馬鹿たちの名が綴られた紙を振る。
問題と言えば問題だけど、実際僕には関係ないはずだ。頑張れ王弟。
「一応探りは入れさせるか。面倒だが」
「だね~。で、贈り物の方は?」
「どうせお前との連名だろう?」
「だよ」
「だったらグローディアの帰還祝いとして受け取っておけ」
「了解」
少なくともこれで陛下を良く思っていない連中を散財させることになるしね。
「それで用件はこれだけか?」
「あっもう1つ」
「ん?」
ソファーから立ち上がり仕事に戻ろうとする馬鹿兄貴が足を止めた。
「ウチの可愛い妹を回収しに行きたいんだけど?」
「ああ。お前の所のチビが何故か居たな」
居たなって疑問に思えよ?
「それを回収したいのです」
「あれなら朝一にお前の屋敷に送ったぞ?」
「それは……行き違いか」
ならば馬鹿兄貴の屋敷に行く必要は無いな。
「だったら行く必要は無いな」
「何なんだよお前は?」
「いや~。はっきり言うと義母さんに会いたくない?」
「……気持ちは分からなくもないが」
グローディアと言う爆弾を抱えている僕の身になって欲しい。
一応納得したらしいが、いつ暴走するか分からないのがあの義母さんです。
と、立ち上がりかけていた馬鹿兄貴がまたソファーに座る。
「そうだ。グローディアとはどうやって連絡を取っている?」
「一方的に連絡が来る感じかな? あっちから手紙が来て返事を書いて置いておくと戻るみたいな感じです」
「そうか。そうするとこっちから気軽に連絡は取れんか」
「何よ? 問題?」
「……問題と言えば問題だな」
腕を組んで馬鹿兄貴が軽く肩を竦める。器用だな。
「あれの生存が確認された。つまり王位継承権が生じる。順位は4位となりお前とイールアムの下だな」
「おう。そんな気がしていたがそうなるか。で、それの何が問題?」
「……あれの両親の遺産相続などの話も出て来る」
それは確かに厄介だな。
「だったら現金化して僕に頂戴よ。あれに資金提供してるんだしさ」
「それでも良い気はするが、手続きと言う面倒がある。そうしたいのなら委任状を持って来い」
「あれが素直に書くかよ?」
「だろ? 本当に厄介な従姉だよな……好き勝手やってさ」
「まあね」
互いにため息を吐く。
ただグローディアの我が儘を僕らは強く非難できない。
義母さんを救おうとする為に必死に頑張ったのだ。その部分だけは何も言えない。
結果としてあの日のあの出来事が生じてしまったけれど。
「お前はあの日の被害者を探しては少なからず金を与えていたのは……グローディアの代わりに罪滅ぼしをしていたのか?」
「そう思っててよ。自慢できることじゃないしさ」
そもそもあの日のことを調べていたのはノイエに関係していたからだ。
ただ調べると被害者保護の概念が無いこの世界では生き残った人たちのその後は酷い物だった。
特にファシーの魔法で怪我を負った人たちなどは酷かった。貧民街に居たこともあり手当てすらして貰えずに亡くなった人が多い。親が殺され孤児になった子供も多く居る。
独自に調査して発見できた人たちには少なからず“国”からとして金銭を与えて来たけど……最近は全く見つかっていない。
「そっちで調査とか出来ない?」
「ばーか。こっちで握ってた情報をお前に回してたんだよ」
「ですか」
事実ならもう探しようはないか。
「一応グローディアの捜索に使っていた人員をそっちに割いて一定期間は捜索させるが……余り期待するな」
「広く募って自己申告させるのは……詐欺の温床か」
「だな」
どう考えてもこの手の活動は詐欺を働く者が出て来る。
楽してお金が手に入ると知れば、人は安易な行動を起こすものです。
宝くじを当てて一獲千金を夢見るのと同じだな。
あっ宝くじとか良いな。今度陛下に申し出て国庫を潤う手段にするかな。
賭博の類は胴元が儲かるように出来ているって聞くし、ホリー辺りに考えさせればちゃんと稼げるシステムを作ってくれそうだしね。
「何か話が脱線したけど、一応グローディアの方にはその辺のことは伝えておくよ」
「そうしてくれ」
これで話は終わったはずだ。
「なら僕はこれで」
「ここに居ましたかアルグスタ?」
「はい?」
立ち上がろうとしたら冷たい声が。
ゆっくりと顔を上げたらバキバキと指を鳴らせる叔母様が居た。
「ちょっと待って。昨日の話はもう終えたから」
まさかの義母さんが僕の屋敷に乱入するとか思いもしなかったけれど。
だが叔母様は僕の言葉を無視してバキバキと指を鳴らし続けてやって来る。
しまった! 今日はノイエの盾もない!
ズンズンと迫って来る叔母様から逃れる手段が全くない。
むんずと首の後ろを掴まれ……猫持ちをされて僕は両足を引き摺り馬鹿兄貴の執務室を後にした。
~あとがき~
グローディア関係は一応報告にと…というわけでハーフレンとのトークです。
終わったらまさかの叔母様イベント発生ですけどねw
(C) 2021 甲斐八雲
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