そして私の企みも形になる

 全ての治療を終え、野戦病院と化していた場所は片付けられた。

 流石に疲れ果てたリグはしばらく休むと……カミューに抱えられて中央の施設へと戻される。


「無理を言ったわね」

「ああ。今後は気をつけてくれ」

「それは貴方が私たちを庇え切れなくなるから?」


 監視の後を付いて歩いていたカミューは素直にそう質問する。

 彼は足を止めて肩越しに彼女を見た。


「悪だくみは大いに結構だ。騒ぎを起こすのも良い。けれど……それを良しとしない者も多い。これから先はそう思う者たちがここの支配を強めるだろう」

「つまりは?」

「より実戦的に……そして使えない者は淘汰するってことだ」


 スッとカミューの目が細まり、そして彼女は殺意を抑え込まない。


 溢れ出る凶悪な気配に監視は苦笑した。そして抱えられているリグはガタガタと震えた。


「あの子を守るのはお前たちの役目だ。俺が口や手を出すことじゃない」

「結果貴方たちと敵対することになったとしても?」

「仕方のないことだ。残念だがな」


 正直に胸の内を語る相手にカミューは殺意を押さえた。


「なら私がノイエを護るわ。どんな手を使っても」

「そうすると良い」


 止めていた足を動かし彼は扉の前へと来た。

 解放されたリグを先に扉の中へ入れ、また監視はカミューを見る。


「俺もここにどれほど居れるか分からない」

「……」

「だから言っておく。もし逃げるなら東部へ行け」

「東部?」

「ああ」


 軽く息を吐いて彼は頭を掻く。


「クロストパージュ家の現当主は話の分かる御仁だ。あの人の元へ行けば少なくとも匿ってくれるだろう」

「つまり貴方はクロストパージュ家の魔法戦士隊の出というと?」

「違うさ。元はただの暗殺者だ」


 苦笑いを浮かべて彼はカミューを見つめる。


「ある人に救われて助けられた。だからその人の為に死のうと決めたただの暗殺者だ」

「そう」


 クルッと相手に背を向けカミューは歩き出す。


「私も似たような人生を歩む元暗殺者を知っているわ」

「奇遇だな。俺もだよ」




 流石に今夜は静かだ。皆が疲れて寝静まっていることもある。

 そっと目を開いて隣を見たカミューは、スヤスヤと眠るノイエを見た。


 金色の模様を浮かべる瞳でだ。


《こんな破格の素材が近くに居るだなんて……これはどうにかしてこの子の魔力を使いたい所ね》


 それにはまず研究が必要だ。けれど今日は別のことで目を覚ました。


《子供が泣く姿って嫌いなのよね。嫌なことばかり思い出して》


 スッと起き上がり、指を動かして宙に言葉を綴ってそれを弾く。

 建物内に居る者たちを全員眠らせ……カミューの姿をした者は外に出る。


《あっちか》


 何となく捕らえている魔力を辿って歩いて行くと、その建物の中はまだ起きている者が居た。


 気配を消して中を覗けば……長い赤髪の女性が何やら行っている。

 月明りで見えにくいが、どうやら目的の少女を看病してい居る様子だ。


《プレートを書き直して疲れ果てているだろうに……不器用ね》


 手先では無く人間が不器用なのだろう。


 術式の魔女呼ばれた女性の姿に軽く笑い、カミューは宙に言葉を綴りそれを弾いて魔法とする。

 カクンと睡魔に襲われ術式の魔女も眠りに落ちた。


《お邪魔します》


 建物の中に入って奥へ行くと、酷く顔色を悪くさせた少女のような子が居た。

 傍目で分かる。『長くない』と。


 ずっと昔から助からない命を数多く見てきたから、導き出せる絶対の予想だ。


《どこか似ているのよね……この子》


 喧嘩別れと言うか憎しみ合って殺し合いをした親友の面影を感じさせる少女に、カミューはそっと指を動かし言葉を綴る。

 とにかく集められるだけ魔力を絞り出し、そしてそれを文字にして弾いた。


《頑張りなさい。貴女を助けようとした人がこれほど居るのだから》


 クスリと笑いカミューは建物を出ると、月明りの元で散歩を始める。


《ユーアの娘もあんな感じだったわね》


 懐かれて扱いに困ったけれど、それでも子供は可愛いと思った。

 何より母親であった彼女は自分の子供を本当に慈しんでいた。


 それなのに……彼女は狂ってしまった。


 愛しすぎるが余りに狂い、暴走し、そして大切な存在をあっさりと斬り捨てた。


 許せなかった。

 愛していた子供と言う存在を斬り捨てた友人が。

 何より多くの友が、知り合いが、仲間が居る世界を一方的に破壊しようとする彼女が。


「貴女は月明りが好きだったわね……結愛ゆあ


 暇さえあればこうして月を眺めている人だった。

 異世界の月でも彼女は『月は月でしょ?』と言っていた。


「貴女はあの月すらも……この世界そのものをすべて破壊しようと企んでいるのよ? 分かっているの?」


 たぶんもう分ってなどいない。狂った彼女に人間らしい思考する力など残っていない。

 全てはこの世界を破壊して自分が描いた世界へと作り変える為に生きているのだから。


「待っててね。始祖の魔女……今度こそ私が貴女を殺してあげるから」


 1人では無理かもしれない。

 でももしここに居る者たち全員の力を1つに集めることが出来たのなら……不可能は可能に変わる。


 奇跡と言う名の魔法を得て。


《だから》


 綴る。宙に言葉を綴り自分の魔力を吐き出し彼女は言葉を描く。


「時が来たら使いなさいカミュー。そうすれば貴女の願いは叶う」


《そして私の企みも形になる》


 描いた言葉を指で弾いて魔法とする。

 刻印の魔女と呼ばれたイーマは、自分が宿る体に向かいその魔法を発動するのだった。




~あとがき~


 刻印さんが主人公のようだw


 全員が協力して救おうとした命…それが叶わないのは面白くありません。

 だって彼女は自称とても悪い魔女。

 現実と言うものの横っ面をひっぱたいて自分都合に塗り替える悪者なのです。


 そして最後にある封印を解きました。それは…いずれ




(c) 甲斐八雲

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