最強にして最恐の力
「一歩間違えば死んでましたっ!」
「だからその時は祝福を使うだろうと……」
「咄嗟に使えませんっ!」
胸を張って威張れるようなことじゃ無いよ?
朝、昼とドラゴン退治は無事に終えた。
まあ昼の実験でモミジ爆弾を使用したせいで爆弾本人が大激怒だけど。
「鉄壁の祝福を使ってくれないと僕の祝福を防げるか分かんないでしょ?」
「だから咄嗟に使えないんです!」
なぜ胸を張る?
「何で使わないの?」
「わたしは修行の邪魔になるので、この力の使用を極力抑えて来ました。だからその……使いたくても咄嗟には」
納得。あの妹ラブなお姉ちゃんの育成ミスか。
ならば体で覚えて使えるようになれば良いってことか。
「良し特訓だ」
「はい?」
サッと相手が身構えた。
「今からまた下に落とすから」
「……」
「大丈夫。カタナには薄く祝福を纏わせるから……斬れなくなったら祝福を使って防御。そこに僕が小石を撒くから」
「いやぁ~」
頭を抱えてしゃがみ込んで震えだした。
「大丈夫。たぶん怪我1つ負わないよ?」
「たぶんって何ですか!」
「世の中には事故はつきものだから?」
「そんな理由で死にたくな~いっ!」
壊れたぐらいに震えだしたからこの特訓は無理そうだな。
僕の認識では、サムライは単騎で敵陣に突撃するものだと……あっこれ使えるな。後で使おう。
「嫌がるのを無理やり勧めるのも気が引けるしね。ドラゴンが集まるまで待ちかな」
「……はい」
どうにか立ち直った彼女が、まとめて置いてある食料を持って来てくれた。
今回の食事は戦時中に携帯することを考えて作り出したス〇ッカーズ的な物だ。本当はカ〇リーメイト的な物を作る予定だったが、あれって量があると水が無いと飲み込めないから泣く泣く没にした。
携帯食として作り出した物は、堅過ぎないクッキーに木の実と水あめを混ぜた物を纏わり付かせただけ。本当はチョコでコーティングしたかったけど、溶けて大変なことになるから要改善中である。
味より栄養を重視した物なので……ぶっちゃけ甘すぎる。
「食べ過ぎたら太りそうだね」
「ですね。お茶が欲しくなります」
「出来たら渋いのが良いね」
「はい」
並んで座って黙々と食べる。
うむ。これを売るとなるともう少し手直しと味の調整が必要だな。
「木の実のお陰でお腹には貯まるけどね」
「ただ味が濃すぎて1本食べるのが限界です」
「うむ」
塩気を求めて次に干し肉へと手を伸ばす。
「アルグスタ様?」
「はい?」
「……今回はどうしてその~」
「ん?」
干し肉を咥えてむしりながらモミジさんを見る。
困ったような、言い難そうな感じで彼女は口を開いた。
「アルグスタ様は祝福を秘密にしてて使いたがらないと聞きました」
「馬鹿兄貴でしょ?」
「いいえ。フレア先輩です」
そっちか。あの2人……グルになって探ってやがるな?
今度から気をつけないとな。言えない秘密が増えて大変だし。
「ん~。ドラゴン退治は僕の仕事じゃ無いしね。ノイエの楽しみを奪ったら悪いでしょ?」
「ですがその力を使えばもっとこう……出世が出来るとか?」
「あ~無い無い。そんな面倒臭い」
「えっ?」
心底意外そうな顔を向けられたよ。逆にこっちがその反応に驚きだよ。
「僕は常々言ってるけど、働きたくなんて……まあ少しはやるけどさ。でも本当にノイエと仲良くのんびり生活出来たら幸せなんだ」
「……」
そう。とっても贅沢な幸せだ。
「ノイエと遊びに行ったり、甘えたり、のんびり時間を無駄に過ごしたり……出来たらその輪の中に子供が加わってくれたら最高かな。
僕の願いはそんな感じであって、出世してバリバリと仕事するとか考えたくも無いのです」
今だって結構どころかヤバいぐらい忙しいしね。
「ならどうして今回は?」
「ん? うん……頭に来たからかな」
「はい?」
今回の理由は主にそれだ。
「チビ姫が尖塔に監禁されたのは知ってるでしょ?」
「あっはい」
顔を彼女に向ける。
齢が近いこともあってモミジさんが執務室に来るとチビ姫が突撃を敢行して良く抱き付いていた。
『もう少し頑張って欲しい胸です~』と独自の解釈的な声を上げていたが。
ルッテ基準で胸を判断すると、この世は貧乳だらけになるぞ?
「馬鹿兄貴と一緒に拘束しに行ったんだけどさ……その時腹いっぱいケーキを食べてから捕まったんだよ? 本当にチビ姫らしい馬鹿な行動なのに泣きそうになった。僕よりも幼い癖に確りと覚悟してたんだ」
「……」
正座している彼女はギュッと両手で太ももの上のスカートを握り締める。
普段天真爛漫な一面しか見せていないチビ姫を知る人ならその気持ちは分かる。
真面目が似合わない。馬鹿をして笑っているのが良く似合う女の子なんだ。
「それを見た時に思った。『なんでチビ姫がこんな目に遭わないといけないんだろ?』って、そう思ったら腹の底から頭に来てね……だから今回は全力全開で行くと決めた」
よっと声を上げて立ち上がると壁の下を見る。またドラゴンの成体が集まりだしていた。
「帝国はもちろん、共和国の人たちにも骨の髄まで教えてやるってね」
「何をですか?」
「そんなの決まっている」
手に残っている干し肉に祝福を纏わらせて、僕は大きく振りかぶった。
「僕の身内に手を出したらどうなるか、そしてこの国のドラゴンスレイヤーがどれ程恐ろしいのか……その両方をさっ!」
全力で投擲した干し肉の直撃を受けたドラゴンが、胴体に大穴を開けて四散した。
「そんな訳で手伝ってくれるかな?」
「……分かりました。わたしに出来ることなら」
柔らかく笑ったモミジさんに右手を差し出して握手する。
でも僕の世界にはこう言う格言的な物がある。
右手で握手し左手には銃を……つまりカタナに触れて祝福を使う。
「じゃっ早速」
「はい? って、きゃぁぁああ~!」
ドーンと押したら悲鳴と共にモミジさんが消えた。
結果報告。
『モミジさんの祝福に僕の祝福は弾かれる』
まっ実験なんてしなくても解りきっていたことなんだけどね。
何より人体にも影響は無いしね。普段ノイエが纏って拳を振るってる訳だしさ。
この祝福は"限定的"なだけで融通は全く利かない。最強にして最恐の力を持っている。
それをノイエの夫である僕に渡すなと言いたいだけだ。
(c) 甲斐八雲
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