切断!
「ふわわわ~!」
「こっち~だよ~」
悲鳴を出し過ぎて奇声を発し涙ながらに逃げ惑う金髪少女に、黄色い髪の彼女が手招きをする。
必死に駆けて来た少女……フレアは、先に逃げていた同級生であるソフィーアの胸に抱き付き震えながら泣く。
よしよしと妹でもあやすように頭を撫でる彼女も顔色が良くない。
ここ最近何かと不安定なソフィーアだから仕方ないのかもしれない。
個人的な状況は置いておき……シュシュは視線を向け直した。
やはり状況が悪すぎる。
「ミローテ~。アイルローゼは~?」
「最初の一発を受けてから……先生のことだから大丈夫だと思うけれど」
瓦礫の山と化している元倉庫があった場所を見つめ、ミローテと呼ばれた彼女の顔色も悪い。
ユニバンス魔法学院で最強と呼ばれる自分たちの師が一撃を食らい沈黙しているのだ。
あの天才の魔女に一撃を入れることなど想像も出来なかったが、その後のことは全くもって予想外だった。
暴れているのだ。あの無敗の魔女を殴り飛ばした木と石で作られた人型の巨人が。
完全に暴走していると言っても良い。どうにか止めようと製作に携わった男子共が必死に止めようとしているが……殴り飛ばされ怪我人ばかりが増えている。
「ん~。あれってさ~学院長に~見つかったら~大問題~?」
「だと思うわ」
フワフワと踊りながらソフィーアとフレアを自身の魔法で覆い守りの壁としたシュシュが、巨人の隙を見て師である魔女を救いに行こうとしているミローテが返事を寄こした。
あの巨人に駆け寄る勇気など持ち合わせないシュシュとしては、このまま見学している方が良い。
「ど~する~?」
「先生なら絶対に止められるはずよ」
巨人の拳を食らって吹き飛んだ師の無事を、弟子であるミローテは信じている。
ミローテの中では、あの絶対的な支配者であるアイルローゼが負けるなどあり得ないのだ。
「でも~瓦礫の~中だ~ね~」
「掘り返せば先生ならあんな巨人直ぐよ」
《生きてればだけど……》
盲信過ぎる同級生を見つめシュシュは息を吐いた。
と、巨人の攻撃を食らって数人の男子が吹き飛んで来る。
シュシュの魔法に気づいた彼らは、這う這うの体で転がり込んで来た。
「ポーパルっ! どうにかしてあれを止めなさいっ!」
らしく無いほど声を荒げてミローテが怒鳴った。相手は転がり込んで来た男子にだ。
「無理を言うなミローテ。私は協力しただけであれの制作には関与していない」
「なら誰なら止められるのよ!」
「制作の中心はシャルテだ。ただ彼はアイルローゼの次に殴られてキルイーツの元に運ばれた」
「ああっ!」
地面を蹴って八つ当たりするミローテをシュシュは初めて見た気がした。
良い所の……上級貴族の家柄の出だけにそんなことはしないと思っていたが、どうやら自分たちと大差無いのだと知れて少し嬉しくなった。
「あれの設計で一番協力的だったのがシューグリットとモンニャだ。シューグリッドは魔力の供給と貯蔵を。モンニャは強化術式の維持などだ」
「……それで~?」
怒りに任せて八つ当たりを続けているミローテに変わり、シュシュが質問を続ける。
「当初は命令を受けて動くように作っていたのだが、その場に居る者たちが全員で命令するものだから……だからいくつか命令を与えて勝手に動くようにと改造を加えたらしい」
「へ~。そんな~術式~誰が~作ったの~?」
「決まっているだろう? アイルローゼを除いて誰が作れる?」
「……」
シュシュはゆっくりと視線を暴れる巨人に向けた。
つまりあの魔女は自分が生み出すのに手を貸した『子供』に殴り飛ばされたのだ。だったら親として本望だろう。多少殴られたとしても。
「で~。ど~したら~止まる~の~?」
「魔力が切れれば停まるだろうな」
「その前に~大問題~だ~ね~」
2人は揃って暴れる巨人を見る。
何人かが攻撃魔法をぶつけているが、全く止まる気配を見せていない。
本当に良くあれほど強固な巨人を作った物だ。
「ふふ……あはは……」
「ミローテ~?」
突如笑い出した彼女に声をかけたシュシュは、振り返ったミローテを見てフワフワと逃げ出した。
ひと目で分かるほどミローテはキレていた。
「そうよ。あんなの……先生の手を借りなくても……わたしが壊せば良いのよ……」
フラフラと歩き出したミローテが、巨人に近寄り足を止めた。
そしてその場に居る者たち全員がミローテの本気を見た。
胸元から取り出したペンダントを握り締めたミローテの背後に、恐ろしいまでに濃密な術の式が浮かび上がる。
まるで祈りを捧げるかのように低く響く声で魔法語を綴る。
「斬れろ斬れろ斬れろ……我が目の前に立ちふさがりし全てのモノに等しく刃の雨を落とせ!」
込められたミローテの魔力と展開する式を見て……シュシュは手当たり次第に自分の周りに魔法を放った。
「切断!」
暴れる巨人の表面を無数の傷が迸る。
幾重にも傷を作り出した魔法の効果が終わると……そこには原形を留めて立ち尽くす物体が残っていた。
「どうしてっ!」
「うわ~。硬すぎ~だ~ね~」
想像していなかった結果にミローテが慌て、シュシュが呆れる。
どれほどの魔法防御を施しているのかは知らないが、暴れる巨人は全身に傷を得ただけで動き続ける。
だが……変化が生じた。『ドカンッ!』と大きな音を発して倉庫の瓦礫が吹き飛んだのだ。
「……おはよう。目覚めの良い朝には思えないわね」
瓦礫の底から赤毛の魔女が這い出して来たのだった。
~あとがき~
切断は、放出系ミローテの一族に伝わる魔法の刃を降らせる魔法です。
魔法の刃と言うフレーズにピンと来た人はニマニマと笑っていてください。そのうちミローテの口からやんわりとそのことが語られますから。
ただあっちは…そのうち過去編でちゃんと語りますが、色々と複雑でしてね
(c) 甲斐八雲
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