恐ろしく長い1年だったな

「もう1年か」


 新年の式典に向け、王都内は厳かな空気に包まれていた。


 ハーフレンはそんな様子を城の一室から見つめていた。

 現在は空き部屋となっているその部屋は、いずれ彼の執務室となることが決まっている。窓からの景色を気に入った彼が"王子"の肩書を使って仮押さえしているのだ。

 正式な騎士でも無い彼が個室を持つなど、王子として振る舞うのなら可能だ。だがハーフレンは騎士となり、最終的には近衛団長になると自分の意志で決めている。


「恐ろしく長い1年だったな」


 密度は驚くほどに濃く、余りにもすることが多過ぎた1年を振り返ってみる。


 去年は式典に参加せずブシャール砦へ向かい、帝国兵と戦った。

 それが終わり王都に戻れば魔女との戦いが待っていた。

 後は大切な存在を……それはまあ良い。彼としては"あれ"は無かったことにしている。


 準騎士となり書類仕事の山と戦いながら、自分の不調を知った。

 剣が振れない。それもかなり酷かったが最近では振ることも出来る。


 王妃の屋敷から別の屋敷へ移動したのに……毎日のようにあの家に行っては馬鹿と化け物を相手に拳を振るい続けた。

 お陰で自分の弱さを再確認した。そう……やはり自分は弱いのだ。

 だから自分は何も護れない。国も、家族も、何より大切な存在も。


 コンコンッ


「失礼しますハーフレン様」

「ん?」

「ご用意が出来ました」

「分かった」


 メイドの呼び出しに彼は騎士では無く王子としての仕事に向かう。

 去年は実施できなかった祝福を持つ者を探し出す儀式にだ。




「調査の結果……どうもこれは数えで5歳以上から反応を示すようです」


 丸1日かけて行われた儀式を終え、シュニットがその報告を上げて来る。


 真面目にコツコツと仕事を行う彼は、このような調査には向いているのだろう。

 自分だったら放り投げて逃げ出してしまうとハーフレンは自信があった。


「それで新しく増えたのか?」

「はい。西に1人……新しい反応があります」


 王国内の主要の街を細かく調べた結果、西に1人分の数が増えたことが分かった。


「ならばその者をどうする?」

「はい。人員を派遣し、まず五歳相当の子供たち洗い出します。それで来年時を決め、式典の後に地域ごとに集まるよう仕向けます」

「そこで確認すれば地域を絞れると?」


 国王の問いに長子たる彼が頷く。


「はい。後はその地域の子供たちを隈なく調査します。別に地域が絞れているのなら聖板を用いて後日捜索することも出来ますので」

「面倒ではあるがな」


 だが祝福を持つ者は国内にそう多くない。去年の出来事もあって数がだいぶ減っている。


「なあ親父よ?」

「……ハーフレン。だいぶスィークに毒されていないか?」

「ああ済まん。それで1つ疑問なんだが良いか?」


 父親と兄との会話が途切れた瞬間にハーフレンが疑問を挟む。


「もし儀式に参加して居ない者が祝福を持っていたらどうなるんだ?」

「うむ。考えたくも無いが可能性は大いにある」

「そうだよな」


 机に広げられている地図は決して小さくない。

 それも使用している地図は、昔の再現不可能な技術で作られた物の写しであって決して正確とは言えない。街の位置がずれている可能性もあるし、元々地図に乗っていない街もあり得るのだ。


 そうなると正確な地図を作り直し再度全てを調査しなければいけない。

 正直多忙を極める王家の者がするには無理がある。


「あれだな。これ専門で人を置きたいぐらいだな」

「シュニットと同じことを言うな。一応王家に伝わる神聖な儀式なんだぞ」

「神聖な儀式と言ってもな……」


 ハーフレンはそれ以上の言葉を発することなく口を閉じた。


「確かに効率は悪い」


 容赦のない兄が引き継いではっきりと言ってくれた。


「お前らは何だ……効率ばかりで物もごとを考え過ぎだ。効率を突き詰めれば世の中つまらなくなるぞ?」

「具体的には?」


 ハーフレンの問いに国王の目が泳いだ。


「……結婚なんて効率が悪いであろう? 1人の女に縛られるなんて何て恐ろしい」

「親父は縛られる生き方の方が好きだと思ったがな」

「うむ。だがリアが言うのだ。『私に出来ないことは外に求めても良いですよ』とな。理解のある妻を得た儂が頑張らないでどうするか!」


 力説する父親に次子たる彼は呆れながら頭を掻いた。


「だからと言ってメイドに手を出して回るな。俺の知らない子供がどれほど増えている?」

「うむ。案ずるな。全てリアの元に送られ育てられている」


 我が子を妻の玩具代わりに与えているような行為は賛同出来ないが、それでも少しずつ回復して来た母親が子供を抱いて笑っているという話を聞くとハーフレンは何も言えなくなる。

 ただし物心つく前に母親の手から子供たちは離される。その姿を他言させない為の配慮だ。


「まあ良い。祝福を持つ者の捜索はシュニットが、勧誘はハーフレンが行え」

「「はっ」」

「次の問題は増加を続けるドラゴンだ」


 去年から増加傾向となっている大陸中を席巻している大問題だ。

 特に大陸の北部が酷く、国が1つ落ちたと言う噂すらある。


「帝国も共和国もドラゴンの対応に追われ戦争どころでは無い。国境の兵を呼び戻しドラゴンの対応に宛てているが……知っての通り国内の北部でドラゴンの強襲があった。ケインズを差し向けたが、彼らですら防戦で手一杯らしい」

「小父さんの小隊がですか?」

「ああ。そこでシュゼーレ将軍が押し進めている、重装歩兵による防御を固めてドラゴンを相対する方向に舵を切ろうと思っている。ユニバンスは昔から護ることを得意としているからな」


 攻められ続ける国の悲しい過去を皮肉る国王に、息子たちは苦笑いを浮かべた。




~あとがき~


 内容としたら本当に長い一年でした。

 追憶③以降の為に割愛していますが、あの日の話を書いたら何話分プラスになることか。

 違う? そっちの意味での長いじゃないって?

 ただハーフレンからすればブシャールで始まり地獄を見た1年ですね。


 ドラゴンたちによる北部の強襲でその地域の村々が食うに困ることに。

 ノイエが口減らしに遭うのは、これから間もなくです。

 この話は追憶③か、ノイエが施設から保護されてアルグと出会うまでの『白き少女』編でやるかも?


 ちなみに本文の西の方で見つかった祝福持ちはルッテのことです。

 この後『祝福持ちの捜索』を本人が知らない状態で勝手に協力させられた挙句、『あっ使える』とその祝福を見たハーフレンが小脇に抱えて王都に連れ帰ろうとしたとか。


 この話って…やることあるのかな?

 書こうと思えば書けるし差し込めるけど、気が向いたらですかね?




(c) 甲斐八雲

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