決定事項なの?

「アルグスタ様」

「ほい?」

「この子って最終的にどうする気なんですか?」


 ハグハグと僕の隣でお肉を食べているポーラの様子にほっこりする。

 鍛練を終えて戻って来た野郎共が、こっちを見てはほっこりするぐらいだ。その破壊力は凄まじい。


「騎士にする予定だよ?」

「……騎士になった自分が言うのもなんですけど結構危ない仕事ですよ?」

「だね。でも裏方にしちゃうにはポーラの祝福は勿体無いんだよね。暑い時期に部屋で涼めるからって言う理由で執務室に置いたら怒られそうだし」


 冷房の無いこの世界ではポーラの力は意外と需要はある。

 ただ僕としては別の可能性を考えて居る。


「この子って魔力もあるのよ」

「ふぐっ!」


 お肉を食べていたルッテが咽て大きく胸を揺らした。

 揺れる何かを見つめたポーラが自分の物に目を向けて……泣きそうな顔をする。

 休憩していた野郎共が険悪な雰囲気で脂肪の塊に殺意を向けだす。


 待てお前たち。そこを睨むのは単なるエロい野郎でしかないぞ?


「魔法に祝福って……国によったら英雄ですよね?」

「褒めるなよ~」

「……アルグスタ様もそうでしたね」


 なぜ今にも唾棄しそうな表情を作る? 返答次第では君の細やかな幸せを潰しちゃうよ?


 お肉を食べるのを再開したポーラの頭を軽く撫でる。


「執務室に置いておけないでしょ? たぶんそんなことをしたら他所から『寄こせ』と言われるしね」


 だったらここで使うしかない。


「まずは読み書きと計算を教えて、それから簡単な知識。出来たら魔法もかな? ひと通り学ばしてからここで働いて貰って……1年2年はかかるけど、その頃になれば一人前だしね」

「わたしと違って物凄く愛されているんですけどっ!」


 たぷんと揺らしてルッテが憤慨する。


「知らんよ。僕がここを預かる前だから……苦情は馬鹿兄貴にして」

「良いんです。どうせわたしなんて……」


 そして拗ねだした。


 ルッテは見つけられて連れて来られて、そのままノイエ小隊に放り込まれたと聞く。

 一応フレアさんが教育係だったから……あの人もそこそこのスパルタなんだよね。何よりその師である先生がスパルタだし。嫌な伝統だな?


「だからポーラは現場で使えるように、騎士になるように育てます」

「はい。ねえさまのようにがんばります」


 グッと拳を握るポーラはやる気だ。ただノイエのようには色々無理かと。


「まあノイエになるのは無理だろうけど頑張れ」

「……ねえさまのようになります」


 どうしたポーラ? 本当にあれになれると思っているのか?


「ノイエ……ご飯だよ」

「っはい」


 いつも通りに呼んだらノイエが突然姿を現した。

 瞬間移動かと思わせる登場に、丸太の椅子に座っていたポーラが驚いて背中側から地面へと倒れた。背後で縛られ転がっていたミシュをクッションにして難は逃れたが。


 僕がポーラを起こしている間に、食事を山と盛ってノイエがやって来る。


「ノイエさん?」

「ここ」

「……」


 グイグイとお尻をボクとポーラの間に押し込んで真ん中に座る。


「大人げないですよ?」

「……」


 骨付きのお肉を食べ出したノイエさんはノーコメントです。

 ですがこれはノイエの教育でもあるので心を鬼にします。


「そこに座るなら、ちゃんとポーラのお姉ちゃんをしなさい」

「……はい」


 器用に片手で食事をしながらもう片方の手でポーラの頭を撫でる。

 その様子に慌てたルッテが変な動きを見せた。


「隊長が……子供を撫でてますよっ!」

「人聞きの悪い。ノイエは子供嫌いじゃ無いから普通に撫でます」

「だってお城とかだと」

「あれは相手がグイグイと迫って来るから対応が分からなくなるのです。ノイエの距離で接せられるならこうして可愛がったり出来るのです。ちなみに夜とかだとギュッと抱きしめて寝たりします」

「……わたしの知らない隊長ですっ!」


『ふわ~』とか言いながらルッテがノイエの様子をガン見している。

 ノイエは優しいからこれが普通なんだけどね。まっ人の噂は当てにならないと先生の一件で理解した僕としては、自分の目で見て聞いたことを信じるのが大切だと思う訳です。




「その子ですか」

「ひうっ」


 待機所からお城に戻ったら部屋の中に鬼……優しい叔母様が居た。


 余りの優しい表情に初見のポーラが怯えて僕の後ろに隠れてしまった。

 ダメだポーラ。その対応は後々まで恨みを買ってしまう!


「何かご用ですか? スィーク叔母様」

「いいえ。アルグスタが新しい玩具……人材を連れていると聞きまして」


 今玩具って言ったよね? ねぇ?


「はい。この子が新人のポーラです。はい挨拶」

「……ポーラです」


 ペコッと頭を下げてサッと僕の背後に隠れる。

 だからそれはダメな対応なんだよポーラっ!


「田舎から出て来たばかりで色々と不慣れでして」

「ですか。てっきりわたくしに怯えたのかと?」

「そんな訳ないじゃないですか……叔母様の大半は優しさで出来てるんですから」


 そっちのクレアっ! 目を剥いて驚かないっ! 君もロックオンされるよ?


「本当にわたくしのことを理解しているのはアルグスタだけですね」


 軽くクレアを睨んでスィークさんがこっちを見る。


「祝福と魔力を持っているとか?」

「はい。ですから騎士にしようと思っています。物覚えも良いので将来有望かと」

「……ですか。それは惜しいですね」


 何がでしょうか?


 こっちの意を汲んで叔母様がニコリと笑う。


「わたくしの弟子にでもしようかと思ったのですが……」

「どっち? どっちも弟子が居ますよね?」

「変なことを言うのですね。どちらも常に優秀な弟子を求めていますよ」

「ですか~。でもこの子はフレアさんの後釜にする予定なので」

「だったらメイドにするのも面白いですね」

「騎士にしますって」

「……」


 ジロリと目を向けて来る叔母様からポーラを遠ざける。

 まさかこんな場所に欲しがりさんが居るとはっ!


「どうしてこの国の権力者はメイドの価値を理解しないのでしょう? 常に主の傍に居て不自然ではない存在だというのに」

「ですがメイドにしてしまうとポーラの能力を生かし切れません。やはりここは騎士で」

「だったらその子に選ばせましょう」


 グイッと詰め寄って来る叔母様がポーラを見た。


「貴女はどちらが良くて?」


 突然の言葉に僕とスィークさんとの間で視線を巡らせたポーラは、ゆっくりと口を開いた。


「りょうほうがいいです」


 ある意味正解で間違いな答えをポーラは口にした。

 しかし斜め上を行く叔母様が鷹揚に頷いた。


「なるほど。それは斬新な」

「理解したのっ?」


 驚く僕に叔母様はまたも頷く。


「この子は騎士でありながらメイドも目指すと言っているのです。ある意味完成形では無いですかっ!」


 確かに完成形かもしれないけど。


「だったら国王様の護衛がそんな」

「あれと一緒にしないで下さい。あれはただメイドの服を着た騎士共です」


 何か叔母様がお怒りに?


「メイドで無い者にメイドの服を着せて護衛にしているだけの木偶です。ですがその子はわたくしがメイドとしての基礎を叩きこみ、そして騎士の教育も施しましょう。さすれば完璧なメイド騎士の誕生です」

「ごめんなさい。もう色々と理解が追い付かないので、ウチのポーラをそんなネタキャラみたいな存在にしないで下さい」

「楽しくなってきましたわ」

「決定事項なの?」


 それからポーラの課題には『メイド学』なる物が追加されることとなった。




~あとがき~


 まだまだお姉ちゃんには程遠いノイエさんなのです。

 そしてスィーク叔母様がポーラをロックオン。本当にそんなネタキャラになるのか?




(c) 甲斐八雲

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