つまりお前が悪い

「あ~っはは! 少しは楽しませてくれるようになったじゃ無いかっ! もっとだよ! もっと根性出してアタシを喜ばしなっ!」


 現場に辿り着いたら、背中から竜の首を生やした大男に馬乗りになったオーガさんが大暴れしていた。

 あの~? 首を伸ばしたドラゴンが噛みついてるのに、どうしてそんな笑顔で殴り続けられるんですか? バトルマニア過ぎるでしょう?


「うわ~。オーガさんが絶好調だな~」

「ですね」

「被害が広がりそうだからルッテ止めて来て」

「無理無理無理無理、無理ですって。あんな化け物の同士の殴り合いを止められるのは隊長くらいです」

「……遠回しでノイエを化け物扱いしたから、今度辛いケーキを作って完食させてやる」

「辛いケーキってどんな嫌がらせですかっ!」


 パーティーグッズ的な感じで販売したら売れる気がするんだけどな。

 激辛わさび寿司な感覚で外れを引いた罰ゲームって、ハズレを引いた時点で罰ゲームか。


「もう少し根性を見せなよっ!」


 抱え上げて地面に頭から叩き落す。

 怪獣映画でもこんなバトルは見たこと無いわ。


「でも……あれって弱ってる風に見えないんだけど?」

「ですね」


 しばらく一方的に攻撃するオーガさんを見ていたが、相手の巨人が弱る風に見えない。

 下手をすると傷が癒えているようにも見える訳で……そうなると倒せなくない?


「お~い。ちょっと」


 オーガさんと一緒に倉庫の方へと向かわせた近衛の騎士さんを呼びよせる。

 まあ流石にあれと一緒に戦う剛の者なんて居ないから、全員が見学に回っていた。


「何かご用でしょうか。アルグスタ様」

「あれってずっとああして殴り合ってるの?」

「ええ。一度は四肢をバラバラにしたのですが、背中にドラゴンの首を生やしてから復活して……それ以降トリスシア女史とゴブリアスが殴り合っています」

「ふ~ん」


 やはり弱っていない感じか。こっちが困ったよ。


「って、ゴブリアス? 誰よ?」

「あっはい。トリスシア女史と殴り合っている男です。ユニウ要塞での反乱の折にハーフレン王子にその首を断たれ絶命したものだと思っていたのですが」

「ふ~ん」


 つまりあれってとっくの昔に人間辞めてるのね。

 さっきから結構きつい臭いがしてるし。


「ルッテさんや」

「はい?」

「オナラした?」

「なっ!」


 お尻を押さえて彼女の顔が真っ赤になった。


「しませんっ! 嫁入り前の女の子はオナラなんてしないんですっ!」

「嫁入り後でもしてやるな」


 軽口はここまでで良いか。


「ルッテの弓でオーガさんに当てずにあれを射ることは出来る?」

「この距離なら出来ますよ」


 あれだけ暴れ回っているのに……ルッテって意外と出来る子なのね。


「なら矢を貸して」

「はい。どうぞ」

「ん~。これくらいかな」


 軽く祝福を使って矢に力を纏わせる。

 これでダメージが入れば、あれはドラゴンと言うことになるので僕の祝福で消せるな。


「一発どうぞ」

「はい」


 ひょいと矢を受け取ったルッテが軽く弓を引いて矢を放つ。


 物凄く無造作で適当に放った感じに見えたが、巨人の背中から生えているドラゴンの頭に命中する。

 ズンッと低い音を発してドラゴンの頭が消失した。


「うわ~。ルッテさんマジどんな怪力ですか?」

「え~っ! 何か今の絶対に違いますって!」

「嫌々……こう矢がねじ込むようにドラゴンの頭を抉ったじゃないですか~」

「ただ普通に撃っただけです!」

「普通があれか~。ルッテさんマジ怖いわ~」

「さっきから全力で私を貶めようとしてるのは何故ですかっ!」

「ノイエが傍に居ないからイライラするんです」

「そんな理由でっ!」


 あと巨人に当てて欲しかったのに、ドラゴンの頭を狙ったと言うことに対しての非難です。


「はいルッテ。もう一本」

「ってアルグスタ様が矢の方に何か細工してますよね!」

「自分……不器用なんで」

「意味が解りませんっ!」


 渡された矢に適当に力を流す。本当に不器用だからこの力加減が難しいのよね。


「今度は巨人の胸にでも当ててみて」

「それだとトリスシアさんに当たるかも?」

「当てたら後で殺されて。外したら辛いケーキの刑を味のしないケーキの刑に格下げしましょう」

「それってまだ続いてたんですかっ!」


『はぅぅ~』と泣き言を言いながらルッテは矢を番え、今回は真面目に狙いを定める。

 あれだけ胸が大きくて良く弓の弦が当たらない物だな……あっ擦ってるわ。


 放たれた矢がオーガさんの脇を抜けて巨人の胸に突き刺さる。

 ジワジワと消化するように巨人の皮膚を腐らせ始めた。


「馬鹿王子! そこで遊んでるなら構わないけど邪魔するなら一緒に畳むよ!」

「オーガさんがさっさと倒さないのが悪いんです」

「……言うね。見てな」


 肩回りの筋肉を膨らませて彼女が恐ろしい勢いで拳を叩きこみ出す。

ズンッ。ゴリッ。グチャッ……と、生々しくて耳を覆いたくなるような破壊音が響き、巨人ゴブリアスとやらはまたバラバラに分解された。


「これでどうだいっ!」


 首に食らいついているドラゴンの頭を引き剥がし、オーガさんが笑って地面に座り込む。

 打撃戦においては本当に規格外だな。


「でもまだ動いてるよ?」

「あん? しつこい男だね」


 うにょうにょと分解された肉塊が動き、集結してまた形を作ろうとしている。

 この恐ろしいばかりの生命力は脅威だわ。


「まだ続ける?」

「……いい加減殴り疲れたよ。何よりコイツは臭くて敵わん」

「だね」


 立ち上がった彼女は、興味を失くした様子で背伸びした。


「お前にくれてやるからさっさと倒しな。元々時間稼ぎの依頼だったんだしね」

「ほ~い。お代は子牛の丸焼きとワインを樽で」

「忘れるんじゃないよ」


 上着を脱いで上半身裸になった彼女が去っていく。


 あの~。一応貴女は女性だと言うことを忘れずに。周りに居る近衛の人たちだって……英雄を見る少年のようなキラキラとした瞳を見せてているな。

 この国の騎士は精神的にマニアックな人が多過ぎる。


「ルッテ」

「はい?」

「筋肉に目覚めてしまった騎士たちを正気に戻すために、いっちょ脱いでみるとかどう?」

「アルグスタ様……そろそろ本当に怒りますよ?」

「やれやれ。彼氏が出来るとノリが悪くなるのね~」

「そんな……彼氏だなんてっ」


 頬を紅くして恥じらう彼女は、彼氏があれの弟だと知っているのだろうか?


「……ゴロズ……ゼンブ……」


 ようやく立ち上がるまでに回復した巨人に対して、僕は腰の袋に手を伸ばす。

 おはじき程度の大きさの小石を手に取って、力を流して武器にする。


「まずは足」


 何個か投げると巨人の両足が消えた。

 周りの人たちがギョッとしているけど……今にして思うとこの力って隠す気でいたんだよね。


「つまりお前が悪い。失せろ」


 足を完全に失い動けなくなっている存在に残りの小石を投げつける。

 その全てに肉を、存在を抉られて……巨人は完全に消えた。




~あとがき~


 やる気は無くても今回は結構マジギレしているアルグスタなのであった




(c) 甲斐八雲

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