……喜んで手伝わせていただきます

「これはどうしてかしら?」

「「……」」


 椅子に縛り付けた義母さんが、不思議そうに辺りを見渡す。

 それを僕とノイエ……グローディアが腕を組んで見つめる。


「ねえリア義母様?」

「はい?」

「さっき気づいていたと言ったわよね?」

「ええ」


 何故か椅子に縛り付けられている母さんが胸を張る。

 そんなに大きくない。普通だ。たぶんシュシュぐらいだ。


「いつ気づいたのかしら?」

「えっと……確かアルグスタとノイエが初めて私に相手に来てくれた時かし、ら?」

「そんな前から?」

「ええ」


 笑顔で肯定する義母さんの様子にノイエの額に青筋が浮かんだ。


「どうして分かったのかしら?」

「うん? 気づいた理由ということかしら?」

「そうよ」

「そんなの決まっているわ!」


 めっちゃ笑顔で義母さんが口を開く。


「愛よ!」

「……アルグスタ」

「はい?」


 とても冷ややかな声がノイエから聞こえてきた。


「ちょっとその辺から毛虫を捕まえて来てくれるかしら?」

「ひぃぃぃ」


 義母さんが恐怖で身を捩じる。


「青虫でも良いわよ」

「みぃぃぃ」


 義母さんの怯えようが半端無い。


「とても嫌がってますけど?」

「……リア義母様はあのもぞもぞ動く様子とか嫌いなのよ」

「無理なの~。あのクネクネと体を動かす感じが~。ブニブニとして無理なのよ~」


 子供のように泣きだして両足をバタバタと動かしまくる。本気で嫌っているようだ。


「リア義母様。本当はどうやって気づいたのかしら?」

「……毛虫は来ない?」

「返事次第かしら」

「ディアが冷たくなったわ……」


 ウルウルと泣きながらもチラチラと義母さんがこっちを見てくる。


 何この構って的な感じ? もしかしてイジメられているのに喜んでますか?


「……気配かしら?」


 沈黙に耐えられなくなったのか義母さんが自白した。


「気配と言うか匂いと言うか……ノイエの中から懐かしい感じがしたから。もしかしたらディアがノイエの中に居るのかなって。

 だってノイエって何でも食べちゃう女の子でしょ? 何かの間違いでノイエがディアを食べちゃったのかと思って」

「「……」」


 若干呆れるグローディアはまあ良い。


「何処に行くのかしら? アルグスタ?」

「ちょっと毛虫か青虫を」

「むりぃぃぃ~」


 バタバタと暴れる義母さんなど知らん。

 ノイエがグローディアを食べただと? そんな暴言は決して許さない。


 フラフラと窓の方に向かう僕をグローディアが抱き付き引き戻される。

 何故か気づくと義母さんの横で椅子に座り縛られていた。


「アナタたちは本当に好き勝手して」

「お前にだけは言われたくないわ」

「あん?」


 ノイエの顔で睨むなと言いたい。

 フルフルと頭を振ったグローディアが深いため息を吐く。


「それでリア義母様は私の存在に気づいていたと?」

「気づいていたと言うか……居るのかな~って。でも確信は無かったから黙っていたのよ。

 それにもしかしたら何か秘密があってそんなことをしているかもしれないし。

 私だって一国の王妃を務めたのですからそれぐらい察します」

「「……」」


 どうしても納得できずに僕とグローディアが互いに見合う。


「何よその沈黙は? 本気の私は凄いんですからね」


 プリプリと怒る義母さんだが、確かにこの人は王妃をしていた。

 ただちゃんと王妃をしていたとか言われると納得できない。基本屋敷に引き籠りだしね。


「だからノイエが来たら抱きしめて頬ずりして確認し続けて確信したの! ディアがノイエの中に居るって……でもスィークがお城にディアが現れたって。

 だから私がスィークにお願いして、アルグスタたちを連れて来るように言ったのに!」


 またプリプリと怒る義母さんが居る。


 確かにノイエの中に居ると確信していたら、本人が姿を現した訳だ。意味不明だろう。

 落ち着いて考えれば義母さんの確信も意味不明だけれども。


「それでディアは今何処に居るのかしら?」

「……別の所よ」

「ノイエの中じゃないの?」

「違うわ」


 視線を逸らしグローディアが否定する。


「今ノイエの体を動かしているのは術式の魔女が作った魔法よ。だからリア義母様がノイエの中に私を感じたのかもしれない」


 何となく分かっていたが、グローディアは誤魔化すことにしたようだ。

 正直に告げても……たぶん中の人たちのことを考えたのかな? 自分の我が儘で巻き込みたくないとか。


「そうなの?」

「ええ」

「ならディアは何処に居るのかしら?」

「遠い所よ。そこで1人で過ごしている」

「あら? メイドのティーレが居ないと何も出来なかった貴女が?」

「……そうね。だから大変よ。本当に」


 答えたノイエの表情が、その目が涙で潤んだ。


 そっと義母さんの前に動いたグローディアが床に両膝を着く。


「リア義母様」

「何かしら?」

「……私はとんでもない罪を犯したわ」

「そうなの?」

「ええ」


 ポロポロと涙を落とし、グローディアが義母さんの足の上に顔を寄せる。

 グシグシと涙を擦り付けるように……その顔を押し付ける。


「あの日の惨劇を引き起こしたのは私なの」

「そうなの?」

「……ええ」


 義母さんの足に抱き付いてグローディアが胸の内を晒す。


「私が我が儘を……何も考えずに異世界召喚をしたの。結果としてあの惨劇が起きた。

 全て私が悪いの……悪かったのよ」


 耐え切れなくなったのかグローディアは言葉を続けられず泣き声を発する。

 その様子に上半身を拘束している縄をブチっと切った義母さんが彼女の背を撫でる。


 って、今軽く脇を広げただけで縄を切ったよね?


「どうしてそんなことをしたの?」

「……」


 泣きじゃくるグローディアは答えられない。

 静かな義母さんの眼差しが僕を見た。


「命を懸けても救いたい人が居たんですよ。だから無理をしたんです」

「そうだったのね」


 柔らかく笑い……義母さんもポロポロと涙を落とす。


 自称出来る王妃だった人は分かったみたいだ。グローディアが誰を救おうとしたのかを。


「なら貴女はこれから良い事をいっぱいしないとダメよ?」

「……」

「義母さんも手伝ってあげる。大丈夫よ。これでも私は凄いんだから」


 何故か自信あり気に胸を張る。その自信は何処から湧いて来るんですか?


「だから何の心配もいらないわ」

「義母様……」


 顔を上げたグローディアを義母さんが手を伸ばし抱きしめる。


「貴女は私の大切な娘よ」


 ギュッと抱きしめられているノイエの表情が何処か幸せそうで、何かしらの呪縛から解放されたようなそんな感じにも見える。

 霊体だったらそのまま成仏しそうなぐらい良い表情をしているな。うん。


「だから何の心配も要らないわ」

「義母様」


 甘えるグローディアを抱きながらチラリと義母さんが僕を見る。


「それに何かあったらアルグスタがどうにかしてくれるもの!」

「丸投げかいっ!」


 このツッコミは間違っていないはずだ。

 でも義母さんとグローディアがこっちを見る。きつい視線で。


「手助けしてくれないの?」

「義母様のお願いを聞かないの?」

「……喜んで手伝わせていただきます」


 酷い脅迫だ。やはりグローディアは僕の天敵だ。




~あとがき~


 何となくでノイエの中にグローディアを感じていた義母さんなのでした。

 そしていつも通りに頑張れアルグスタへとなるわけです。


 少しだけ同情したくなったな




(C) 2021 甲斐八雲

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