結構本気で逃げろ~!

「フレアさんが?」

「ふぁい……」


 頭に葉っぱなどを大量に纏わり付かせているが、アーネス君は無事だった。

 何となくノイエに聞いたら『ぶつかってない』ととても分かりやすい返事だったので、それ以上追求はしない。


 彼女には本来の仕事に戻って貰い、手にしたプレートに魔力を流してまた擦りだした。

 そんなことで発動する訳が無いはずだが、過去ノイエはそうやって何度か発動しているらしい。

 手品のネタを知る僕としては、『先生か……』と理解していた。


「アルグスタ様? 聞いてますか?」

「あっごめん。色々と衝撃が強すぎて」

「ですよね? はうぅ~」


 少年のようにマジ泣きする年上男性の存在が正直うざい。


 ただあの堅物フレアさんが不貞って……まあ相手はあの筋肉ダルマだろう。つまりあの2人は遠征に出て寄りを戻して結婚したくなったって感じ? だったらフレアさんが逃げる意味が分からない。欲情したあの筋肉ダルマがフレアさんの尻を追っているのなら話は別だ。


「でもな~。アーネス君」

「ふぁい?」

「僕としては酷い言葉しか言えない気がするけど……あのフレアさんが一度決めたことだから、引っ繰り返すのは難しいと思うよ?」

「はぅぅ~」


 泣くなよ。気持ちは分からなくもないけど。


「何だろう。きっと時間が解決してくれるから、今はいっぱい泣いてさ……で、新しい相手を探すのもいいかもね?」

「フレアの他なんて考えられないですっ!」

「うん。振られた野郎は最初みんなそう言うモノだって」


 とは言え、時間が経てば心の傷も癒えて別の女性を探し出すのだ。

 生物学的に男性は異性を探し求める傾向があると言うし、きっとアーネス君も傷が癒えたら新しい相手を探し始めるはずだ。


 それでも諦められずフレアさんを付け狙うようだと、ストーカーなどと言う言葉が無いこの世界でも対外的に拙い。

 ある種立派な犯罪行為なので処罰の対象になる。


「分かった。なら部下の責任を取って、僕が君の理想の相手を探してあげようじゃないか」

「だからフレアが」

「まあまあ……そう言うアーネス君だって理想の異性像ってあるでしょ? 背がもう少し欲しいとか。胸がもう少し欲しいとか。巨乳が良いとか。それ以上でも良いとか」

「どうして胸限定なんですか?」

「言ってたらそっちの方向に転がっただけです」


 他意は無い。ただ巨乳好きの筋肉ダルマが、良くフレアさんサイズで妥協したなって。

 普通に考えてフレアさんの胸は決して大きくない。小さい部類だと思う。


「まあここだけの話として聞くからさ……ちょこっと語ってみなって」

「そうですね……」


 男って本当に単純だよな。こうして卑猥なネタを振れば釣れるんだしね。

 世の女性に聞かれたら凄く冷たい視線を向けられそうな気がするよ。

 うん。今のノイエみたいに、叩かれ潰れた黒いカサカサを見下すような物凄く冷たい目をね。


 って先生? これは決してフレアさんを悪く言っているのではなく、円満に解決するための……円満解決?


 その瞬間僕の中に何かが舞い降りた。希望と言う名の堕天使だ。


「大人しい人が良いです」

「それは見た目かな?」

「えっと……両方?」


 ふむふむ。普段の彼女は大人しいな。


「外見は? 胸とかはどう?」

「別に胸へのこだわりは」

「落ち着いて考えようかアーネス君」

「はい?」

「大きい胸も悪くないよ」


 相手の耳に口を寄せて具体的な巨乳例を語る。

 勿論あっちの世界に居た頃に仕入れた『年齢的に見ちゃダメアダルトなマンガな本』に描かれていた事柄だ。聞き入ったアーネス君が頬を紅くして何度も頷いた。


「ちょっと興味があります」

「人間正直が一番です」


 つまり巨乳も大丈夫だと。後は……あれの問題か。


「で、男女の営みはどう?」

「ふぅえぇ?」

「どう? 激しいのが好き? 相手が迫って来るような方が良い? それとも自分で相手を屈服させて征服する方が好み?」

「征服ですか? ……出来るんですか?」

「出来ます」


 きっぱりと言い切る。

 うちの場合は圧倒的な戦力不足で常に征服されまくりな気がするが、最近だとファシー相手なら連戦連勝中だ。つまり決して負けていない。トータルで五角ぐらいだ。


「女性だって男性の強さを見たい時があるのです。だからアーネス君も攻められてばかりではなく、攻めることも必要だと僕は声を大にして言いたい」


 本当に何を言ってるんだろう? 絶対零度の視線を向けて来るお嫁さんの前で僕は?


「そんな風になれるのは……ちょっと憧れます」

「うむうむ。今までずっと攻められ続けてたらしいしね」

「……はい」


 頷き認めるアーネス君はきっと悪くない。悪いのは彼を攻め続けた恋人だろう。

 これである程度決まった。後は相手の実家の威光を聞きつつ、可能であればモミジさんとアーネス君をくっ付けてしまえば良いのだ。


 フレアさんに攻められ続けた変態な彼ならば、モミジさんと良い関係になれるかもしれない。

 その逆を求められたら知らん。勝手にレベルアップし合ってくれ。


「ならその方向で探してみるよ」

「……でも本当は」

「未練なのは分かるけど、いつまでも下を向いてたらいい出会いを得られないぞ」


 青春マンガのアドバイス役的な言葉を口にして、僕はポンポンとアーネス君の肩を叩いた。

 あはは~。さて……そろそろ次の問題に立ち向かうとするか。


 覚悟を決めてノイエの方に顔と体を向けると、何故か彼女は自身の右腕に光り輝く雷を纏わせていた。

 あ~うん。雷が龍のように見えるね。うん。


 軽く首を振って、可愛いお嫁さんが涼やかな視線を向けて来た。


「アルグ様?」

「何かな? ノイエ」

「……死ね」


 一瞬素の先生に戻り、彼女がこっちに腕を向ける。

 回避~! 全力で……結構本気で逃げろ~!




~あとがき~


 変態娘を変態少年に押し付けるプランを考えだしたのは良かったが、先生激おこモードでプレート発動っす




(c) 甲斐八雲

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