妄想は我の自由だ~!

『ノイエが酔っ払ったらもっとこう……ね? 情熱的に生殖活動が行えるのかを実験しました。結果として寝ているノイエにいくらお酒を飲ませても意味が無いと言うことが分かったので今後はしません』と、苦しいを通り越して無理だろうと言う言葉を口にしながら、不機嫌なノイエに土下座したのが今朝のこと。


 案の定許してくれる訳もなく、終始無言で2人でお城に行って……今日は『また後でね』のキスも無しです。

 怒った様子でアホ毛をブンブン振り回しているノイエの背中に終始手を合わせて謝り続けて……僕も行動を開始した。


 串刺しさんことカミーラは、ヒントをくれた。

 落ち着いて考えればこの2つには共通のキーワードがある。


 例の子供たちが発狂して人々を襲った事件とドラゴン……どちらも『10年前』が共通するワードだ。

 10年前のある日、一定の力を持った若い男女が発狂したかのように狂い人々を襲った事件。

 そして10年前からその数を右肩上がりで増やしているドラゴンたち。


 つまり……どう言うことでしょう? 探偵をっ! 名探偵をお願いしますっ!

 辺りを見渡してもそんな人は居ないので、仕方なく替わりに僕が推理しよう。

 うん。分からない!

 馬鹿が何を考えても答えに辿り着ける訳がない。


「まずは情報集めからかな」


 探偵の基本は足だと……何かの本で見たな。漫画だったっけ?

 それを実践すべく歩き出そうとして止まる。何処に行けば良いんだ?


 お城の書庫の資料はある日を境にごそっと消失している。誰が持ち出したのかは謎のままだ。

 知っていそうな人物だと……パパンとお兄様と筋肉馬鹿か。この3人は鎮圧に兵を動かしていたから詳しいだろうけど、下手なことをしてこっちを探られると面倒臭い。

 メイド長は……と言うか、お城の関係者は止めておこう。誰がどんな地雷に化けるか分かったもんじゃない。そうなるとフレアさん辺りもダメだな。


「10年前か……」


 知り合いでその時代のことを知ってそうなのは……あの人しかいないか。

 問題は聞きに行った所で会話が成立するのかと、あと事件自体をどの程度把握しているのかも怪しいな。


「まっ行ってみるか」




「患者よ! 我が問いに答えろ!」

「診察しないで質問ですか?」

「治っている腕を見て我に何をしろと? それよりも問いだ!」


 バサッとマントを翻してお馬鹿な医者が僕を見る。


「どうして我は女性の胸を見ると、こう……興奮するのだろうか?」

「男性として正常だからですかね?」

「しかし尻を見ても、こう……ムラムラしたものが込み上がって来る」

「込み上がってくる程度なら問題無いんじゃないですか? 何かしたら捕まえますが」

「うむ。手は出していない。だが頭の中で妄想し、表に決して発表できないようなことをするのは自由であろう!」

「違うものが"発表"されちゃいそうだから止めましょうね」

「だが妄想は我の自由だ~!」


 パタンッ!


 勢い良くドアが開くと先生が口を閉じて大人しく椅子に座った。

 室内に険しい視線を向けて来た助手であり先生の"娘"さんが……一通り睨んでドアを閉じた。

 娘さんの気配が尋常じゃ無かった。何より先生が素直過ぎる。


「先生」

「何だ」

「何をしたんですか?」


 本日はどこぞの闇医者のように黒い格好をした医者が、バサリとマントをはためかした。


「最近色気づいた気がしてな……確認がてら風呂を覗いたら、それ以降口も利いてくれん」

「それは圧倒的に先生が悪いですね。僕は彼女の味方をすることにします」

「汚いぞ患者よ! 我の立場と変わってみると楽しいぞ? 食事が近所の野良猫より質が劣るとか……とてもとても貴重な体験をだな」

「お断りします」


 丁重にお断りを入れた。

 猫の餌に劣るって……猫まんま以下のメニューが思いつかないよ。

 しばらく頭を抱え『だがしかし確実に胸が膨らんだ気が……』などとほざく先生が、正気に戻るのを待つ。

 それに女性の胸は育たなくても膨らむことがあるんです。細工をすればね。


「……して患者よ。何しに来た?」

「適当に巻いた腕のプレートが悪さしていないか確認して貰いに」

「うむ。前回微調整したから大丈夫なはずだぞ? だがお主が来ると娘の機嫌が良くなる」


 物凄く理不尽な理由で先生が僕の腕を確認してくれる。

 娘さんの機嫌が良くなる理由は、いつもニコニコ現金払いを実施しているからだろう。


 相変わらず先生の手が皮膚やら肉やらを貫通して内部を確認して来る。正直気持ち悪い。


「うむ。乱れも無いな。余程高品質のプレートを使ったと見える」

「まあお金だけはありますので」


 だからこそ持ってる人は率先して使うを実施してます。


「異常は無いぞ」

「どうもです」


 桶で手を洗い出した先生に……まっ当たって砕けよう。


「先生」

「何だ」

「先生って……10年前の事件の時は何処に居たんですか?」

「……」


 軽く首を傾げた先生は、ポンと手を叩いてこっちを見た。


「良く覚えておらん。その後に事故に遭ったらしくてな……記憶が無いのだ」

「そうですか」


 アカ~ン。先生の記憶喪失を綺麗さっぱり忘れていた。


「どうした? あの事件を調べているのか?」

「はい」

「うむ……ならばあの者を訪ねると良い」

「誰ですか?」


 何処か面倒臭そうに先生が顔を向けて来た。


「国王陛下。ウイルモット様だ」


 それが出来ないから困ってるんですけどね?




~後書き~


質問が来そうなので予防線を。

嘘吐きは主人公だけじゃありませんから




(c) 甲斐八雲

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