つまり復讐と言うことか

 慎重に前進を続けていたハーフレンは、自身の背後で何を考えているのか分からないほどボ~ッとしている義理の妹の存在に若干やる気を失いかけていた。

 どうせ慎重に近づいてもドラゴンを見ればノイエは暴発する。だったら先を急いだ方が良いのではと考え直し、開き直って警戒することを止めた。


 どう言った経緯で誕生した洞窟かは分からないが、人なら2人程度並んで歩ける大きさのある通路が存在している。

 何より等間隔で配置されている明かりの様子からして、昔の軍事関係の施設だったのかもしれない。


 辺りを見渡し通路を進んでいると、足取りを軽くしたノイエが彼を追い抜く。

 余りにも素早い動きだったので制することも出来ず……彼女は駆け足程度の速度で走って行ってしまった。

 流石に慌てたハーフレンも急ぎ駆け足で相手を追う。しばらく走ると通路が広がり大きな空間へと出た。


「あ~っはは! これがユニバンスの白きドラゴンスレイヤーですか!」


 王城で見た竜司祭と名乗った男に向かい拳を握ったノイエが襲いかかっている。


 ギッと手に持つ宝剣胴斬りを握り直し、駆け出そうとして足を止めた。

 壁際に見知った存在を見つけ、迷うことなくそちらへと駆ける。


 壁に両手を拘束され座らされている存在をハーフレンは見間違わない。

 彼女を救う為ならどんな無茶でもすると決めてここに来たのだから。


「フレアっ!」


 その声に拘束されている者の頭が動く。

 ゆっくりと持ち上がった彼女の顔には……黒く澱んだ瞳の色が浮かぶ。


「ハーフ……死ね」


 拘束を吹き飛ばし、彼女の背後から湧きだした影が四方よりハーフレンを襲う。

 全てを回避することは無理だと咄嗟に判断し、胴斬りを眼前に構え出来るだけ攻撃を避ける。それでも棍のような形となった影に打たれ、ハーフレンは吹き飛び石の地面を転がった。


「ぐっ……ぐふっ!」


 痛みに顔を歪めながらそれでも立ち上がろうとした彼を誰かが踏む。

 ゆっくりと視線を向け……ハーフレンは口を開いた。


「誰だ?」


 相手の爪先が彼の背中を抉るよう踏み込まれる。


「本当に失礼な男だな君は! この私を忘れたと言うのか!」

「覚えてもいないな」

「この~!」


 数度蹴りつけられ、それでも無視して立ち上がろうとした彼は……動きを止めた。


 棒立ちしているフレアの横に、やはり誰か知らない男が居た。だがその男はこともあろうか彼女の首に剣の刃を押し付けているのだ。

 自身に強化を施していないのであろう彼女の白い首には、線のような傷が生じ赤い血が流れる。


「これで分かったか? ハーフレン王子?」

「古典的だな?」

「だが効果的だろう? 何せお前はあの女を愛し過ぎて斬り捨てられないのだから!」


 ギャハハと壊れたように笑い背を蹴っていた男が、今度は握った拳でハーフレンの頬を打つ。


「どうだ王子? 逆らえない気持ちは?」

「別に」

「随分と余裕だなっ!」


 腹に拳を受けるがハーフレンは腹筋を締めてそれに耐える。

 むしろ腹を殴った方が痛がり顔をしかめた。


「俺を殴るなら気をつけろ? 意外と頑丈だと有名だ」

「ふざけるなっ!」


 激高し何度も拳を振るう相手の攻撃を受け、それではハーフレンは今の状況を務めて冷静に観察する。

 どうやら隠れていた人間は二人だけのようだ。ただ殴りつけている馬鹿は良いとして、彼女の傍で隙無く剣を構えている相手が厄介だ。


 唯一の救いはノイエがいることなのだが、


「クハハハハ~っ! 大陸屈指のドラゴンスレイヤーと言われる実力などこの程度の物ですか!」

「ぐっ」


 どうも相手への攻撃が利かないらしく、眉間に皺を寄せていた。

 こちらの手を完全に読まれていたと判断するべきだろう。


「何処を見ている! この糞王子がっ!」

「糞でも屑でも構わんが……お前誰だ?」

「ふざけろよ! 忘れたのか!」

「知らん」


 はっきりと言い切るハーフレンに増々激高し、男は彼の股間を蹴り上げようとする。

 流石にそれを貰うと辛いので、ハーフレンは軽く膝で相手の攻撃を防いだ。


「歯向かうのかっ!」

「反射だ」

「言うに事欠いてっ!」


 腰の剣に手を伸ばし、それを抜こうとする男に……フレアに剣を向けていた男が口を開いた。


「まだ殺すには早い。ゾング」

「……糞がっ!」


 叫びゾングと呼ばれた男が腰の剣から手を放す。


(ゾング?)


 じっくりと記憶をたどるハーフレンはしばらく殴られてからようやく思い出した。

 確かユニウ要塞の反乱の際に首謀者の名前に『ゾング』とあったはずだ。


「お前はユニウ要塞で死んだはずでは?」

「思い出したかハーフレン! 上司の名を! 私たちはユニウ要塞から脱出し生き残ったのだ! それもこれもお前たちユニバンス王家に復讐する為にっ!」


(上司……居たか?)


 スッパリとゾングの存在を忘れていたハーフレンは思い出せない。

 思い出せないのなら考えるだけ無駄だと判断し……思考を別の方へと向ける。


 そうなるとあっちの男がセルグエと言う前大将軍なのだろうか?


「そっちがセルグエか?」

「違う。従兄弟のゴーンズだ」

「ならセルグエは?」

「ユニウで焼かれて死んだよ」


 グイッとゴーンズと名乗った男がフレアの首に刃を立てる。新しく生じた傷から鮮血がこぼれた。


「この娘の一族の秘匿魔法でな」


 (つまり復讐と言うことか)


 納得し、ハーフレンは沸々と自分の腹の中で怒りが燃えるのを感じた。




「ババア~!」

「何だい駄犬」

「流石に数が多い! 無理っ!」

「頑張りな。全部男だと思えば少しはやる気も出る」

「あは~! こんなにたくさんの男が私に群がって……無理~!」


 洞窟の外では、まだミシュとスィークが戦線を維持していた。




~あとがき~


 人質が敵に協力している状況で結構大ピンチなハーフレン。そしてノイエも苦戦中です




(c) 甲斐八雲

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